第156ターン クー子、己を取り戻す
不慮の事故から身体の自由を失った高校生、日乃本純は格闘ゲームのプロを目指して立ち上がる。涙と感動の格ゲー小説。
飛び道具、弾アレルギー。クー子はこれにどう対処するのか。
格ゲーの原点にして頂点、このロード・バトラー2、略称バトツーには摩訶不思議な技がある。
それは格闘家が殴る蹴る投げ飛ばす以外に、いわゆる気功のようなエネルギー波を掌から放出し、あるいは口から炎を吐き出して遠距離から対戦相手を攻撃する特殊な技能。それが飛び道具、通称「弾」と言われるものだ。
子ども達の間でも人気の格ゲー、バトツー。影響され易いバトツーチルドレンはキャラクターのリョウやゲンを気取り「気流拳!」と叫んでは、そのポージングで戯れる。
微笑ましい光景だ。が、弾は今のクー子にとっては忌々しい、禍々しい苦手意識そのものなのだ。
ジャンプで弾をかわしながら、相手との距離を詰めて攻撃に繋ぐ、理屈は分かるが無傷でこれを行うには練度がいる。
「オイッ、クー子!油断するな、緞帳は上がっているぞ*!」
[註]緞帳は上がっている...舞台は始まっている。ここでは対戦が始まっているの意
「お嬢さ、、朱さん、やっちゃてくださいよぉ!」
不快指数200%男、青木龍一郎が第三戦の勝利を確信したのか、調子のいい軽口を叩く。グヒッ、グヒッと玄田亀吉も下品に呼応する。
優位に立った瓶底メガネの人民服、留学生の朱さんからも高慢ちきな哄笑が聞こえてきそうだ。気持ち良さそうに飛び道具、掌底波を打ち込んでくる。
これに消極的なしゃがみガードで耐えるクー子・リカ。その時だった。
「思い出せ、クー子ちゃん!キミはリカだ、スターレスラー、セイント・リカだ!」
「キャラになり切れ、リカになれ!そうすれば自然と指は動く、無意識に反応するんだ!」
そうだった!アタイはリカ、豊田真奈美さんみたいに華やかで素敵なスーパースター。ム〜ドの一喝に我らが下町の太陽クー子が目を覚ます。よっしゃあ、行くぞ〜!
「アタイの闘いは自由、型にハマらないフリースタイル。もう逃げないノダ!」
つづく
人物紹介
・日乃本 純 ひのもと じゅん
本作の主人公。元は少林寺拳法に汗を流す高校二年生。事故で障がいを負い格ゲーでリハビリ中。バト2では日本人空手家リョウを使う。一人称は俺っち。
・クー子 くーこ
純の真ダチ。児童クラブ時代からの付き合い。ハイカラな東京言葉を使うが、実は関西出身。女子プロレスラー、セイント・リカの遣い手。
・音々 ねね
純の姉。両親を早く亡くした純の母親代わり。苦学して一家を支える博識。ゲーマーだった父の死を悔み、純をゲームから遠ざけてきた。
・花崎 誇 はなさき ほこる
医療法人花崎会の跡取り。純のライバルで格ゲー仲間。アメリカンな空手家ゲンを使う。一人称はミー。
・夢原 省吾 ゆめはら しょうご
伝説のプロゲーマー。落ちぶれ飲んだくれに。純と花崎の指導者としてゲーム界に復帰。かつて純と音々の父、日乃本尊に格ゲーと人生を学んだ。
・花崎蘭子 はなさき らんこ
花崎の妹。兄を侮る高慢な女子高生。自分こそが花崎家の跡取りに相応しいと思っているようだ。一人称はアタクシ。
・蛭田恭介 ひるた きょうすけ
元蘭子の親衛隊長。今はニヒリストを気取り文学と格ゲーに耽る。一人称は小生。
・日乃本尊 ひのもと たける
純と音々の父にして、夢原の師匠。格ゲー黎明期の知る人ぞ知る英雄。
・神獣倶楽部 しんじゅう くらぶ
青木、白井、玄田の格ゲー三人組。日乃本尊の実相を知るとされる。
・ムード むーど
夢原が自分の代わりに純らのもとに送りこんだ新コーチ。ちょっとエッチでお尻が好き。
・mako まこ
むーど同様、夢原の仲間で純らの新コーチ。大阪からやって来た理系女子。
・Drケーシー花崎 ドクターケーシーはなさき
医療法人花崎会の理事長にして、花崎兄妹の父。純に格ゲーによるリハビリを指導中。
・事務長 じむちょう
医療法人花崎会の事務方トップにして、花崎家の執事。どうも怪しい動きを、、、
・ロードバトラー2
人気の格闘ゲーム。略称バトツー。リョウ、ゲン、ダル・シン、ハシミコフ、チャンリー、ゲイルなど多彩な格闘家が集う。某有名格闘ゲームとは無関係。




