第119ターン 決戦へ、格ゲー特訓の日々
不慮の事故から身体の自由を失った高校生、日乃本純は格闘ゲームのプロを目指して立ち上がる。涙と感動の格ゲー小説。
親の仇やあるまいし、そう言って純の手を取るmako。
「もっと優しく握るんやで。」
窘めるように言うと、コントローラーを持ち直させて、方向キーもボタンも無駄なく操作すること、そう諭した。
オ、オゥと照れくさそうに応える純。細い指にアーモンド型の爪。女性特有の柔らさを兼ね備えたmakoの手に触れ、恥ずかしさを隠し切れない。ち、ちんこが、、
ホワット?!それを聞き咎める花崎、そんな彼にも後ろから抱き着くようにして、プレイ時の姿勢から指導するmako。甘く爽やかな香りが鼻孔に纏わりつく。エ、エレクト!花崎もやられてしまった。
「チョイとキミたち、一体何の練習をしているノダ!mako殿もベタベタしないしない!」
プンプンと膨れっ面のクー子、下町の太陽はヤキモチを隠せない。そこに、しないしないシナイ半島と、知的なウィットを差し挟むちょっとエッチなコーチのムード。
「クー子ちゃんには僕ちんがセイント・リカの使い方を教えてあげるヨン☆」
そう言ってはクー子の肩に手をかけ何かとスキンシップを図る。格ゲーは楽しむもの、自己流だって大いに有り。これがムードの格ゲー・プリンシパルだ。
「じゃ、繰り返すで。フレームを意識して小中のパンチ、キックを使うこと。」
掌を打ってmakoはそう言うと、やや真剣な顔付きでムードと話し合う。持続のハナシは未だ先でええですか?そうだね、一気に入れると混乱するから、、
純は空手家リョウ、花崎はアメリカンなゲン、そしてクー子は新たに女子プロレスラー、セイント・リカにチャレンジする。
純と花崎は入門者から初級コースに進級、一方でクー子には格ゲーを楽しむことから指導していく。これはmakoとムードが夢原から託された育成方針だった。
夕陽の色が夏の名残りを漂わせるが、空調の効いた休日の事務室は快適そのもの。三人の若者は格ゲー練習に精を出す。
純の亡き父を知るという謎の格ゲーチーム、神獣倶楽部との決戦の日は近い。
つづく
人物紹介
・日乃本 純 ひのもと じゅん
本作の主人公。元は少林寺拳法に汗を流す高校二年生。事故で障がいを負い格ゲーでリハビリ中。バト2では日本人空手家リョウを使う。一人称は俺っち。
・クー子 くーこ
純の真ダチ。児童クラブ時代からの付き合い。ハイカラな東京言葉を使うが、実は関西出身。
・音々 ねね
純の姉。両親を早く亡くした純の母親代わり。苦学して一家を支える博識。何か秘密を抱えているようだ。
・花崎 誇 はなさき ほこる
医療法人花崎会の跡取り。純のライバルで格ゲー仲間。アメリカンな空手家ゲンを使う。一人称はミー。
・夢原 省吾 ゆめはら しょうご
伝説のプロゲーマー。落ちぶれ飲んだくれに。純と花崎の指導者としてゲーム界に復帰。音々とは因縁が、、
・花崎蘭子 はなさき らんこ
花崎の妹。兄を侮る高慢な女子高生。自分こそが花崎家の跡取りに相応しいと思っているようだ。一人称はアタクシ。
・蛭田恭介 ひるた きょうすけ
元蘭子の親衛隊長。今はニヒリストを気取り文学と格ゲーに耽る。一人称は小生。
・日乃本尊 ひのもと たける
純と音々の父にして、夢原の師匠。格ゲー黎明期の知る人ぞ知る英雄
・神獣倶楽部 しんじゅう くらぶ
青木、白井、玄田の格ゲー三人組。日乃本尊の実相を知るとされる。純らの次なる対戦相手。
・ムード むーど
夢原が自分の代わりに純らのもとに送りこんだ新コーチ。ちょっとエッチでお尻が好き。
・mako まこ
むーど同様、夢原の仲間で純らの新コーチ。大阪からやって来た理系女子。
・Drケーシー花崎 ドクターケーシーはなさき
医療法人花崎会の理事長にして、花崎兄妹の父。純に格ゲーによるリハビリを指導中。
・事務長 じむちょう
医療法人花崎会の事務方トップにして、花崎家の執事。
・ミッチとデコ みっち でこ
クー子の親友たち。クー子と合わせて別名あんみつクラブ。
・ロードバトラー2
人気の格闘ゲーム。略称バトツー。リョウ、ゲン、ダル・シン、ハシミコフ、チャンリー、ゲイルなど多彩な格闘家が集う。某有名格闘ゲームとは無関係。