第153ターン 朱さんの反撃、始まる
不慮の事故から身体の自由を失った高校生、日乃本純は格闘ゲームのプロを目指して立ち上がる。涙と感動の格ゲー小説。
レディ〜ファイ!ピカピカ先生のコールも堂に入ってきた。有名ディスクジョッキーを思わせる低音と巻舌がプロ顔負けだ。
第二ラウンドが始まる。
第一ラウンドを圧勝したクー子はその勢いのままに朱さんのチャン・リーに襲いかかる。ロングレンジのヒップアタックを繰り出すとこれがチャン・リーにクリーンヒット、幸先よく先手を取る。
「ようし、アンヨを狙ってやるノダ!」
果敢なクー子は攻め手を止めない、これがム〜ドが教えた自由な闘い、フリーファイトだ。チャン・リーの立ち上がり際に対してしゃがみ大キック↘R2をお見舞いする。
が、今度は朱さん・チャンリーがこれを読んでいてガードを硬く固めていた。まるで全てお見通しだ、と言わんばかりの雰囲気を醸す留学生の朱さん。そして、
「荒熊倒!」
必殺の投げ技でクー子・リカを地面に叩きつける。リカの体力ゲージがグッと減る。
「オイッ!クー子、調子に乗るなッ!人民服はオメェの技を読んでるゾ!」
純が堪らず声を上げると、ム〜ドも目先を変えて行こうと、クー子に指示を出す。仕切り直しとばかりにクー子はバックステップ。距離を取って立ち回りをリセットしようとした時、
「掌底波!」
なんと朱さん・チャンリーの掌から飛び道具が放たれた。かつてクー子がエド主水戦で即興で繰り出した、あのタメ技がリカを襲う。
「ワッワッ、ヤメレ〜!」
垂直ジャンプで弾*をかわしたリカだが、想定外の状況に心理的には一気に追い込まれた格好だ。
[註]弾...飛び道具のこと
「マズい。弾をかい潜り、相手との距離を詰めるスキルは、、クー子ちゃんには未だない。」
シビアな表情のム〜ド、口を真一文字に結ぶmako。チーム夢原の二勝目に暗雲が立ち込める。
つづく
人物紹介
・日乃本 純 ひのもと じゅん
本作の主人公。元は少林寺拳法に汗を流す高校二年生。事故で障がいを負い格ゲーでリハビリ中。バト2では日本人空手家リョウを使う。一人称は俺っち。
・クー子 くーこ
純の真ダチ。児童クラブ時代からの付き合い。ハイカラな東京言葉を使うが、実は関西出身。女子プロレスラー、セイント・リカの遣い手。
・音々 ねね
純の姉。両親を早く亡くした純の母親代わり。苦学して一家を支える博識。ゲーマーだった父の死を悔み、純をゲームから遠ざけてきた。
・花崎 誇 はなさき ほこる
医療法人花崎会の跡取り。純のライバルで格ゲー仲間。アメリカンな空手家ゲンを使う。一人称はミー。
・夢原 省吾 ゆめはら しょうご
伝説のプロゲーマー。落ちぶれ飲んだくれに。純と花崎の指導者としてゲーム界に復帰。かつて純と音々の父、日乃本尊に格ゲーと人生を学んだ。
・花崎蘭子 はなさき らんこ
花崎の妹。兄を侮る高慢な女子高生。自分こそが花崎家の跡取りに相応しいと思っているようだ。一人称はアタクシ。
・蛭田恭介 ひるた きょうすけ
元蘭子の親衛隊長。今はニヒリストを気取り文学と格ゲーに耽る。一人称は小生。
・日乃本尊 ひのもと たける
純と音々の父にして、夢原の師匠。格ゲー黎明期の知る人ぞ知る英雄。
・神獣倶楽部 しんじゅう くらぶ
青木、白井、玄田の格ゲー三人組。日乃本尊の実相を知るとされる。
・ムード むーど
夢原が自分の代わりに純らのもとに送りこんだ新コーチ。ちょっとエッチでお尻が好き。
・mako まこ
むーど同様、夢原の仲間で純らの新コーチ。大阪からやって来た理系女子。
・Drケーシー花崎 ドクターケーシーはなさき
医療法人花崎会の理事長にして、花崎兄妹の父。純に格ゲーによるリハビリを指導中。
・事務長 じむちょう
医療法人花崎会の事務方トップにして、花崎家の執事。どうも怪しい動きを、、、
・ロードバトラー2
人気の格闘ゲーム。略称バトツー。リョウ、ゲン、ダル・シン、ハシミコフ、チャンリー、ゲイルなど多彩な格闘家が集う。某有名格闘ゲームとは無関係。