第141ターン 花崎、確定反撃に苦戦
不慮の事故から身体の自由を失った高校生、日乃本純は格闘ゲームのプロを目指して立ち上がる。涙と感動の格ゲー小説。
「ヲタくん、入りは慎重に!距離取って!」
コーチmakoの指示どおり、花崎はこれまでどおりの入りで緒戦に臨む。心理的に優位にある白井は受けて立つ格好でガード中心に対戦を組み立てる。
「飛び道具で時間稼ぎをしても、いずれはジリ貧になり候。さりとて攻めればカウンターの餌食也。」
近代の文士に心酔する蛭田が苦しい花崎の心中を代弁してみせる。確かに花崎の技術、手の内のカードに白井を凌駕する妙手は存在しない。では、どうすれば、、
「ミーに出来ること、ミーが今、為すべきことは、、」
画面の左上端に位置していた花崎が→→前ステップでゲンを前進させる。そしてしゃがみ大キックを白井・ガットにお見舞いする。
これに対して予め守備的に構えていたガットは、きっちりとガードしてゲンに反撃を食らわせる。ムエタイアッパー!狙いどおりの展開だ。
ガットの十八番がヒットしてたちまち体力ゲージが2割程減ってしまう花崎・ゲン。大技失敗後の隙というのは大きく手痛いしっぺ返しを食うことになる。
「う~ん、オタク族の技が相手に読まれているのノダ、大技の入りは危険極まりないないノダ。。」
下町の太陽、クー子が悔しさの臍を噛む。いつだって周りを明るくしてきたサンシャインが、今は覚えず不安の雲に翳っている、そんなところか。
それでも、我らが熱血漢、花崎がバディの日乃本純は懸命に相棒を鼓舞し続ける。
「ナイス、ナイスチャレンジ、オタク族!それを続けて行こう!」
すると、ちょいとエッチなコーチ、ム〜ドもナイスですネェ!と粋でクリスタルな合いの手を入れて、花崎を勇気づける。彼の80年代由来のユーモアが通じたかどうかは定かではないが。
「サンキューアンド、ベンキュー、エブリイワン!」
そう叫ぶと、花崎は意を決したかのように、愚直にも白井・ガットに立ち向かって行くのであった。
つづく
人物紹介
・日乃本 純 ひのもと じゅん
本作の主人公。元は少林寺拳法に汗を流す高校二年生。事故で障がいを負い格ゲーでリハビリ中。バト2では日本人空手家リョウを使う。一人称は俺っち。
・クー子 くーこ
純の真ダチ。児童クラブ時代からの付き合い。ハイカラな東京言葉を使うが、実は関西出身。女子プロレスラー、セイント・リカの遣い手。
・音々 ねね
純の姉。両親を早く亡くした純の母親代わり。苦学して一家を支える博識。ゲーマーだった父の死を悔み、純をゲームから遠ざけてきた。
・花崎 誇 はなさき ほこる
医療法人花崎会の跡取り。純のライバルで格ゲー仲間。アメリカンな空手家ゲンを使う。一人称はミー。
・夢原 省吾 ゆめはら しょうご
伝説のプロゲーマー。落ちぶれ飲んだくれに。純と花崎の指導者としてゲーム界に復帰。かつて純と音々の父、日乃本尊に格ゲーと人生を学んだ。
・花崎蘭子 はなさき らんこ
花崎の妹。兄を侮る高慢な女子高生。自分こそが花崎家の跡取りに相応しいと思っているようだ。一人称はアタクシ。
・蛭田恭介 ひるた きょうすけ
元蘭子の親衛隊長。今はニヒリストを気取り文学と格ゲーに耽る。一人称は小生。
・日乃本尊 ひのもと たける
純と音々の父にして、夢原の師匠。格ゲー黎明期の知る人ぞ知る英雄。
・神獣倶楽部 しんじゅう くらぶ
青木、白井、玄田の格ゲー三人組。日乃本尊の実相を知るとされる。
・ムード むーど
夢原が自分の代わりに純らのもとに送りこんだ新コーチ。ちょっとエッチでお尻が好き。
・mako まこ
むーど同様、夢原の仲間で純らの新コーチ。大阪からやって来た理系女子。
・Drケーシー花崎 ドクターケーシーはなさき
医療法人花崎会の理事長にして、花崎兄妹の父。純に格ゲーによるリハビリを指導中。
・事務長 じむちょう
医療法人花崎会の事務方トップにして、花崎家の執事。どうも怪しい動きを、、、
・ロードバトラー2
人気の格闘ゲーム。略称バトツー。リョウ、ゲン、ダル・シン、ハシミコフ、チャンリー、ゲイルなど多彩な格闘家が集う。某有名格闘ゲームとは無関係。




