第12ターン 俺っち、格ゲーデビューする
不慮の事故から身体の自由を失った高校生、日乃本純は格闘ゲームのプロを目指して立ち上がる。涙と感動の格ゲー根性物語。
初めて握るコントローラー、ゲーム機なんてどうせ買って貰えない、だからゲームなんてゼッタイしない。
そう心に誓った学童の頃、まさか高二でゲーム画面と向き合うことになろうとは。純は複雑で、面映ゆいものを抱えながら黒いコントローラーを手に取った。
耳の奥、いや頭の中の後ろ側、分からない。眉間に闇が広がる瞬時。去来する何か。確かに聞いた、誰かの声、、ユニゾン、
「ジュン、、」
振り返ると姉の音々(ねね)が心配そうにこっちを見ていた。そうか、姉ちゃんか。
「純、リハビリは順調?」
いつもの穏やかさで音々は聞くが、何処か咎めるような響きもある。やはり未だゲームリハビリには反対しているようだ。
「あ、いや、今始めたばっか。使い方分かんなくて。姉ちゃんは知ってる?」
「知ってるも何も、ウチにはずっとゲームなんて無かったでしょ?」
そう言いながらも音々は純からコントローラーを取り上げると、画面に目を凝らして見当を付けながら、格ゲー「ロードバトラー2」のメニュー画面にたどり着いた。
Road Battler2、気取ったディスクジョッキー風の声でゲームが始まる。
「ここで好きなキャラを選べばいいみたい。」
「うん、じゃこれにしようかな。」
純は日本人らしき空手家キャラを選んだ。リョウと言うらしい。自分が少林寺拳法を学んでいるから同じ武道家に親しみを感じたのだ。
対戦相手はゲーム機側で無作為に選ぶようで、巨漢の力士と闘うことになった。純にとって格ゲーデビュー戦だ。
左の指でキャラを動かし、右でボタンを押したらきっと何かパンチとか技をやるワヨ、音々に言われるとおり、麻痺の残る指でやってみる。
画面の中の空手家は自分の指操作に合わせ、右に左に移動し、パンチやキックを繰り出す。これがゲームか、これが格ゲーか。
純は静かな興奮に包まれた。
つづく




