第167ターン 俺っち、魔人カトーのコンボに敗れる
不慮の事故から身体の自由を失った高校生、日乃本純は格闘ゲームのプロを目指して立ち上がる。涙と感動の格ゲー小説。
「日乃本クン!今は対戦に集中だッ、コンセントレート!」
チーム夢原のカピタン花崎が堪らず純に声をかける。が、純はそれを敢えて無視するように反応しない。花崎への蟠りが未だ解けていないのだ。
そんな気もそぞろな純・リョウに青木・カトーは容赦なくラッシュを加える。屈み小キック✕、立ち小キック✕、踵落としの連弾←→✕へと技を繋ぎリョウに防御の暇を一切与えない。
「魔人カトーのコンボか。敵は中々デキる也、、」
チーム夢原の文士、蛭田が警戒感を顕にする。コンボにタメ技を混ぜる辺りはかなりのテクニックやわ、コーチmakoも蛭田の意見に同意する。
どうやら青木のコンボの精度は純らの上を行くようだ。あっと言う間にリョウの体力を奪い取ってしまった。
「おやおや、日乃本純。アナタの実力はこんなもんですか?あ〜情けない、あの日乃本タケルの子でありながら。ウヒヒ。」
攻勢を取る不快指数200%男、青木龍一郎は口も滑らか。挑発しては場内の不快指数を上昇させる。すると判官贔屓か、関帝廟の聴取が純に声援を送り始める。すると、
「シャラーップ!お黙りなさいッ!」
蘭子が辺りを見回し、怒声で以て周囲を威圧する。まるでタッグマッチでエプロンサイドで待機する悪役レスラーのようだ。これには会場からブゥーと反発が湧き上がり、これに一層キレる蘭子。今、彼女はどの会場も満員に出来るドル箱のヒールに成長しつつある。
本日のメインイベント、最終試合の決戦は神獣倶楽部側の見事な悪役ぶりで、今や爆発せんばかりの盛り上がりを見せる。それが彼らのナチュラルな資質によって生まれていることは興味深い。
世には根っからの嫌われ者がいるのだろう。歪んだ情念を格ゲーにぶつける劣情の徒党、花崎蘭子と神獣倶楽部。
自分より強い相手を探し求め、己を磨くために格ゲーを続けるチーム夢原の若き使徒たち。この正反対の二組の最終決戦の第1ラウンドはあろうことか、悪役チームが先取する運びとなった。
サイキックアタック、魔人カトーの必殺技がリョウに決まると敢なく、リョウの体力ゲージはゼロとなった。
カトー、ウィン!
最後までペースを掴むことが出来なかった純、その理由がメンタル面にあることは間違いない。暫く沈黙を守っていた純の親友クー子がついに声を上げた。
「純、ちょっと聞いてな。」
つづく
人物紹介
・日乃本 純 ひのもと じゅん
本作の主人公。元は少林寺拳法に汗を流す高校二年生。事故で障がいを負い格ゲーでリハビリ中。バト2では日本人空手家リョウを使う。一人称は俺っち。
・クー子 くーこ
純の真ダチ。児童クラブ時代からの付き合い。ハイカラな東京言葉を使うが、実は関西出身。女子プロレスラー、セイント・リカの遣い手。
・音々 ねね
純の姉。両親を早く亡くした純の母親代わり。苦学して一家を支える博識。ゲーマーだった父の死を悔み、純をゲームから遠ざけてきた。
・花崎 誇 はなさき ほこる
医療法人花崎会の跡取り。純のライバルで格ゲー仲間。アメリカンな空手家ゲンを使う。一人称はミー。
・夢原 省吾 ゆめはら しょうご
伝説のプロゲーマー。落ちぶれ飲んだくれに。純と花崎の指導者としてゲーム界に復帰。かつて純と音々の父、日乃本尊に格ゲーと人生を学んだ。
・花崎蘭子 はなさき らんこ
花崎の妹。兄を侮る高慢な女子高生。自分こそが花崎家の跡取りに相応しいと思っているようだ。一人称はアタクシ。
・蛭田恭介 ひるた きょうすけ
元蘭子の親衛隊長。今はニヒリストを気取り文学と格ゲーに耽る。一人称は小生。
・日乃本尊 ひのもと たける
純と音々の父にして、夢原の師匠。格ゲー黎明期の知る人ぞ知る英雄。
・神獣倶楽部 しんじゅう くらぶ
青木、白井、玄田の格ゲー三人組。日乃本尊の実相を知るとされる。
・ムード むーど
夢原が自分の代わりに純らのもとに送りこんだ新コーチ。ちょっとエッチでお尻が好き。
・mako まこ
むーど同様、夢原の仲間で純らの新コーチ。大阪からやって来た理系女子。
・Drケーシー花崎 ドクターケーシーはなさき
医療法人花崎会の理事長にして、花崎兄妹の父。純に格ゲーによるリハビリを指導中。
・事務長 じむちょう
医療法人花崎会の事務方トップにして、花崎家の執事。どうも怪しい動きを、、、
・ロードバトラー2
人気の格闘ゲーム。略称バトツー。リョウ、ゲン、ダル・シン、ハシミコフ、チャンリー、ゲイルなど多彩な格闘家が集う。某有名格闘ゲームとは無関係。