第161ターン 奇策、クー子のマイクアピール!
不慮の事故から身体の自由を失った高校生、日乃本純は格闘ゲームのプロを目指して立ち上がる。涙と感動の格ゲー小説。
蘇生した蘭子・チャンリーの攻勢に対して、博打覚悟で新技を指示する専任コーチのム〜ド。○△同時押しをクー子に命じた。もう後が無い。
初級プレイヤーには簡単ではない○△同時押し、これを大一番で求められたセイント・リカを操るクー子。その運と勝負強さが問われている。
ええぃ、ままよ!とクー子が素早く○△を同時押し。親指の腹を巧みに使って○△ボタンに均しく圧力を加える繊細な仕儀。同時押しの要諦はここにあり。リカが叫ぶ。
「お前、チャン・リーだろ!」
何だありゃ!純が大きな声を上げると、ホワッツハップン!?花崎もイングリッシュで唱和する。いつもはクールな蛭田もタマゲたと洩らしてしまう。何より当のクー子が一番驚いている。
「ぎゃ!ドラゴンマイク*が出たノダ!ム〜ドっち、なんナノダ?!」
[註]生涯現役のプロレスラー、藤波辰爾氏が会社の意に反して覆面レスラーの本名を暴露した有名過ぎるマイクアピール。ここではリカがチャン・リーの名前を呼びつけるオマージュとなっている。
○△同時押しは女子プロレスラー、セイント・リカの隠し技、マイクアピールだった。ム〜ドが語る。
「マイク中は相手の攻撃が無効化され、その上マイクを投げつけ相手にダメージを与える、リカのスペシャルホールド。」
この特殊技を即興で出して見せ、チャン・リーにマイクをぶつけてダメージを奪ったクー子・リカ。見慣れない技を喰らった蘭子・チャンリーは何が起きたのか分からない。ここで攻守が交代し、クー子が主導権を取り戻す。
「な、何ですかッ、失礼ですわ!これでも喰らいなさい!」
反射的に百発蹴を狙う蘭子。✕ボタンをヒステリックに連打してしまう。不測の事態に陥った時、どのように対処するのか。
慎重さと大胆さの二択、その結果はとどの詰まり運でしかないのかもしれない。
コンマ一秒の世界の中で二人のJKが選んだそれぞれのキー操作は彼女達を勝者と敗者に分かちてみせた。
チャン・リーの安易な攻撃を見抜き、ガードしきったリカ。反撃が確約される中で、リカはヘッドロックでチャン・リーの頭部を固めると自らジャンプ一番、顔から地面に叩きつけた。
セイント・リカのブルドッキングヘッドロックが鮮やかに決まるとチャン・リーの体力ゲージはゼロを指し示す。会場の関帝廟が歓声に包まれると、その熱狂を窘めるかのようにレフェリーが厳かに宣告する。
セイント・リカ、ウィン!
つづく
人物紹介
・日乃本 純 ひのもと じゅん
本作の主人公。元は少林寺拳法に汗を流す高校二年生。事故で障がいを負い格ゲーでリハビリ中。バト2では日本人空手家リョウを使う。一人称は俺っち。
・クー子 くーこ
純の真ダチ。児童クラブ時代からの付き合い。ハイカラな東京言葉を使うが、実は関西出身。女子プロレスラー、セイント・リカの遣い手。
・音々 ねね
純の姉。両親を早く亡くした純の母親代わり。苦学して一家を支える博識。ゲーマーだった父の死を悔み、純をゲームから遠ざけてきた。
・花崎 誇 はなさき ほこる
医療法人花崎会の跡取り。純のライバルで格ゲー仲間。アメリカンな空手家ゲンを使う。一人称はミー。
・夢原 省吾 ゆめはら しょうご
伝説のプロゲーマー。落ちぶれ飲んだくれに。純と花崎の指導者としてゲーム界に復帰。かつて純と音々の父、日乃本尊に格ゲーと人生を学んだ。
・花崎蘭子 はなさき らんこ
花崎の妹。兄を侮る高慢な女子高生。自分こそが花崎家の跡取りに相応しいと思っているようだ。一人称はアタクシ。
・蛭田恭介 ひるた きょうすけ
元蘭子の親衛隊長。今はニヒリストを気取り文学と格ゲーに耽る。一人称は小生。
・日乃本尊 ひのもと たける
純と音々の父にして、夢原の師匠。格ゲー黎明期の知る人ぞ知る英雄。
・神獣倶楽部 しんじゅう くらぶ
青木、白井、玄田の格ゲー三人組。日乃本尊の実相を知るとされる。
・ムード むーど
夢原が自分の代わりに純らのもとに送りこんだ新コーチ。ちょっとエッチでお尻が好き。
・mako まこ
むーど同様、夢原の仲間で純らの新コーチ。大阪からやって来た理系女子。
・Drケーシー花崎 ドクターケーシーはなさき
医療法人花崎会の理事長にして、花崎兄妹の父。純に格ゲーによるリハビリを指導中。
・事務長 じむちょう
医療法人花崎会の事務方トップにして、花崎家の執事。どうも怪しい動きを、、、
・ロードバトラー2
人気の格闘ゲーム。略称バトツー。リョウ、ゲン、ダル・シン、ハシミコフ、チャンリー、ゲイルなど多彩な格闘家が集う。某有名格闘ゲームとは無関係。




