第128ターン 鮮やか!ゲイルのコンボ
不慮の事故から身体の自由を失った高校生、日乃本純は格闘ゲームのプロを目指して立ち上がる。涙と感動の格ゲー小説。
「エエッ!ホワイ?!」
花崎が熟れたイングリッシュで驚きの声を上げる。蛭田が操るゲイルは試合が始まるとバックステップで画面中央から左側に移動する。
そして、しゃがみ込んで相手の攻撃を待つ。なんと捨てたはずの戦法「待ちゲイル」のポジションを取るではないか。純とクー子が顔を見合わせる。対戦相手の玄田・ブランもガードを固めて様子を伺う。
フフッ、蛭田は静かに笑うとゲイルは一気呵成に攻撃に転じた。膝蹴りを連発して前進し、あっと言う間にブランとの距離詰める。そう、待ちゲイルはちょっとしたフェイク、過去との決別を演じてみせた、そんなところか。
しゃがみ小パンチを連発すると一気にバック転キック、ムーンサルトキックを繰り出し見事に技を連続させる。呆気に取られた純がコーチmakoに尋ねる。
「あ、あれもコンボ、か?」
「そうや、ゲイルの基本中の基本コンボや。純坊、フレームの話、頭に入ってるか?」
「ま、大体はね。」
「ゲイルの小パンが入った時点でムーンサルトまでの流れは保証されたようなもの。相手は反撃のしようがないんや。」
純は低く唸り、眉をひそめてシビアな顔を見せたが、それは話について行けない時のお馴染みの表情。クー子にとっては見慣れた光景だった。またか。
とまれ、蛭田・ゲイルの攻勢は続く。たまらず玄田・ブランも反撃に出るが、そこはゲイルがガッチリとガードする。
「クー子ちゃん、よく見ておいてね。どうしても劣勢になると初心者は大技を狙ってくるよ。」
そこが相手の力量を測る一つの指標、新コーチのム〜ドがクー子に語る。と、案の定、玄田・ブランは、しゃがみ大キックを打ち込むが蛭田・ゲイルはこれを予測してガードを固める。
攻守のリズムが良いゲイル。雑になってきた玄田・ブランの攻め手に対して、またしても小パンチからムーンサルトへの流れを披露するとブランの叫び声が響き、体力ゲージがゼロとなった。
大切な大切な初戦、第1ラウンドを圧倒的な強さを見せた蛭田が勝ち名乗りを上げる。
ゲイル、ウィン!
ピカピカ先生が横浜の蒼天に高らかにコールした。
つづく
人物紹介
・日乃本 純 ひのもと じゅん
本作の主人公。元は少林寺拳法に汗を流す高校二年生。事故で障がいを負い格ゲーでリハビリ中。バト2では日本人空手家リョウを使う。一人称は俺っち。
・クー子 くーこ
純の真ダチ。児童クラブ時代からの付き合い。ハイカラな東京言葉を使うが、実は関西出身。女子プロレスラー、セイント・リカの遣い手。
・音々 ねね
純の姉。両親を早く亡くした純の母親代わり。苦学して一家を支える博識。ゲーマーだった父の死を悔み、純をゲームから遠ざけてきた。
・花崎 誇 はなさき ほこる
医療法人花崎会の跡取り。純のライバルで格ゲー仲間。アメリカンな空手家ゲンを使う。一人称はミー。
・夢原 省吾 ゆめはら しょうご
伝説のプロゲーマー。落ちぶれ飲んだくれに。純と花崎の指導者としてゲーム界に復帰。かつて純と音々の父、日乃本尊に格ゲーと人生を学んだ。
・花崎蘭子 はなさき らんこ
花崎の妹。兄を侮る高慢な女子高生。自分こそが花崎家の跡取りに相応しいと思っているようだ。一人称はアタクシ。
・蛭田恭介 ひるた きょうすけ
元蘭子の親衛隊長。今はニヒリストを気取り文学と格ゲーに耽る。一人称は小生。
・日乃本尊 ひのもと たける
純と音々の父にして、夢原の師匠。格ゲー黎明期の知る人ぞ知る英雄。
・神獣倶楽部 しんじゅう くらぶ
青木、白井、玄田の格ゲー三人組。日乃本尊の実相を知るとされる。
・ムード むーど
夢原が自分の代わりに純らのもとに送りこんだ新コーチ。ちょっとエッチでお尻が好き。
・mako まこ
むーど同様、夢原の仲間で純らの新コーチ。大阪からやって来た理系女子。
・Drケーシー花崎 ドクターケーシーはなさき
医療法人花崎会の理事長にして、花崎兄妹の父。純に格ゲーによるリハビリを指導中。
・事務長 じむちょう
医療法人花崎会の事務方トップにして、花崎家の執事。どうも怪しい動きを、、、
・ロードバトラー2
人気の格闘ゲーム。略称バトツー。リョウ、ゲン、ダル・シン、ハシミコフ、チャンリー、ゲイルなど多彩な格闘家が集う。某有名格闘ゲームとは無関係。




