第143ターン 花崎から君へ
不慮の事故から身体の自由を失った高校生、日乃本純は格闘ゲームのプロを目指して立ち上がる。涙と感動の格ゲー小説。
「どうしたぁ、どうしたぁ!」
白井が花崎を挑発して攻撃を誘う。カウンター中心に組み立てたガットのファイトスタイルを攻略出来ない花崎・ゲン。
しかし、花崎はアグレッシブな闘い方を変えようとしない。方向キーを素早く↓↙←入力、そして同時に○ボタンを叩く。
「うなれ、親指!烈風〜脚!」
ゲンがコマのように回転しながら宙を前進しガットに接近するも、ガットは着地したゲンの脛への小キック、ムエタイアッパーへと繋ぐ。ゲンの体力ゲージがグッと減る。
「まだ、まだ!ネキストだ!」
花崎は続いて→↓↘のキー入力に□ボタン、ジャンプの短い飛竜拳を放つと、これを連発して見せる。まるで奇抜なダンスでも踊っているようだ。
「オイッ、魔法のmakoちゃん!オタク族が狂っちまったぞ。」
堪らず純がコーチmakoに訴える。今の花崎は捨鉢なのか、奇妙な技の連発に会場から失笑が漏れる。
「ちゃうよ、純坊。ヲタくんは今出来ることを最大限チャレンジしてるんや。どうすばゲンの距離を作れるか?」
makoの言にム〜ドが補足する。
「場合によってはこの試合を捨てて、距離の取り方を身をもって示しているんじゃないか。」
「身をもって?誰の為に?」
純の問いは愚問だった。ゲンとほぼ同じリーチ、同じ技、そして同じサイズと言えば、、、
「お、俺っちの、リョウの為にヒントを探してくれているのか?」
純が花崎の真意に気づいたと同時に花崎・ゲンは垂直ジャンプでムエタイショットをかわし、そのまま↓↙←入力と○ボタン。
「これならどうだ空中ぅぅ烈風〜脚!!」
つづく
人物紹介
・日乃本 純 ひのもと じゅん
本作の主人公。元は少林寺拳法に汗を流す高校二年生。事故で障がいを負い格ゲーでリハビリ中。バト2では日本人空手家リョウを使う。一人称は俺っち。
・クー子 くーこ
純の真ダチ。児童クラブ時代からの付き合い。ハイカラな東京言葉を使うが、実は関西出身。女子プロレスラー、セイント・リカの遣い手。
・音々 ねね
純の姉。両親を早く亡くした純の母親代わり。苦学して一家を支える博識。ゲーマーだった父の死を悔み、純をゲームから遠ざけてきた。
・花崎 誇 はなさき ほこる
医療法人花崎会の跡取り。純のライバルで格ゲー仲間。アメリカンな空手家ゲンを使う。一人称はミー。
・夢原 省吾 ゆめはら しょうご
伝説のプロゲーマー。落ちぶれ飲んだくれに。純と花崎の指導者としてゲーム界に復帰。かつて純と音々の父、日乃本尊に格ゲーと人生を学んだ。
・花崎蘭子 はなさき らんこ
花崎の妹。兄を侮る高慢な女子高生。自分こそが花崎家の跡取りに相応しいと思っているようだ。一人称はアタクシ。
・蛭田恭介 ひるた きょうすけ
元蘭子の親衛隊長。今はニヒリストを気取り文学と格ゲーに耽る。一人称は小生。
・日乃本尊 ひのもと たける
純と音々の父にして、夢原の師匠。格ゲー黎明期の知る人ぞ知る英雄。
・神獣倶楽部 しんじゅう くらぶ
青木、白井、玄田の格ゲー三人組。日乃本尊の実相を知るとされる。
・ムード むーど
夢原が自分の代わりに純らのもとに送りこんだ新コーチ。ちょっとエッチでお尻が好き。
・mako まこ
むーど同様、夢原の仲間で純らの新コーチ。大阪からやって来た理系女子。
・Drケーシー花崎 ドクターケーシーはなさき
医療法人花崎会の理事長にして、花崎兄妹の父。純に格ゲーによるリハビリを指導中。
・事務長 じむちょう
医療法人花崎会の事務方トップにして、花崎家の執事。どうも怪しい動きを、、、
・ロードバトラー2
人気の格闘ゲーム。略称バトツー。リョウ、ゲン、ダル・シン、ハシミコフ、チャンリー、ゲイルなど多彩な格闘家が集う。某有名格闘ゲームとは無関係。