第174ターン 誰が?俺っちの格ゲーリハビリ漏洩事件
不慮の事故から身体の自由を失った高校生、日乃本純は格闘ゲームのプロを目指して立ち上がる。涙と感動の格ゲー小説。
「そうなのだ!ワタシの研究が、厚労省とのコラボ案件が盗まれたのだ!」
なんと観衆に紛れていたDr.ケーシー花崎が堪らず声を上げたのだ。周りから、なんだなんだと驚きの声が上がる。
「日乃本純を実験台にビデオゲームを使ったリハビリ理論を完成させ、厚労省さんにお声がけして健康保険適用をご審議いただき、ソフト会社からロイヤリティをせしめ、、」
オイオイ泣くな、興奮したらあかん。ハナシがかえって見えんようになるで、そうルンペンのオッチャンはドクターを窘めると蘭子に向き直ってあらためて追求する。
「さて、アンタのオヤジさんが言うたとおり、アンタら家族の思惑はどっかから漏れて、とんだ皮算用となったワケや。そして、」
皆まで言わなくてよくってよ、ルンペン。そう言ってオッチャンを制止すると、蘭子がついにその重い口を開いた。
「我が家のトップシークレット、それが外に漏れた。誰が漏らしたのか。アタクシのスーパーコンピューターで弾いたところ、」
そう言って自分の頭を指差した蘭子が、その人差し指をズバッと向けてまさに指弾する。
「事務長!格ゲーリハビリを外部に漏洩したのは、あなたじゃありませんこと?ア〜ハッハッハッ!」
十八番の高慢ちきな嘲笑モードを爆発させる蘭子。いつもの彼女が戻ってきた。すると彼女に強い敵愾心を燃やすクー子も負けじと吠える。
「フンッ、何言ってんのさ!アンタは神獣倶楽部のメンバー、てことは事務長の一味ナノダ!仲間割れすんじゃないヨ!」
そういうことや、アンタらの仲間割れの原因を聞きたい。なぁ事務長さん、アンタ何か言いたいことあるんとちゃうんか?例の藪睨みで事務長の言を引き出すルンペンのオッチャン。身なりからは想像できない、一流のファシリテーションだ。
「なんか、あのオジサン、聞いたことなぞっているだけのような、、」
と、ム〜ドが本質的な一言を洩らすと、makoも苦笑しながら、多分そうやわ。知ったかぶりしてるけど、どうせオッチャン何も知らんわ。
「でも不思議な話芸があって、キタの立ち飲み屋ではカリスマやったんやで。」
噴き出しそうな笑いを堪えるmako。大阪時代の思い出が蘇ったのだろう。
「さぁ、話してもらおか、事務長さん。真実はいつも一つやで!」
つづく
人物紹介
・日乃本 純 ひのもと じゅん
本作の主人公。元は少林寺拳法に汗を流す高校二年生。事故で障がいを負い格ゲーでリハビリ中。バト2では日本人空手家リョウを使う。一人称は俺っち。
・クー子 くーこ
純の真ダチ。児童クラブ時代からの付き合い。ハイカラな東京言葉を使うが、実は関西出身。女子プロレスラー、セイント・リカの遣い手。
・音々 ねね
純の姉。両親を早く亡くした純の母親代わり。苦学して一家を支える博識。ゲーマーだった父の死を悔み、純をゲームから遠ざけてきた。
・花崎 誇 はなさき ほこる
医療法人花崎会の跡取り。純のライバルで格ゲー仲間。アメリカンな空手家ゲンを使う。一人称はミー。
・夢原 省吾 ゆめはら しょうご
伝説のプロゲーマー。落ちぶれ飲んだくれに。純と花崎の指導者としてゲーム界に復帰。かつて純と音々の父、日乃本尊に格ゲーと人生を学んだ。
・花崎蘭子 はなさき らんこ
花崎の妹。兄を侮る高慢な女子高生。自分こそが花崎家の跡取りに相応しいと思っているようだ。一人称はアタクシ。
・蛭田恭介 ひるた きょうすけ
元蘭子の親衛隊長。今はニヒリストを気取り文学と格ゲーに耽る。一人称は小生。
・日乃本尊 ひのもと たける
純と音々の父にして、夢原の師匠。格ゲー黎明期の知る人ぞ知る英雄。
・神獣倶楽部 しんじゅう くらぶ
青木、白井、玄田の格ゲー三人組。日乃本尊の実相を知るとされる。
・ム〜ド む〜ど
夢原が自分の代わりに純らのもとに送りこんだ新コーチ。ちょっとエッチでお尻が好き。
・mako まこ
ム〜ド同様、夢原の仲間で純らの新コーチ。大阪からやって来た理系女子。
・Drケーシー花崎 ドクターケーシーはなさき
医療法人花崎会の理事長にして、花崎兄妹の父。純に格ゲーによるリハビリを指導中。
・事務長 じむちょう
医療法人花崎会の事務方トップにして、花崎家の執事。どうも怪しい動きを、、、
・ルンペンのオッチャン
自らを自由なる人と呼ぶ初老の男。makoの知人らしい。
・ロードバトラー2
人気の格闘ゲーム。略称バトツー。リョウ、ゲン、ダル・シン、ハシミコフ、チャンリー、ゲイルなど多彩な格闘家が集う。某有名格闘ゲームとは無関係。




