第146ターン 俺っち、めくりを目撃する
不慮の事故から身体の自由を失った高校生、日乃本純は格闘ゲームのプロを目指して立ち上がる。涙と感動の格ゲー小説。
花崎・ゲンと白井・ガットの第三ラウンドは終盤戦に入る。距離の管理に一日の長がある白井の優位は動かない。
この対戦の負けは避けられない。が、日乃本クンに有効な立ち回りを見せておきたい、チームの勝利のためにミーはチャレンジする!花崎の決意はある意味悲壮だ。
「クックックッ。どうした駅前留学生、攻めてこないなら、このまま時間切れダゼエ。」
勝ちを確信した白井の口は滑らか。得意のスギちゃん節が冴え渡る、となると黙ってないのが純とクー子だ。
「ウルヘイ、偽スギちゃん!こっちはオサムちゃんで〜す!!」
と純が喚けば、ありぃ??と大袈裟に首を傾げる我らがクー子。必死の花崎を横に下等な舌戦を繰り広げるチーム夢原の双星。
あんたらアホか、邪魔やねん!とコーチmakoの怒声に首を竦める純とクー子。窮地にあってもユーモアを忘れない、それが二人のモットーだ。
対戦は続く、白井・ガットの飛び道具ムエタイショットが襲いかかる。これをなんとか垂直ジャンプでかわした花崎。コーチmakoがここぞと声をかける。チャレンジの価値はある、やってミソ!
「斜めジャンプ、○中キックや!」
ムエタイショットの再来をかわしてジャンプしたゲンが一回転しながら絶妙なタイミングで飛び蹴りをガットに放つ。ガットは隙かさず方向キーをガード→に傾ける、が!
「決まった、めくりや!」
makoが拳を突き上げ、ム〜ドがイエス!と叫ぶ。
ガットのガードが間に合わなかったのか?いや、ゲンの飛び蹴りはガットのガードを越えて、蹴り脚と反対の膝から脛がガットの後ろ頭を痛打した格好だ。
「今のナンナンですかぁ!反則ダショ!」
猛抗議する不快感200%男の青木、狼狽して顔色が変わる白井。ガットの体力ゲージは残り3分の1程度にまで減る。どうやら神獣倶楽部はめくりの技術を知らないようだ。
「相手の固いガードを崩す技、めくり。純坊、よう覚えておくんやで。」
コーチmakoの珍しく興奮した様子がこの技の難しさを物語っている。
つづく
人物紹介
・日乃本 純 ひのもと じゅん
本作の主人公。元は少林寺拳法に汗を流す高校二年生。事故で障がいを負い格ゲーでリハビリ中。バト2では日本人空手家リョウを使う。一人称は俺っち。
・クー子 くーこ
純の真ダチ。児童クラブ時代からの付き合い。ハイカラな東京言葉を使うが、実は関西出身。女子プロレスラー、セイント・リカの遣い手。
・音々 ねね
純の姉。両親を早く亡くした純の母親代わり。苦学して一家を支える博識。ゲーマーだった父の死を悔み、純をゲームから遠ざけてきた。
・花崎 誇 はなさき ほこる
医療法人花崎会の跡取り。純のライバルで格ゲー仲間。アメリカンな空手家ゲンを使う。一人称はミー。
・夢原 省吾 ゆめはら しょうご
伝説のプロゲーマー。落ちぶれ飲んだくれに。純と花崎の指導者としてゲーム界に復帰。かつて純と音々の父、日乃本尊に格ゲーと人生を学んだ。
・花崎蘭子 はなさき らんこ
花崎の妹。兄を侮る高慢な女子高生。自分こそが花崎家の跡取りに相応しいと思っているようだ。一人称はアタクシ。
・蛭田恭介 ひるた きょうすけ
元蘭子の親衛隊長。今はニヒリストを気取り文学と格ゲーに耽る。一人称は小生。
・日乃本尊 ひのもと たける
純と音々の父にして、夢原の師匠。格ゲー黎明期の知る人ぞ知る英雄。
・神獣倶楽部 しんじゅう くらぶ
青木、白井、玄田の格ゲー三人組。日乃本尊の実相を知るとされる。
・ムード むーど
夢原が自分の代わりに純らのもとに送りこんだ新コーチ。ちょっとエッチでお尻が好き。
・mako まこ
むーど同様、夢原の仲間で純らの新コーチ。大阪からやって来た理系女子。
・Drケーシー花崎 ドクターケーシーはなさき
医療法人花崎会の理事長にして、花崎兄妹の父。純に格ゲーによるリハビリを指導中。
・事務長 じむちょう
医療法人花崎会の事務方トップにして、花崎家の執事。どうも怪しい動きを、、、
・ロードバトラー2
人気の格闘ゲーム。略称バトツー。リョウ、ゲン、ダル・シン、ハシミコフ、チャンリー、ゲイルなど多彩な格闘家が集う。某有名格闘ゲームとは無関係。




