第170ターン 絶望王子、蛭田かく語りき
不慮の事故から身体の自由を失った高校生、日乃本純は格闘ゲームのプロを目指して立ち上がる。涙と感動の格ゲー小説。
格ゲーマーの始祖、父の日乃本タケルの在りし日の姿。それを詳しく知りたいがために受けて立った神獣倶楽部とのバトツー対戦。
しかしもう、それもいい。今の純には最早どうでもよくなってしまった。
格ゲーとの出会いが仕組まれたもので、自分がある研究のモルモットだったことを知った今、もう格ゲーに、そして自分のルーツに関心は無くなった。
ゲームなんてくだらない。オタク族どもの慰みものなどきれいさっぱり忘れてしまい、これまでのネアカに戻ればいい。恥ずかしい、馬鹿げた数ヶ月だった。
深く失望し、対戦ブースを後にした日乃本純。会場の関帝廟を独り後にしようとした時。あの男が純を制止した。絶望王子こと、チーム夢原第四のゲーマー、蛭田恭介だ。
「待つ也、待つんだ日乃本氏。貴殿はかつて小生になんと言った?」
「、、、」
「格ゲーに向き合え、逃げるな。画面の中の自分を磨け、小生にそう言ったハズ也。」
無駄に無為に思えた我が青春にもう一度、命を吹き込んでくれたのは、日乃本氏、貴殿ではないか、蛭田はそう言うと純が置き去ったコントローラーを手に取って純に突き出した。
「さあ、もう一度コントローラーを握る也。格ゲーと向き合うんだ!」
つづく
人物紹介
・日乃本 純 ひのもと じゅん
本作の主人公。元は少林寺拳法に汗を流す高校二年生。事故で障がいを負い格ゲーでリハビリ中。バト2では日本人空手家リョウを使う。一人称は俺っち。
・クー子 くーこ
純の真ダチ。児童クラブ時代からの付き合い。ハイカラな東京言葉を使うが、実は関西出身。女子プロレスラー、セイント・リカの遣い手。
・音々 ねね
純の姉。両親を早く亡くした純の母親代わり。苦学して一家を支える博識。ゲーマーだった父の死を悔み、純をゲームから遠ざけてきた。
・花崎 誇 はなさき ほこる
医療法人花崎会の跡取り。純のライバルで格ゲー仲間。アメリカンな空手家ゲンを使う。一人称はミー。
・夢原 省吾 ゆめはら しょうご
伝説のプロゲーマー。落ちぶれ飲んだくれに。純と花崎の指導者としてゲーム界に復帰。かつて純と音々の父、日乃本尊に格ゲーと人生を学んだ。
・花崎蘭子 はなさき らんこ
花崎の妹。兄を侮る高慢な女子高生。自分こそが花崎家の跡取りに相応しいと思っているようだ。一人称はアタクシ。
・蛭田恭介 ひるた きょうすけ
元蘭子の親衛隊長。今はニヒリストを気取り文学と格ゲーに耽る。一人称は小生。
・日乃本尊 ひのもと たける
純と音々の父にして、夢原の師匠。格ゲー黎明期の知る人ぞ知る英雄。
・神獣倶楽部 しんじゅう くらぶ
青木、白井、玄田の格ゲー三人組。日乃本尊の実相を知るとされる。
・ムード むーど
夢原が自分の代わりに純らのもとに送りこんだ新コーチ。ちょっとエッチでお尻が好き。
・mako まこ
むーど同様、夢原の仲間で純らの新コーチ。大阪からやって来た理系女子。
・Drケーシー花崎 ドクターケーシーはなさき
医療法人花崎会の理事長にして、花崎兄妹の父。純に格ゲーによるリハビリを指導中。
・事務長 じむちょう
医療法人花崎会の事務方トップにして、花崎家の執事。どうも怪しい動きを、、、
・ロードバトラー2
人気の格闘ゲーム。略称バトツー。リョウ、ゲン、ダル・シン、ハシミコフ、チャンリー、ゲイルなど多彩な格闘家が集う。某有名格闘ゲームとは無関係。