第165ターン 俺っち、人間不信に陥る
不慮の事故から身体の自由を失った高校生、日乃本純は格闘ゲームのプロを目指して立ち上がる。涙と感動の格ゲー小説。
「両者、ゲーミングチェアに!」
レフェリーのピカピカ先生が純と青木に対戦準備を促す。純の父、格ゲーマーの始祖こと日乃本タケルの秘密を賭けた団体戦、チーム夢原と神獣倶楽部の最終戦が今、始まろうとしている。
しかし、純の心は千々に乱れている。花崎蘭子の暴露、陰謀論がチーム夢原の団結をズタズタにした。この横浜遠征で育った小さな輪、チーム夢原の連帯感は、蘭子の底意地の悪い憶測と強烈な悪意とによって粉々に砕かれようとしている。
純は想像を止めることが出来ない。チームメイトの花崎も蛭田も、そして夢原らコーチ陣も全てDr.ケーシー花崎の手先だったのか?
そう言えば、格ゲー初めての対戦相手はクー子の昔馴染み達だった。どうやったらあんな彼奴が突然現れるんだ?え、まさかクー子までがケーシーに手を貸していたのか、、、
「日乃本クン、ファイト!」
どうしょうもなく気まずい雰囲気の中、花崎がなんとか純に声をかける。が、そんな月並みな声援に純は無反応で白けた表情を見せる。
人間不信。雌雄を決する乾坤一擲の大勝負を前にメンタル面で完全にヤラれてしまった純。疑いが自分にも及んでいることを敏感に悟っているコーチmakoは作戦を授けることを躊躇っている。
「いやぁ、あんな話を聞かされたら落ち込みますよねぇ。御気の毒様、ウヒヒ。」
不快指数200%男、青木龍一郎がコントローラーをカチャカチャと鳴らしながら、追い打ちの口撃を仕掛けてくる。日頃の純なら倍のお返しをするところだが、完全に打ちのめされた純には反論一つさえ出来やしない。
フンッ、サッサとキャラ選べよ!既に勝利したかのような自信と余裕で、青木が乱暴な口をきいてくる。自分はといえば、ロードバトラー2のボスキャラ、魔人カトーを選んで既に臨戦態勢だ。
「何してるの純!しっかりしなさい!!」
姉の音々の叱責にようやく我に返った純はコントローラーを操って空手家リョウを選択したのだった。
つづく
人物紹介
・日乃本 純 ひのもと じゅん
本作の主人公。元は少林寺拳法に汗を流す高校二年生。事故で障がいを負い格ゲーでリハビリ中。バト2では日本人空手家リョウを使う。一人称は俺っち。
・クー子 くーこ
純の真ダチ。児童クラブ時代からの付き合い。ハイカラな東京言葉を使うが、実は関西出身。女子プロレスラー、セイント・リカの遣い手。
・音々 ねね
純の姉。両親を早く亡くした純の母親代わり。苦学して一家を支える博識。ゲーマーだった父の死を悔み、純をゲームから遠ざけてきた。
・花崎 誇 はなさき ほこる
医療法人花崎会の跡取り。純のライバルで格ゲー仲間。アメリカンな空手家ゲンを使う。一人称はミー。
・夢原 省吾 ゆめはら しょうご
伝説のプロゲーマー。落ちぶれ飲んだくれに。純と花崎の指導者としてゲーム界に復帰。かつて純と音々の父、日乃本尊に格ゲーと人生を学んだ。
・花崎蘭子 はなさき らんこ
花崎の妹。兄を侮る高慢な女子高生。自分こそが花崎家の跡取りに相応しいと思っているようだ。一人称はアタクシ。
・蛭田恭介 ひるた きょうすけ
元蘭子の親衛隊長。今はニヒリストを気取り文学と格ゲーに耽る。一人称は小生。
・日乃本尊 ひのもと たける
純と音々の父にして、夢原の師匠。格ゲー黎明期の知る人ぞ知る英雄。
・神獣倶楽部 しんじゅう くらぶ
青木、白井、玄田の格ゲー三人組。日乃本尊の実相を知るとされる。
・ムード むーど
夢原が自分の代わりに純らのもとに送りこんだ新コーチ。ちょっとエッチでお尻が好き。
・mako まこ
むーど同様、夢原の仲間で純らの新コーチ。大阪からやって来た理系女子。
・Drケーシー花崎 ドクターケーシーはなさき
医療法人花崎会の理事長にして、花崎兄妹の父。純に格ゲーによるリハビリを指導中。
・事務長 じむちょう
医療法人花崎会の事務方トップにして、花崎家の執事。どうも怪しい動きを、、、
・ロードバトラー2
人気の格闘ゲーム。略称バトツー。リョウ、ゲン、ダル・シン、ハシミコフ、チャンリー、ゲイルなど多彩な格闘家が集う。某有名格闘ゲームとは無関係。