第123ターン チーム夢原、横浜関帝廟へ
不慮の事故から身体の自由を失った高校生、日乃本純は格闘ゲームのプロを目指して立ち上がる。涙と感動の格ゲー小説。
「ムードさん、スイマセン汗、、運転お願いして。」
音々が申し訳なさそうに言うと、makoがええんよ、先輩はカワイイ女性の役に立ちたいンやから、と笑う。
そういうこと♡、とムードも満更でもなさそうに鼻歌を始める。中型のレンタカーで焼津から横浜へ。電車代を気にした音々に対してムードがすかさず提案したチーム夢原のキャラバンだ。
なんせ姉弟で慎ましく暮している音々と純にとって二人分の新幹線代は贅沢品で、さりとて普通電車なら到着まで随分と時間がかかり、車イスの純にとってかなりの負担になってしまう。
そんな中、レンタカーでの横浜行きは経済的にも、純のコンディション的にも大変助かるものだ。音々はただ助平なだけではない、ムードの大人の気遣いに感謝した。が、少しだけ気になるのは、、、
「コーチ、なんか古臭い歌ばかりで飽きたノダ。歌詞も妙に前向きすぎで、嘘くさいノダ。」
クー子が音々の不満を代弁してくれた。ムードがいい曲ダロと言わんばかりに車中に流す90年代Jポップ。
時にはムードが眉をしかめ、気持ちを込めてサビをハモる陳腐なラブソングに辟易していたところだった。
クサイノダ、ムニャムニャ。不満げなクー子が眠りについた。純と花崎は既に寝ている。昨夜はおそくまで連続技、コンボの練習に勤しんだ。
純は寝言か、小パン、しゃがみ中キッ、、とボソボソ言っている。しかめ面の花崎はコントローラーを操作するかのように指を動かす。
不思議なもので、複雑なコマンド入力も一夜眠れば翌日にはスムーズに指が動くことがままある。脳に刻まれたのか、指が覚えるのか。ぼんやりと考える音々の鼻に潮の香りが届く。
ムードが運転する夢原号は湘南海岸に至った。大阪人のmakoは興味深かげに有名なそのビーチを眺めて呟く。へぇ、ホンマにサーファーおるわ。
あと30分もすれば決戦の地、横浜に着く。関帝廟には対戦相手の神獣倶楽部が待っている。
makoとムード。弟子達が挑む決戦は、彼らにとっもコーチデビュー戦。押し黙った二人は、期待と不安が入り交じる不思議な高揚感に包まれていた。
つづく
人物紹介
・日乃本 純 ひのもと じゅん
本作の主人公。元は少林寺拳法に汗を流す高校二年生。事故で障がいを負い格ゲーでリハビリ中。バト2では日本人空手家リョウを使う。一人称は俺っち。
・クー子 くーこ
純の真ダチ。児童クラブ時代からの付き合い。ハイカラな東京言葉を使うが、実は関西出身。
・音々 ねね
純の姉。両親を早く亡くした純の母親代わり。苦学して一家を支える博識。何か秘密を抱えているようだ。
・花崎 誇 はなさき ほこる
医療法人花崎会の跡取り。純のライバルで格ゲー仲間。アメリカンな空手家ゲンを使う。一人称はミー。
・夢原 省吾 ゆめはら しょうご
伝説のプロゲーマー。落ちぶれ飲んだくれに。純と花崎の指導者としてゲーム界に復帰。音々とは因縁が、、
・花崎蘭子 はなさき らんこ
花崎の妹。兄を侮る高慢な女子高生。自分こそが花崎家の跡取りに相応しいと思っているようだ。一人称はアタクシ。
・蛭田恭介 ひるた きょうすけ
元蘭子の親衛隊長。今はニヒリストを気取り文学と格ゲーに耽る。一人称は小生。
・日乃本尊 ひのもと たける
純と音々の父にして、夢原の師匠。格ゲー黎明期の知る人ぞ知る英雄
・神獣倶楽部 しんじゅう くらぶ
青木、白井、玄田の格ゲー三人組。日乃本尊の実相を知るとされる。純らの次なる対戦相手。
・ムード むーど
夢原が自分の代わりに純らのもとに送りこんだ新コーチ。ちょっとエッチでお尻が好き。
・mako まこ
むーど同様、夢原の仲間で純らの新コーチ。大阪からやって来た理系女子。
・Drケーシー花崎 ドクターケーシーはなさき
医療法人花崎会の理事長にして、花崎兄妹の父。純に格ゲーによるリハビリを指導中。
・事務長 じむちょう
医療法人花崎会の事務方トップにして、花崎家の執事。
・ロードバトラー2
人気の格闘ゲーム。略称バトツー。リョウ、ゲン、ダル・シン、ハシミコフ、チャンリー、ゲイルなど多彩な格闘家が集う。某有名格闘ゲームとは無関係。




