第150ターン 留学生・朱さん反撃の狼煙を上げる
不慮の事故から身体の自由を失った高校生、日乃本純は格闘ゲームのプロを目指して立ち上がる。涙と感動の格ゲー小説。
おっ尻フリフリで相手を挑発するクー子。そのムーブはヒップアタックが十八番のセイント・リカ、彼女の使用キャラへのオマージュでもある。
小馬鹿にされた対戦相手の留学生、朱さんの怒りのボルテージは急上昇、ハイパーインフレだ。驚くべき速度と強度でキックボタン○を連打する。
チャン・リー必殺の百発蹴、もちろんクー子も先刻承知、なにせかつての自分の使用キャラ、基本的な立ち回りは心得ている。
何度も同じ技は食わないノダ!と、言わんばかりにガードを固めて、技の切れ目を待つ。そして小パンチを連打を挿し込んで反撃を加える。
「流れは悪くない、でも安すぎる*。万一相手の大技が決まると形成は逆転してしまう。」
[註]安い...ダメージが少ないことを指す。業界の粋なメタファー。
ム〜ドが懸念を独りごちた時、悪い予感が的中してしまった。ガードを固めるクー子・リカに対して、朱さん・チャンリーが
「荒熊倒!」
なんと、見事に投げ技を決めて見せた。ガードに対しては投げ、格ゲー憲章の第一条第一項だ。
相撲の喉輪の要領で相手を地面に叩きつける技、それはかつてクー子がエド主水戦で見せた奥義。それを朱さんに決められてしまった。
「、、侮れない相手ね。」
コーチmakoが親指を噛む。今更ながらクー子にもコンボを仕込んておくべきだったと悔恨する。が、今それを言っても詮無い、ム〜ドが指導したクー子のスタイルを信じるしかない。
つづく
人物紹介
・日乃本 純 ひのもと じゅん
本作の主人公。元は少林寺拳法に汗を流す高校二年生。事故で障がいを負い格ゲーでリハビリ中。バト2では日本人空手家リョウを使う。一人称は俺っち。
・クー子 くーこ
純の真ダチ。児童クラブ時代からの付き合い。ハイカラな東京言葉を使うが、実は関西出身。女子プロレスラー、セイント・リカの遣い手。
・音々 ねね
純の姉。両親を早く亡くした純の母親代わり。苦学して一家を支える博識。ゲーマーだった父の死を悔み、純をゲームから遠ざけてきた。
・花崎 誇 はなさき ほこる
医療法人花崎会の跡取り。純のライバルで格ゲー仲間。アメリカンな空手家ゲンを使う。一人称はミー。
・夢原 省吾 ゆめはら しょうご
伝説のプロゲーマー。落ちぶれ飲んだくれに。純と花崎の指導者としてゲーム界に復帰。かつて純と音々の父、日乃本尊に格ゲーと人生を学んだ。
・花崎蘭子 はなさき らんこ
花崎の妹。兄を侮る高慢な女子高生。自分こそが花崎家の跡取りに相応しいと思っているようだ。一人称はアタクシ。
・蛭田恭介 ひるた きょうすけ
元蘭子の親衛隊長。今はニヒリストを気取り文学と格ゲーに耽る。一人称は小生。
・日乃本尊 ひのもと たける
純と音々の父にして、夢原の師匠。格ゲー黎明期の知る人ぞ知る英雄。
・神獣倶楽部 しんじゅう くらぶ
青木、白井、玄田の格ゲー三人組。日乃本尊の実相を知るとされる。
・ムード むーど
夢原が自分の代わりに純らのもとに送りこんだ新コーチ。ちょっとエッチでお尻が好き。
・mako まこ
むーど同様、夢原の仲間で純らの新コーチ。大阪からやって来た理系女子。
・Drケーシー花崎 ドクターケーシーはなさき
医療法人花崎会の理事長にして、花崎兄妹の父。純に格ゲーによるリハビリを指導中。
・事務長 じむちょう
医療法人花崎会の事務方トップにして、花崎家の執事。どうも怪しい動きを、、、
・ロードバトラー2
人気の格闘ゲーム。略称バトツー。リョウ、ゲン、ダル・シン、ハシミコフ、チャンリー、ゲイルなど多彩な格闘家が集う。某有名格闘ゲームとは無関係。