第144ターン 俺っち達の気づきと学び
不慮の事故から身体の自由を失った高校生、日乃本純は格闘ゲームのプロを目指して立ち上がる。涙と感動の格ゲー小説。
片足をプロペラ代わりにして、全身をコマのように回し相手を攻撃する技、烈風脚。これは同時に移動手段と一つとして用いられる場合もある。
垂直ジャンプと同時に烈風脚で宙の一段高い所を移動した花崎・ゲン。ガットの懐に入ったその奇抜なアイディアにコーチmakoも目を見張る。
「オタク族!隙かさずコンボだ!」
純が叫んだが、ゲンはしゃがみ小キックを連発する。これが連続して入り、ガットに反撃を許さない。
「フンッ、安い*ゼエ。そんなもの。」
[註]安い、はダメージが少ないの意。業界でお馴染みのスラング。
白井は複数の被弾を何するものぞと、しゃがみ小キックをガードすると安全牌の中キックで対抗する。
しかし、今度は花崎がこれを読んでいた。攻撃、攻撃、防御のリズムで相手を誘い、今度はしゃがみ小パンチではさみ込む。フレーム理論を意識した攻守の組み立てだ。
「鬱っ陶しいですねぇ、ペシペシと。」
不快指数200%男、青木が大げさに眉をしかめる。玄田がその通り、といった感じでグヒグヒと何度も肯く。
「マッタクだぜぇ!」
そう叫ぶと白井・ガットは小パンチを差し込み、小キックと繋げてムエタイアッパーのコンボを見事に決める。ゲンの体力は残り3分の1程度となる。
それでも花崎はめげる事なく、攻めを止めない。今度は前ステップとガードを組み合わせてガットとの距離を詰める。
「俺っち達はコンボを学んでスゲェ強くなったと思っていたけど、、、」
「そう、コンボを差し込む間合いに如何に入り込むか、それが一番の難所也。」
純の気づきを蛭田がフォローする。そして抜き差しならない真剣勝負の対戦で、ゲンの間合いを模索して見せる花崎。
それは純に繋ぐタスキでもあった。
つづく
人物紹介
・日乃本 純 ひのもと じゅん
本作の主人公。元は少林寺拳法に汗を流す高校二年生。事故で障がいを負い格ゲーでリハビリ中。バト2では日本人空手家リョウを使う。一人称は俺っち。
・クー子 くーこ
純の真ダチ。児童クラブ時代からの付き合い。ハイカラな東京言葉を使うが、実は関西出身。女子プロレスラー、セイント・リカの遣い手。
・音々 ねね
純の姉。両親を早く亡くした純の母親代わり。苦学して一家を支える博識。ゲーマーだった父の死を悔み、純をゲームから遠ざけてきた。
・花崎 誇 はなさき ほこる
医療法人花崎会の跡取り。純のライバルで格ゲー仲間。アメリカンな空手家ゲンを使う。一人称はミー。
・夢原 省吾 ゆめはら しょうご
伝説のプロゲーマー。落ちぶれ飲んだくれに。純と花崎の指導者としてゲーム界に復帰。かつて純と音々の父、日乃本尊に格ゲーと人生を学んだ。
・花崎蘭子 はなさき らんこ
花崎の妹。兄を侮る高慢な女子高生。自分こそが花崎家の跡取りに相応しいと思っているようだ。一人称はアタクシ。
・蛭田恭介 ひるた きょうすけ
元蘭子の親衛隊長。今はニヒリストを気取り文学と格ゲーに耽る。一人称は小生。
・日乃本尊 ひのもと たける
純と音々の父にして、夢原の師匠。格ゲー黎明期の知る人ぞ知る英雄。
・神獣倶楽部 しんじゅう くらぶ
青木、白井、玄田の格ゲー三人組。日乃本尊の実相を知るとされる。
・ムード むーど
夢原が自分の代わりに純らのもとに送りこんだ新コーチ。ちょっとエッチでお尻が好き。
・mako まこ
むーど同様、夢原の仲間で純らの新コーチ。大阪からやって来た理系女子。
・Drケーシー花崎 ドクターケーシーはなさき
医療法人花崎会の理事長にして、花崎兄妹の父。純に格ゲーによるリハビリを指導中。
・事務長 じむちょう
医療法人花崎会の事務方トップにして、花崎家の執事。どうも怪しい動きを、、、
・ロードバトラー2
人気の格闘ゲーム。略称バトツー。リョウ、ゲン、ダル・シン、ハシミコフ、チャンリー、ゲイルなど多彩な格闘家が集う。某有名格闘ゲームとは無関係。




