第135ターン 投げ抜け、ム〜ドの格ゲーOJT
不慮の事故から身体の自由を失った高校生、日乃本純は格闘ゲームのプロを目指して立ち上がる。涙と感動の格ゲー小説。
ムエタイショット、上下の連弾が花崎・ゲンを襲う。低い一撃をジャンプでかわしたものの、後発の高いショットに被弾してしまう。
さらに白井・ガットはムエタイショットの上下連弾を放つ。これにはガードで対応するゲン。と、その隙に距離を詰めて来るガット。やや不用意だ。
再びゲンにコンボのチャンスか?会場が固唾を呑んだ時、ガットはなんと投げ技を選択。コンボ狙いでガードを固め、打撃を待つゲンを軽々と片手で持ち上げて、膝蹴りを加えて投げ捨てる。
クククッ!同じ手を食うかと肩を揺らして笑う白井、ガットは倒れて立ち上げるゲンにしゃがみ大パンチをお見舞いする。これをまともに喰らったゲンの体力ゲージは半分ほどに減る。
「ムムッ、デンジャラス!」
コンボ狙いの裏をかかれて、投げ技を食らった花崎は混乱の絶壁に立っている。
「ガードが向上した分、これを多様するも、かえって投げ技の餌食となりにけり。」
蛭田が悔しそうにボソボソと呟く。そう、ガード状態は投げ技には一方的に不利なのだ。この格ゲー、バトツーでは投げ技には打撃で対抗するしかない、基本的には。
こんな時こそ距離を取り、仕切り直す必要があるが、、
「ヲタくん!バックステップ、気流や!」
コーチmakoが堪らず指示を送る。花崎は指示どおりに動くが、白井・ガットが押し込んで来る。ムエタイアッパー!ガットが、苦し紛れの気流拳を無化してゲンにダメージを与える。
「よぉし、トドメだゼエ!」
ガットは垂直に飛ぶと、ゲンの頭部に中キックを叩き込む。が、これを既のところでガードしたゲン、その瞬間にガットが投げ技を狙う。派手なキックは花崎・ゲンからガードを引き出す誘いの一撃だったのだ。
「ヲタくん!投げ技を重ねろ!」
今度はム〜ドが指示を出す。すると、打撃を読んだ花崎のガードを読んだ白井の投げ技を読んだ花崎の、
「あれが投げ抜けや。」
makoが純に説明した。本番での咄嗟の判断、未だ訓練していない技だが、ガットの投げ技をゲンが振り払った。じゃんけんで言えば、あいこ、の状態だ。投げ技に対して投げ技を仕掛けて無化する、高度な技術だ。
そしてゲンは隙かさず、しゃがみ大キック!これが足払いのような格好でガットにヒットする。
「やったゼエ!」
純が白井のお株を奪うかのような歓喜、それはゲンの決め台詞でもある。
中級者さえ、やもすると疎かになる足元のガード。素人格ゲーマーの中の中、それか下、ってところかな。ム〜ドがクー子にチュ〜するふりをして白井の力量を寸評した。
つづく
人物紹介
・日乃本 純 ひのもと じゅん
本作の主人公。元は少林寺拳法に汗を流す高校二年生。事故で障がいを負い格ゲーでリハビリ中。バト2では日本人空手家リョウを使う。一人称は俺っち。
・クー子 くーこ
純の真ダチ。児童クラブ時代からの付き合い。ハイカラな東京言葉を使うが、実は関西出身。女子プロレスラー、セイント・リカの遣い手。
・音々 ねね
純の姉。両親を早く亡くした純の母親代わり。苦学して一家を支える博識。ゲーマーだった父の死を悔み、純をゲームから遠ざけてきた。
・花崎 誇 はなさき ほこる
医療法人花崎会の跡取り。純のライバルで格ゲー仲間。アメリカンな空手家ゲンを使う。一人称はミー。
・夢原 省吾 ゆめはら しょうご
伝説のプロゲーマー。落ちぶれ飲んだくれに。純と花崎の指導者としてゲーム界に復帰。かつて純と音々の父、日乃本尊に格ゲーと人生を学んだ。
・花崎蘭子 はなさき らんこ
花崎の妹。兄を侮る高慢な女子高生。自分こそが花崎家の跡取りに相応しいと思っているようだ。一人称はアタクシ。
・蛭田恭介 ひるた きょうすけ
元蘭子の親衛隊長。今はニヒリストを気取り文学と格ゲーに耽る。一人称は小生。
・日乃本尊 ひのもと たける
純と音々の父にして、夢原の師匠。格ゲー黎明期の知る人ぞ知る英雄。
・神獣倶楽部 しんじゅう くらぶ
青木、白井、玄田の格ゲー三人組。日乃本尊の実相を知るとされる。
・ムード むーど
夢原が自分の代わりに純らのもとに送りこんだ新コーチ。ちょっとエッチでお尻が好き。
・mako まこ
むーど同様、夢原の仲間で純らの新コーチ。大阪からやって来た理系女子。
・Drケーシー花崎 ドクターケーシーはなさき
医療法人花崎会の理事長にして、花崎兄妹の父。純に格ゲーによるリハビリを指導中。
・事務長 じむちょう
医療法人花崎会の事務方トップにして、花崎家の執事。どうも怪しい動きを、、、
・ロードバトラー2
人気の格闘ゲーム。略称バトツー。リョウ、ゲン、ダル・シン、ハシミコフ、チャンリー、ゲイルなど多彩な格闘家が集う。某有名格闘ゲームとは無関係。




