第176ターン 窃盗犯?蘭子の窮地
不慮の事故から身体の自由を失った高校生、日乃本純は格闘ゲームのプロを目指して立ち上がる。涙と感動の格ゲー小説。
蘭子親衛隊長の新井が恭しく茶封筒を蘭子に手渡す。ウフフッと悪戯っぽく笑いながら資料を取り出す蘭子、だが目は笑っていない。
固唾を飲んでその様子を見守るチーム夢原の面々と神獣倶楽部、そして関帝廟に集まった観衆達。
「よくご覧なさい、これが帝国大研究チームがまとめた格ゲーリハビリの草稿ですワ。その内容はお父様のものと瓜二つ!」
蘭子の弾劾に観衆達は、すわ盗まれた論文かと騒ぎ出し騒然となる。勝ち誇った顔で蘭子が事務長に一瞥をくれる。さあ、なんか言い訳してみなさいよ、そう挑発をしているようだ。
「おい、事務長さんや。進退窮まったんとちゃうか?」
隙かさずルンペンのオッチャンが事務長を追及する。その表情は公安の刑事も顔負けの凄みだ。
「ククク、、、」
「おいコラ、何が可笑しいんや?思わせぶりな芝居打っても、トンズラでけへんで!」
低く笑い出した事務長にピシャリと言い放つルンペンのオッチャン。今度は鬼検事の形相で観念しろと凄んでみせる。
「あのう、お嬢サマ、、その論文の日付をご覧下さい、ハイ。」
何サ、と蘭子が論文を確認すると、それは既に十数年も前の日付のものだった!
「な、なんと、、木浪伸之介が、帝国大チームが先に格ゲーリハビリの研究していた也か?」
驚きを隠せない蛭田が思わず声を上げる。息を飲む花崎や音々。クー子は要領を得ないのか、makoやム〜ドの表情を見比べてそのシリアスなトーンに合わせて眉をしかめて見せる。
「そもそもお嬢サマ、その研究資料はどうやって手に入れたのですか?まさか、、では無いですのはよね、ハイ。」
痛い所を突いてくる事務長。蘭子に窃盗の容疑がかけられたのだ。
つづく
人物紹介
・日乃本 純 ひのもと じゅん
本作の主人公。元は少林寺拳法に汗を流す高校二年生。事故で障がいを負い格ゲーでリハビリ中。バト2では日本人空手家リョウを使う。一人称は俺っち。
・クー子 くーこ
純の真ダチ。児童クラブ時代からの付き合い。ハイカラな東京言葉を使うが、実は関西出身。女子プロレスラー、セイント・リカの遣い手。
・音々 ねね
純の姉。両親を早く亡くした純の母親代わり。苦学して一家を支える博識。ゲーマーだった父の死を悔み、純をゲームから遠ざけてきた。
・花崎 誇 はなさき ほこる
医療法人花崎会の跡取り。純のライバルで格ゲー仲間。アメリカンな空手家ゲンを使う。一人称はミー。
・夢原 省吾 ゆめはら しょうご
伝説のプロゲーマー。落ちぶれ飲んだくれに。純と花崎の指導者としてゲーム界に復帰。かつて純と音々の父、日乃本尊に格ゲーと人生を学んだ。
・花崎蘭子 はなさき らんこ
花崎の妹。兄を侮る高慢な女子高生。自分こそが花崎家の跡取りに相応しいと思っているようだ。一人称はアタクシ。
・蛭田恭介 ひるた きょうすけ
元蘭子の親衛隊長。今はニヒリストを気取り文学と格ゲーに耽る。一人称は小生。
・日乃本尊 ひのもと たける
純と音々の父にして、夢原の師匠。格ゲー黎明期の知る人ぞ知る英雄。
・神獣倶楽部 しんじゅう くらぶ
青木、白井、玄田の格ゲー三人組。日乃本尊の実相を知るとされる。
・ム〜ド む〜ど
夢原が自分の代わりに純らのもとに送りこんだ新コーチ。ちょっとエッチでお尻が好き。
・mako まこ
ム〜ド同様、夢原の仲間で純らの新コーチ。大阪からやって来た理系女子。
・Drケーシー花崎 ドクターケーシーはなさき
医療法人花崎会の理事長にして、花崎兄妹の父。純に格ゲーによるリハビリを指導中。
・事務長 じむちょう
医療法人花崎会の事務方トップにして、花崎家の執事。どうも怪しい動きを、、、
・ルンペンのオッチャン
自らを自由なる人と呼ぶ初老の男。makoの知人らしい。
・ロードバトラー2
人気の格闘ゲーム。略称バトツー。リョウ、ゲン、ダル・シン、ハシミコフ、チャンリー、ゲイルなど多彩な格闘家が集う。某有名格闘ゲームとは無関係。