第134ターン 起き攻め、青春の分水嶺
不慮の事故から身体の自由を失った高校生、日乃本純は格闘ゲームのプロを目指して立ち上がる。涙と感動の格ゲー小説。
まさにミラーマッチ。早くもその気配が漂う。ゲンの飛び道具、気流拳をガットのムエタイショットが迎撃する。
遠距離での前哨戦は五分の展開、花崎・ゲンが気流拳を大、中、小と打ち分けて飛び道具を不規則に放つが、白井・ガットは難なくこれに対処する。
「ヲタくん、しばらく辛抱やで。」
コーチmakoが花崎に自重を求める。このような焦れる展開に初級ゲーマーはつい先に動きだして墓穴を掘る。
武道やスポーツそして恋愛、対戦ものは全て先に動いた者がリスクを負う。そして手痛いしっぺ返しを食い、自ずと劣勢の中での苦闘、暗中模索となる。
コーチmakoとしては、序盤は相手の出方、力量を測ってからその対処を選んでいく戦略。現役の格ゲーマー二人をセコンドに擁するチーム夢原はこの点で神獣倶楽部に圧倒的なアドバンテージがあると言っていい。
「フンッ、えらく守備的じゃねえか。こっちから行くゼエ!」
白井・ガットがジャンプ一番、飛び膝蹴りを繰り出すと、これは空を切る。が、ゲンとの距離が縮まる。攻撃を移動に応用する技術だ。
そしてガットは続け様に中キックを放つが、ゲンがこれをしゃがみガードで回避する。
「行けッ、オタク族!コンボだ!!」
純の叫びと同時だった。花崎が操るゲンがしゃがみ小キック、しゃがみ小パンチ、そして→↓↗→○ジャンピングアッパーカット、
「飛竜〜拳!」
ゲンのコマンド技が炸裂する。技の連続、コンボを学んだ花崎が見事に実戦でその技術を披露した。
「ウヘッ、やはりコンボは凄いノダァ!」
クー子が少し辟易した様子でコンボ、その連続技の破壊力に驚嘆する。ガットの体力ゲージの30%ほどが減る。事務長ら、花崎応援隊もヤンヤの歓声を上げる。
「飛竜拳よりその前の小パンチ、あれがミソ也。」
蛭田がボソボソと呟く。フレームを心得タル者は百戦危うからず、か。
コンボを的確に決めた花崎はバックステップで距離を取り直し、飛び道具、気流拳でガットを牽制する。
その様子を厳しい目で黙って見つめるmako。ぽってりとした唇を歪めている。
「起き攻め、未だ自信ないのかな。」
ム〜ドもいつものエッチな軽さが見られない。危ぶむように独りごちる。
「フンッ、成る程。坊っちゃん、詰めの甘さは後で命とりになるゼエ。」
そう白井は嘲笑うと、これには対処できるかな?と言い放ち、なんとムエタイショットを上下に打ち分けてみせるのだった。
つづく
人物紹介
・日乃本 純 ひのもと じゅん
本作の主人公。元は少林寺拳法に汗を流す高校二年生。事故で障がいを負い格ゲーでリハビリ中。バト2では日本人空手家リョウを使う。一人称は俺っち。
・クー子 くーこ
純の真ダチ。児童クラブ時代からの付き合い。ハイカラな東京言葉を使うが、実は関西出身。女子プロレスラー、セイント・リカの遣い手。
・音々 ねね
純の姉。両親を早く亡くした純の母親代わり。苦学して一家を支える博識。ゲーマーだった父の死を悔み、純をゲームから遠ざけてきた。
・花崎 誇 はなさき ほこる
医療法人花崎会の跡取り。純のライバルで格ゲー仲間。アメリカンな空手家ゲンを使う。一人称はミー。
・夢原 省吾 ゆめはら しょうご
伝説のプロゲーマー。落ちぶれ飲んだくれに。純と花崎の指導者としてゲーム界に復帰。かつて純と音々の父、日乃本尊に格ゲーと人生を学んだ。
・花崎蘭子 はなさき らんこ
花崎の妹。兄を侮る高慢な女子高生。自分こそが花崎家の跡取りに相応しいと思っているようだ。一人称はアタクシ。
・蛭田恭介 ひるた きょうすけ
元蘭子の親衛隊長。今はニヒリストを気取り文学と格ゲーに耽る。一人称は小生。
・日乃本尊 ひのもと たける
純と音々の父にして、夢原の師匠。格ゲー黎明期の知る人ぞ知る英雄。
・神獣倶楽部 しんじゅう くらぶ
青木、白井、玄田の格ゲー三人組。日乃本尊の実相を知るとされる。
・ムード むーど
夢原が自分の代わりに純らのもとに送りこんだ新コーチ。ちょっとエッチでお尻が好き。
・mako まこ
むーど同様、夢原の仲間で純らの新コーチ。大阪からやって来た理系女子。
・Drケーシー花崎 ドクターケーシーはなさき
医療法人花崎会の理事長にして、花崎兄妹の父。純に格ゲーによるリハビリを指導中。
・事務長 じむちょう
医療法人花崎会の事務方トップにして、花崎家の執事。どうも怪しい動きを、、、
・ロードバトラー2
人気の格闘ゲーム。略称バトツー。リョウ、ゲン、ダル・シン、ハシミコフ、チャンリー、ゲイルなど多彩な格闘家が集う。某有名格闘ゲームとは無関係。