第131ターン 闘いの分水嶺、起き攻めの攻防
不慮の事故から身体の自由を失った高校生、日乃本純は格闘ゲームのプロを目指して立ち上がる。涙と感動の格ゲー小説。
「うぅ~置き技か、ヤバい、ヤバいべ。」
ブランにバックステップで右端に距離とらせた玄田亀吉。その名のとおり、亀の慎重さで首をすくめてガードを固める。攻勢の時ほど隙が生じるもの。得意の形で的確にダメージを奪えば、自ずと勝利は見えてくる。
「相手は戦略的に対戦を組み立てれるようやね。」
コーチmakoは玄田の出方に警戒しつつも、その弱点を炙り出すべく次の一手を指示する。
「ゲイルくん、ソウル、そして前進や!」
心得て候と、makoの掛け声どおり、蛭田はゲイルの飛び道具ソウルビーム←→□を放つと同時にそれをあたかもバリアにして前に進む。
玄田は蛭田のトリッキーな前進に驚くばかりで対処が思いつかず、あっと言う間にに距離を詰められてしまう。
「アメィジング!」
そしてガードを固めたままの玄田・ブランに蛭田・ゲイルは投げ技、プロレス技、フルネルソン・スープレックスをアッサリと決めてしまう。ブラン、ダウン!
さらにゲイルは前ステップでダウンしたブランに密着し、次なる攻撃を仕掛ける準備をする。
「オイッ、ニヒル!オメェ、敵に近づき過ぎた!」
「近い、トゥークローズ!」
純と花崎が蛭田に警告する。攻勢を維持したいのは分かるが、相手からしっぺ返しを受けかねない。
「読み合い、どっちが勝つ?」
mako、ム〜ドの両コーチは成り行きを見守る。蛭田がレジェンド夢原に受けた指導の深度は?
「ぐへッ、もらったべ!」
起き上がりざまの攻撃、いわゆる起き攻めを読んだ玄田・ブランはダウンからの回復と同時に体から電気を発する必殺技、エレキレキを繰り出す。
「電気で丸焦げ。ご苦労さまだべ、ウヒッ。」
思惑どおりの展開にほくそ笑む玄田、だがそうは問屋が卸さなかった。蛭田・ゲイルは反撃を予期して、密着後すぐにしゃがみガードで玄田の攻撃を待っていたのだ。
「ゲイルくんの読み勝ちやね。」
makoの言葉を待つまでもなく、蛭田は淡々とフィニッシュワークに入る。不用意に見えた距離感は相手の大技を誘い出す囮だったのだ。
「起き上がりの反撃は想定内に候。亀は大人しく泥の中で寝てなさい。」
大技の発動、その失敗で隙だらけのブランにゲイルが2つ目のコンボを披露する。
しゃがみ中キック、小パンチ、中キック、そして、、、
「ソウルゥ〜ビーム!!」
つづく
人物紹介
・日乃本 純 ひのもと じゅん
本作の主人公。元は少林寺拳法に汗を流す高校二年生。事故で障がいを負い格ゲーでリハビリ中。バト2では日本人空手家リョウを使う。一人称は俺っち。
・クー子 くーこ
純の真ダチ。児童クラブ時代からの付き合い。ハイカラな東京言葉を使うが、実は関西出身。女子プロレスラー、セイント・リカの遣い手。
・音々 ねね
純の姉。両親を早く亡くした純の母親代わり。苦学して一家を支える博識。ゲーマーだった父の死を悔み、純をゲームから遠ざけてきた。
・花崎 誇 はなさき ほこる
医療法人花崎会の跡取り。純のライバルで格ゲー仲間。アメリカンな空手家ゲンを使う。一人称はミー。
・夢原 省吾 ゆめはら しょうご
伝説のプロゲーマー。落ちぶれ飲んだくれに。純と花崎の指導者としてゲーム界に復帰。かつて純と音々の父、日乃本尊に格ゲーと人生を学んだ。
・花崎蘭子 はなさき らんこ
花崎の妹。兄を侮る高慢な女子高生。自分こそが花崎家の跡取りに相応しいと思っているようだ。一人称はアタクシ。
・蛭田恭介 ひるた きょうすけ
元蘭子の親衛隊長。今はニヒリストを気取り文学と格ゲーに耽る。一人称は小生。
・日乃本尊 ひのもと たける
純と音々の父にして、夢原の師匠。格ゲー黎明期の知る人ぞ知る英雄。
・神獣倶楽部 しんじゅう くらぶ
青木、白井、玄田の格ゲー三人組。日乃本尊の実相を知るとされる。
・ムード むーど
夢原が自分の代わりに純らのもとに送りこんだ新コーチ。ちょっとエッチでお尻が好き。
・mako まこ
むーど同様、夢原の仲間で純らの新コーチ。大阪からやって来た理系女子。
・Drケーシー花崎 ドクターケーシーはなさき
医療法人花崎会の理事長にして、花崎兄妹の父。純に格ゲーによるリハビリを指導中。
・事務長 じむちょう
医療法人花崎会の事務方トップにして、花崎家の執事。どうも怪しい動きを、、、
・ロードバトラー2
人気の格闘ゲーム。略称バトツー。リョウ、ゲン、ダル・シン、ハシミコフ、チャンリー、ゲイルなど多彩な格闘家が集う。某有名格闘ゲームとは無関係。