第142ターン 花崎、苦闘の立ち回り
不慮の事故から身体の自由を失った高校生、日乃本純は格闘ゲームのプロを目指して立ち上がる。涙と感動の格ゲー小説。
「お、オタク族!危ねぇ、やられちまうゾ!」
思わず純が叫ぶが、花崎・ゲンは構わず白井・ガットと距離を詰める。ガットは得意の中キックで牽制し、リーチの違いを如何なく発揮する。
これを読んだゲンはバックステップでかわして、飛び道具の気流拳を放つ。が、これを垂直ジャンプでかわすガット。そして着地と同時に素早く飛び道具のムエタイショットを放って圧を強める。たまらずガードで逃れるゲン。
「makoさん、どーすんのサ?さっきのラウンドと同じ展開ナノダ!」
クー子に言われずとも花崎の苦境は見ての通りだが、コーチmakoとしてもこれと言って有効な指示が出せていない。大柄なガットに対して俊敏性、アジリティではゲンに分があるが、これにはプレイヤーのキー操作に相当の練度が要る。
「ぼぉっちゃ〜ん!頑張れ〜!」
事務長ら医療法人花崎会の応援団も声援を送るが、明らかに花崎劣勢の中では関帝廟に虚しく響くだけだ。
ガットの攻撃をくぐり抜け、ゲンの間合いで攻撃仕掛けねばならない。再びガットの懐に入ろうとする花崎・ゲン。前ステップで近づこうとするも、ムエタイショットの返り討ちに遭う。
「なんとまぁ、イングリッシュなんか使っちゃて、ちょっとは考えるタイプかと思いきやウィキペディア。」
「ナントカの〜、一つ覚えとかなんとか、グフフ。」
神獣倶楽部の青木と玄田がツープラトンの口撃で周囲の不快感を500%まで上昇させる科学反応、ケミストリー。
「勝ち目がないのに見苦しい。」
初めて留学生の朱さんが、小さな声だが、そう呟いた。流暢だ、留学生にしてはイントネーションに違和感がない。純の姉、音々には直感的にそう感じられた。
「ヲタくんは、対戦を諦めていないし、何かを考えているよ、きっと何かを。」
ム〜ドの言葉にmakoが深く肯いた。
つづく
人物紹介
・日乃本 純 ひのもと じゅん
本作の主人公。元は少林寺拳法に汗を流す高校二年生。事故で障がいを負い格ゲーでリハビリ中。バト2では日本人空手家リョウを使う。一人称は俺っち。
・クー子 くーこ
純の真ダチ。児童クラブ時代からの付き合い。ハイカラな東京言葉を使うが、実は関西出身。女子プロレスラー、セイント・リカの遣い手。
・音々 ねね
純の姉。両親を早く亡くした純の母親代わり。苦学して一家を支える博識。ゲーマーだった父の死を悔み、純をゲームから遠ざけてきた。
・花崎 誇 はなさき ほこる
医療法人花崎会の跡取り。純のライバルで格ゲー仲間。アメリカンな空手家ゲンを使う。一人称はミー。
・夢原 省吾 ゆめはら しょうご
伝説のプロゲーマー。落ちぶれ飲んだくれに。純と花崎の指導者としてゲーム界に復帰。かつて純と音々の父、日乃本尊に格ゲーと人生を学んだ。
・花崎蘭子 はなさき らんこ
花崎の妹。兄を侮る高慢な女子高生。自分こそが花崎家の跡取りに相応しいと思っているようだ。一人称はアタクシ。
・蛭田恭介 ひるた きょうすけ
元蘭子の親衛隊長。今はニヒリストを気取り文学と格ゲーに耽る。一人称は小生。
・日乃本尊 ひのもと たける
純と音々の父にして、夢原の師匠。格ゲー黎明期の知る人ぞ知る英雄。
・神獣倶楽部 しんじゅう くらぶ
青木、白井、玄田の格ゲー三人組。日乃本尊の実相を知るとされる。
・ムード むーど
夢原が自分の代わりに純らのもとに送りこんだ新コーチ。ちょっとエッチでお尻が好き。
・mako まこ
むーど同様、夢原の仲間で純らの新コーチ。大阪からやって来た理系女子。
・Drケーシー花崎 ドクターケーシーはなさき
医療法人花崎会の理事長にして、花崎兄妹の父。純に格ゲーによるリハビリを指導中。
・事務長 じむちょう
医療法人花崎会の事務方トップにして、花崎家の執事。どうも怪しい動きを、、、
・ロードバトラー2
人気の格闘ゲーム。略称バトツー。リョウ、ゲン、ダル・シン、ハシミコフ、チャンリー、ゲイルなど多彩な格闘家が集う。某有名格闘ゲームとは無関係。




