第117ターン DR.ケーシー花崎の野望
不慮の事故から身体の自由を失った高校生、日乃本純は格闘ゲームのプロを目指して立ち上がる。涙と感動の格ゲー小説。
「ウヒヒ、順調、順調。これで論文をまとめれば格ゲーでリハビリという新たな療法が確立できる。」
書斎兼理事長室で満足げな声を上げているのは、医療法人花崎会のトップ、DR.ケーシー花崎だ。純に格ゲーを勧めた張本人であり、誇と蘭子の花崎兄妹の父親でもある。
どうやら、交通事故後の純の回復が目覚ましく、これを格ゲーリハビリの効果によるものだと喧伝して、新たなメシの種しようと余念がない。
論文発表の後は厚労省のお役人と談合して補助金を引き出し、その上でゲームソフトメーカーとコラボして新作ゲームを大々的開発する、そんな画を描いては悦に浸っている。
「その為には日乃本クンにはどんどん対戦を重ねてもらわないと。」
分かっているネ、事務長。ケーシーはそう言うと部屋の奥で起立したまま微動だにしない小柄な角刈りの男に念を押す。
「無論でゴザイマス、ドクター。今度は横浜から新たな刺客を送りましたので、ハイ。」
事務長がそう答えると、そうですか、そうですか、と顔を綻ばすケーシー花崎。そして金でも数えているのか、ブツブツ言いながら指を折って何かを計算し、神妙な表情を見せる。
それでは失礼します。事務長は理事長室を出て、小走りに階段を降りた。そして自室に戻りながらポケットから携帯電話を取り出したのだった。
つづく
人物紹介
・日乃本 純 ひのもと じゅん
本作の主人公。元は少林寺拳法に汗を流す高校二年生。事故で障がいを負い格ゲーでリハビリ中。バト2では日本人空手家リョウを使う。一人称は俺っち。
・クー子 くーこ
純の真ダチ。児童クラブ時代からの付き合い。ハイカラな東京言葉を使うが、実は関西出身。
・音々 ねね
純の姉。両親を早く亡くした純の母親代わり。苦学して一家を支える博識。何か秘密を抱えているようだ。
・花崎 誇 はなさき ほこる
医療法人花崎会の跡取り。純のライバルで格ゲー仲間。アメリカンな空手家ゲンを使う。一人称はミー。
・夢原 省吾 ゆめはら しょうご
伝説のプロゲーマー。落ちぶれ飲んだくれに。純と花崎の指導者としてゲーム界に復帰。音々とは因縁が、、
・花崎蘭子 はなさき らんこ
花崎の妹。兄を侮る高慢な女子高生。自分こそが花崎家の跡取りに相応しいと思っているようだ。一人称はアタクシ。
・蛭田恭介 ひるた きょうすけ
元蘭子の親衛隊長。今はニヒリストを気取り文学と格ゲーに耽る。一人称は小生。
・日乃本尊 ひのもと たける
純と音々の父にして、夢原の師匠。格ゲー黎明期の知る人ぞ知る英雄
・神獣倶楽部 しんじゅう くらぶ
青木、白井、玄田の格ゲー三人組。日乃本尊の実相を知るとされる。純らの次なる対戦相手。
・ムード むーど
夢原が自分の代わりに純らのもとに送りこんだ新コーチ。ちょっとエッチでお尻が好き。
・mako まこ
むーど同様、夢原の仲間で純らの新コーチ。大阪からやって来た理系女子。
・Drケーシー花崎 ドクターケーシーはなさき
医療法人花崎会の理事長にして、花崎兄妹の父。純に格ゲーによるリハビリを指導中。
・事務長 じむちょう
医療法人花崎会の事務方トップにして、花崎家の執事。
・ロードバトラー2
人気の格闘ゲーム。略称バトツー。リョウ、ゲン、ダル・シン、ハシミコフ、チャンリー、ゲイルなど多彩な格闘家が集う。某有名格闘ゲームとは無関係。




