第132ターン 先勝!ゲイル、コンボで圧倒す
不慮の事故から身体の自由を失った高校生、日乃本純は格闘ゲームのプロを目指して立ち上がる。涙と感動の格ゲー小説。
「ソウルゥ〜ビーム!!」
立て続けに四連発の技が入ると、一気呵成にゲイルは膝蹴り、しゃがみ小パンの連打を繰り出しブランをグロッキー状態に陥れる。
「ワッ、ワッ!ブランの頭の周りに星がピカピカトンデレラ!」
クー子は驚きを隠せない。純や花崎も実戦で初めて見た、相手キャラクターの戦闘不能状態。
「オイッ、魔法のマコちゃん!あ、あれはなんだ?」
一種のグロッキー、麻痺状態。バトツーでは、グロる、と言うんや。makoの解説はいつも端的かつ明快。世のパワポ・プレゼン男らもタジタジだ。さらにmakoは続ける。
コンボ、連続技は相手に反撃させないばかりでなく、上手くキマると、この無防備状態も引き出せる。
一粒でニ度オイシイ。そういうことや、とmakoは言うと、純の頬を人差し指で軽く二度ほどタッチする。うぅ、ち、チンこが!
「うぅ~動けェ〜動くんだべぇぇ!」
見苦しくも悪あがきをする玄田、例によってコントローラーをガチャガチャと操作する。そんな様子を尻目に、後は蛭田のやりたい放題だ。
裏拳!フック!しゃがみストレート!そして十八番の、、
「サマーァァァソルトキィィック!!」
見事なコンボに見るも無惨。一気に体力ゲージがゼロになった玄田・ブラン。圧勝、蛭田の攻守の完成度は、対戦相手を完全に凌駕した。
ゲイル、ウィン!!
「やったじゃねえか!ニヒル、オメェ、上手くなったなぁ!」
純が蛭田とハイタッチ、いつぞやの決戦を思い出させる痛快な眺めだ。グレイト!チーム夢原のカピタン、花崎も蛭田に畏敬の眼差しを送る。
「チーム夢原の中でも頭一つ抜けてるかもね。」
ム〜ドの言葉に頷くmako。が、その目は次なる闘いを見据えている。
飛び入りに先鋒が破れ、思惑が大きく外れた神獣倶楽部は早くも剣ヶ峰に立った。もう、負けれない。
「亀の奴、マッタクだらしねえ。次はオイラが行くぜぇ。」
副将格の白井虎之助がコントローラーを握ると狭苦しそうに両足を広げてゲーミングチェアに座り込んだ。2メールに届くか、一際大柄なこの格ゲーマーは辺りを威圧して余りある。
「じゃ、ミーの出番だな。」
そう言うとチーム夢原の精神的支柱、花崎誇が、ゲーミングチェアに跳び乗るいつものムーブ、そして例のライン。
「カムオン!熱くしてやるぜ!!」
つづく
人物紹介
・日乃本 純 ひのもと じゅん
本作の主人公。元は少林寺拳法に汗を流す高校二年生。事故で障がいを負い格ゲーでリハビリ中。バト2では日本人空手家リョウを使う。一人称は俺っち。
・クー子 くーこ
純の真ダチ。児童クラブ時代からの付き合い。ハイカラな東京言葉を使うが、実は関西出身。女子プロレスラー、セイント・リカの遣い手。
・音々 ねね
純の姉。両親を早く亡くした純の母親代わり。苦学して一家を支える博識。ゲーマーだった父の死を悔み、純をゲームから遠ざけてきた。
・花崎 誇 はなさき ほこる
医療法人花崎会の跡取り。純のライバルで格ゲー仲間。アメリカンな空手家ゲンを使う。一人称はミー。
・夢原 省吾 ゆめはら しょうご
伝説のプロゲーマー。落ちぶれ飲んだくれに。純と花崎の指導者としてゲーム界に復帰。かつて純と音々の父、日乃本尊に格ゲーと人生を学んだ。
・花崎蘭子 はなさき らんこ
花崎の妹。兄を侮る高慢な女子高生。自分こそが花崎家の跡取りに相応しいと思っているようだ。一人称はアタクシ。
・蛭田恭介 ひるた きょうすけ
元蘭子の親衛隊長。今はニヒリストを気取り文学と格ゲーに耽る。一人称は小生。
・日乃本尊 ひのもと たける
純と音々の父にして、夢原の師匠。格ゲー黎明期の知る人ぞ知る英雄。
・神獣倶楽部 しんじゅう くらぶ
青木、白井、玄田の格ゲー三人組。日乃本尊の実相を知るとされる。
・ムード むーど
夢原が自分の代わりに純らのもとに送りこんだ新コーチ。ちょっとエッチでお尻が好き。
・mako まこ
むーど同様、夢原の仲間で純らの新コーチ。大阪からやって来た理系女子。
・Drケーシー花崎 ドクターケーシーはなさき
医療法人花崎会の理事長にして、花崎兄妹の父。純に格ゲーによるリハビリを指導中。
・事務長 じむちょう
医療法人花崎会の事務方トップにして、花崎家の執事。どうも怪しい動きを、、、
・ロードバトラー2
人気の格闘ゲーム。略称バトツー。リョウ、ゲン、ダル・シン、ハシミコフ、チャンリー、ゲイルなど多彩な格闘家が集う。某有名格闘ゲームとは無関係。