第139ターン 発覚!万能型ゲンの根本的弱点
不慮の事故から身体の自由を失った高校生、日乃本純は格闘ゲームのプロを目指して立ち上がる。涙と感動の格ゲー小説。
「オイッ、エロガッパ、、ゲンの弱みってナンだよ?」
第1ラウンドを辛くも先勝した花崎・ゲン。が、第2ラウンドでは白井・ガットに完全に距離をコントロールされてしまう、つまり自分の技は当たらない、相手の技のみヒットするという、なぶり殺しの状態に陥る。
堪らず漏らした純の問に、万能型のゲンにも弱みが無いとゲームバランスが悪い、無欠のキャラはいない、とム〜ドがシビアに評論する。
「それにしても運営も罪なもの、恰も呪詛のような弱点を、、」
それまで黙っていた蛭田が独りごちる。おそらくはワンランク上のプレイヤー、蛭田をしてもこの難局を打開する処方箋は無いようだ。
「ヲタくん、バクステ*で距離を取り直んや!」
[註]バックステップの略
makoが花崎に対処療法を伝える。自分なら、と思うがあくまでもプレイしているのは花崎、ようやく初級を卒業するかといった立ち位置のアマチュアだ。あくまでも花崎手持ちの技術で対抗しなければならない。名選手が名監督になれるか、mako自身がある種の岐路に立っている。
したたか連打を喰らった花崎・ゲンはかなりのダメージを受け、体力ゲージも残り四分の一ほどになってしまっている。
「ホワイ!?どうして技が当たらない?」
冷静さを欠いた花崎は遠目から牽制の飛び道具、気流拳を連発するが、白井・ガットはこれを垂直ジャンプ等で巧みにかわし、時にはガードで受けて見せ、無理のないディフェンスで時間を稼いで行く。
「そんな遠くからの飛び道具は安い*ゼエ」
[註]格ゲーにおいてダメージの低い技を安い、という。
守備的にカウンターを狙う白井の魂胆は明らかだが、攻め手を欠いた花崎は焦れてしまい、不用意にジャンプ一閃、ガットの間合いに飛び込んでしまう。
ムエタイアッパー、見え透いた展開だが、絵に書いたような流れの中で、ガットはゲンを見事ノックアウトしたのだった。
ガット、ウィン!
「それでよいよい、ソレでよい。」
不快指数200%男の青木が満足げな表情を浮かべ、ゆっくりと手を叩き白井の勝利を讃えてみせる。
すると人民服にビン底メガネの文革時代から紛れ込んたかのような留学生、朱さんが青木にボソボソと何か話かけている。
「ふん、ふん、そりゃ、距離の管理と言いましてねえ、ハイ。格ゲーの基本的な技術ですよ。」
「とりわけ、ガットはリーチが長く、ゲンは反対に短い。これがゲンの泣きどころでねぇ、ハイ。」
そう気前よく種明かしをして、大いに嗤う青木龍一郎。その声は古の英傑を思わせるもので、会場の関帝廟にお誂え向きでもあった。
つづく
人物紹介
・日乃本 純 ひのもと じゅん
本作の主人公。元は少林寺拳法に汗を流す高校二年生。事故で障がいを負い格ゲーでリハビリ中。バト2では日本人空手家リョウを使う。一人称は俺っち。
・クー子 くーこ
純の真ダチ。児童クラブ時代からの付き合い。ハイカラな東京言葉を使うが、実は関西出身。女子プロレスラー、セイント・リカの遣い手。
・音々 ねね
純の姉。両親を早く亡くした純の母親代わり。苦学して一家を支える博識。ゲーマーだった父の死を悔み、純をゲームから遠ざけてきた。
・花崎 誇 はなさき ほこる
医療法人花崎会の跡取り。純のライバルで格ゲー仲間。アメリカンな空手家ゲンを使う。一人称はミー。
・夢原 省吾 ゆめはら しょうご
伝説のプロゲーマー。落ちぶれ飲んだくれに。純と花崎の指導者としてゲーム界に復帰。かつて純と音々の父、日乃本尊に格ゲーと人生を学んだ。
・花崎蘭子 はなさき らんこ
花崎の妹。兄を侮る高慢な女子高生。自分こそが花崎家の跡取りに相応しいと思っているようだ。一人称はアタクシ。
・蛭田恭介 ひるた きょうすけ
元蘭子の親衛隊長。今はニヒリストを気取り文学と格ゲーに耽る。一人称は小生。
・日乃本尊 ひのもと たける
純と音々の父にして、夢原の師匠。格ゲー黎明期の知る人ぞ知る英雄。
・神獣倶楽部 しんじゅう くらぶ
青木、白井、玄田の格ゲー三人組。日乃本尊の実相を知るとされる。
・ムード むーど
夢原が自分の代わりに純らのもとに送りこんだ新コーチ。ちょっとエッチでお尻が好き。
・mako まこ
むーど同様、夢原の仲間で純らの新コーチ。大阪からやって来た理系女子。
・Drケーシー花崎 ドクターケーシーはなさき
医療法人花崎会の理事長にして、花崎兄妹の父。純に格ゲーによるリハビリを指導中。
・事務長 じむちょう
医療法人花崎会の事務方トップにして、花崎家の執事。どうも怪しい動きを、、、
・ロードバトラー2
人気の格闘ゲーム。略称バトツー。リョウ、ゲン、ダル・シン、ハシミコフ、チャンリー、ゲイルなど多彩な格闘家が集う。某有名格闘ゲームとは無関係。