第129ターン ゲイルvsブラン 第2ラウンド始まる
不慮の事故から身体の自由を失った高校生、日乃本純は格闘ゲームのプロを目指して立ち上がる。涙と感動の格ゲー小説。
幸先よく第一ラウンドを制した蛭田、磨きをかけたゲイルの鮮やかなコンボがその勝因だ。
一方の神獣倶楽部は予測だにしていなかった追加エントリー、蛭田恭介の実力に警戒心を顕にする。不快指数200%男、青木龍一郎がネットリと先鋒の玄田亀吉を恫喝する。
「亀、油断は大敵ですよぉ。もしものことがあれば、チミ、タダでは済まないよぉ。」
わ、わ、わかってるべ。次は勝つべ、楽勝だべ。そう言うと玄田はコントローラーをガチャガチャと忙しなく動かして、第2ラウンドを急ぐ。もぉぉ、ぶっ飛ばしてやるべ!
レディ〜ファイ!ピカピカ先生の合図で第2ラウンドが始まった。第1ラウンドのいい流れを維持したい蛭田・ゲイルが再び膝蹴りで前に出ると、今度はそれを見越した玄田・ブランがバックステップで距離を取る。
軽く往なされた格好の蛭田・ゲイルに僅かな隙が生まれる。そこに玄田は隙さず→←△を入力。するとブランが体を丸めたかと思うと、高速で前転を繰り返しそのまま突っ込んで来るではないか。
「食らえ!ロール・スマッシュだべ!」
これをまともに受けてしまったゲイル、体力の四分の一ほどが減少。ゲイルがダウン状態からスクッと起き上がると、そこに再びブランのロールスマッシュ!
「ワッ!ニヒル、危ないノダ!」
クー子は目を覆うが、余裕の蛭田は不敵に微笑む。待って候。
起き上がりと同時にしゃがみガードでブランの攻撃を阻止して、中キックから大キックへと繋いで行く。読みどおり、いわゆる「リターン」をお返しする、ところが、、、
ブランのロールスマッシュはゲイルの手前で止まり!ガードを固めて待つゲイルを持ち上げて地面に叩きつけたかと思うと、両手の長く鋭い爪でゲイルの顔面を掻きむしる!
「オイッ、どスケベ!あ、あれは!」
純が堪らずム〜ドに問うと、あれは投げ技の一種だ、玄田は打撃の連続と予測した蛭田の一手先を行き、投げ技を挟んできたんだ。
「あのブラン遣い、中々出来るやん。」
長い睫毛のmakoが鋭い視線を向けると、ム〜ドもこの一戦が簡単には終わらないであろうことを認める。
「さてさて読み合いタイムの始まり。格ゲー中級コースの開講だ。」
つづく
人物紹介
・日乃本 純 ひのもと じゅん
本作の主人公。元は少林寺拳法に汗を流す高校二年生。事故で障がいを負い格ゲーでリハビリ中。バト2では日本人空手家リョウを使う。一人称は俺っち。
・クー子 くーこ
純の真ダチ。児童クラブ時代からの付き合い。ハイカラな東京言葉を使うが、実は関西出身。女子プロレスラー、セイント・リカの遣い手。
・音々 ねね
純の姉。両親を早く亡くした純の母親代わり。苦学して一家を支える博識。ゲーマーだった父の死を悔み、純をゲームから遠ざけてきた。
・花崎 誇 はなさき ほこる
医療法人花崎会の跡取り。純のライバルで格ゲー仲間。アメリカンな空手家ゲンを使う。一人称はミー。
・夢原 省吾 ゆめはら しょうご
伝説のプロゲーマー。落ちぶれ飲んだくれに。純と花崎の指導者としてゲーム界に復帰。かつて純と音々の父、日乃本尊に格ゲーと人生を学んだ。
・花崎蘭子 はなさき らんこ
花崎の妹。兄を侮る高慢な女子高生。自分こそが花崎家の跡取りに相応しいと思っているようだ。一人称はアタクシ。
・蛭田恭介 ひるた きょうすけ
元蘭子の親衛隊長。今はニヒリストを気取り文学と格ゲーに耽る。一人称は小生。
・日乃本尊 ひのもと たける
純と音々の父にして、夢原の師匠。格ゲー黎明期の知る人ぞ知る英雄。
・神獣倶楽部 しんじゅう くらぶ
青木、白井、玄田の格ゲー三人組。日乃本尊の実相を知るとされる。
・ムード むーど
夢原が自分の代わりに純らのもとに送りこんだ新コーチ。ちょっとエッチでお尻が好き。
・mako まこ
むーど同様、夢原の仲間で純らの新コーチ。大阪からやって来た理系女子。
・Drケーシー花崎 ドクターケーシーはなさき
医療法人花崎会の理事長にして、花崎兄妹の父。純に格ゲーによるリハビリを指導中。
・事務長 じむちょう
医療法人花崎会の事務方トップにして、花崎家の執事。どうも怪しい動きを、、、
・ロードバトラー2
人気の格闘ゲーム。略称バトツー。リョウ、ゲン、ダル・シン、ハシミコフ、チャンリー、ゲイルなど多彩な格闘家が集う。某有名格闘ゲームとは無関係。