第136ターン オタク族、狙え!弾抜けを
不慮の事故から身体の自由を失った高校生、日乃本純は格闘ゲームのプロを目指して立ち上がる。涙と感動の格ゲー小説。
花崎・ゲンと白井・ガット両者の体力ゲージは、それぞれゲンが残り20%、ガットは概ね50%ぐらいだ。花崎の劣勢は変わらない。
さっきの一連の攻防では花崎が読み勝った格好だが、それは偶然の産物と言っていい。ただ、やられた白井は幾分ナーバスになった模様だ。
結果として、相手に一手先を読まれた白井としては、攻めには慎重にならざる得ない。ちょっとしたメンタルの変化、心のざわめきがダイレクトに影響する、それが格ゲーだ。
再び双方が距離を取って相手の出方をうかがう展開に回帰する。さらに白井はしゃがみ攻撃を警戒して意識を下半身に向けているようだ。
花崎は、さっきと同じしゃがみ大キックではガードされると読んで、とりあえず飛び道具・気流拳で牽制すると、白井もムエタイショットで応戦する。
対戦時間は概ね1分に近づき、残り40秒となる。花崎は手詰まりだが、白井は無理せず確実に2〜3発決めればこのラウンドを終わらせることが出来る。場合によってはこのままでもいい。ここは守備的に立ち回るべきだ。
「駅前留学の坊っちゃん、攻めないと時間切れだゼエ。」
そう嘯き挑発する白井・ガットは再び上下連弾のムエタイショットで放ち、花崎・ゲンにプレッシャーをかける。ゲンはひたすらガードに徹する。
「makoさん!どうするノダ?オタク族が押されてる!」
クー子が悲鳴を上げると純も不安を隠せないのか、イライラした様子で白井に野次を飛ばす。
「オイッ、偽スギちゃん!プレイが単調なんだよ!塩っぱいムーブすんなよ!」
純の口撃も虚しく、白井は肩をアメリカンにすくめて見せるだけで、飛び道具の手を緩めない。
「このままではジリ貧、でもどうやって、、」
新任コーチmakoとしても、なんとか花崎に勝利を届けたい。が、またムエタイショットをバリアにして距離を詰められた時、どう対処する?きっと投げ抜けは読まれる。ここはリスクを冒さざる得ない。
「ヲタくん!もう少しだけ、距離を詰めて!」
イエス、アイウィル!花崎がmakoの指示どおりに高めのムエタイショットを屈んで避けながら前に出る。白井の仕掛けのリズムが掴めたようだ。
「飛んで火にいるナントカか?クククッ見苦しいゼエ!」
余裕の白井が近距離のムエタイショットを繰り返した時、アグレッシブmakoがにわかに叫んだ。
「ヲタ!飛竜や!」
つづく
人物紹介
・日乃本 純 ひのもと じゅん
本作の主人公。元は少林寺拳法に汗を流す高校二年生。事故で障がいを負い格ゲーでリハビリ中。バト2では日本人空手家リョウを使う。一人称は俺っち。
・クー子 くーこ
純の真ダチ。児童クラブ時代からの付き合い。ハイカラな東京言葉を使うが、実は関西出身。女子プロレスラー、セイント・リカの遣い手。
・音々 ねね
純の姉。両親を早く亡くした純の母親代わり。苦学して一家を支える博識。ゲーマーだった父の死を悔み、純をゲームから遠ざけてきた。
・花崎 誇 はなさき ほこる
医療法人花崎会の跡取り。純のライバルで格ゲー仲間。アメリカンな空手家ゲンを使う。一人称はミー。
・夢原 省吾 ゆめはら しょうご
伝説のプロゲーマー。落ちぶれ飲んだくれに。純と花崎の指導者としてゲーム界に復帰。かつて純と音々の父、日乃本尊に格ゲーと人生を学んだ。
・花崎蘭子 はなさき らんこ
花崎の妹。兄を侮る高慢な女子高生。自分こそが花崎家の跡取りに相応しいと思っているようだ。一人称はアタクシ。
・蛭田恭介 ひるた きょうすけ
元蘭子の親衛隊長。今はニヒリストを気取り文学と格ゲーに耽る。一人称は小生。
・日乃本尊 ひのもと たける
純と音々の父にして、夢原の師匠。格ゲー黎明期の知る人ぞ知る英雄。
・神獣倶楽部 しんじゅう くらぶ
青木、白井、玄田の格ゲー三人組。日乃本尊の実相を知るとされる。
・ムード むーど
夢原が自分の代わりに純らのもとに送りこんだ新コーチ。ちょっとエッチでお尻が好き。
・mako まこ
むーど同様、夢原の仲間で純らの新コーチ。大阪からやって来た理系女子。
・Drケーシー花崎 ドクターケーシーはなさき
医療法人花崎会の理事長にして、花崎兄妹の父。純に格ゲーによるリハビリを指導中。
・事務長 じむちょう
医療法人花崎会の事務方トップにして、花崎家の執事。どうも怪しい動きを、、、
・ロードバトラー2
人気の格闘ゲーム。略称バトツー。リョウ、ゲン、ダル・シン、ハシミコフ、チャンリー、ゲイルなど多彩な格闘家が集う。某有名格闘ゲームとは無関係。