第114ターン 俺っちの新コーチ、makoが来た
不慮の事故から身体の自由を失った高校生、日乃本純は格闘ゲームのプロを目指して立ち上がる。涙と感動の格ゲー小説。
女子プロレスラー、セイント・リカこそが君が使うべきキャラクターだ、新コーチのムードがクー子に言う。
女子プロ、それはクー子には懐かしい響きだった。決して平坦では無かったクー子の小中学校時代、華やかな女子プロの世界に憧れ、心の支えとした時期があった。
お気に入りのレスラーは多彩な技と不思議なムーブの豊田選手。あんなカッコいいお姉さんになりたい、そんなふうに考えた頃もあった。女子プロキャラかぁ、、、
「でもな、リカは飛び道具が無いから距離の管理に苦労するんちゃう?」
敵にどう近づくのか、これがミソやね。柔らかい関西弁。現れた見知らぬ女性とチーム夢原のキャプテン花崎誇。
「純、クー子ちゃん。紹介するよ、マスター夢が言っていたミー達の新コーチ、makoさんだ。」
ハロー、大阪から来た君らのコーチ、マッコです。ヨロピクね♡、と言うとムードに向かって、センパイ、来てはったんですか。スケベなこと言ったらあきませんよ、と軽口を叩く。
年の頃は二十代前半か、クッキリした顔つきの結構な美人で、早くも花崎は鼻の下を長くしている。
一方でアニマルな警戒心の持ち主、純はmakoに鋭い目を向けて尋問調で問う。
「オイッ、大阪女!オメェ、尼崎のナニワ兄弟*の仲間じゃ無いだろうな?」
[註]かつてクー子を恐喝して純らと闘った格ゲーマーコンビ、ヒロシとキー坊
「は?なんや知らんけど、アマはそもそも兵庫やん。アタシは箕面、北大阪は上品なんやで、覚えといて。」
ほら、キミ、そんな怖い顔せんでも格ゲーは出来るで。要は格ゲーはサイエンス、ロジックや。まずはフレームの理屈を理解せなあかんで。
そう言うと純の車イスを押して、プレステの側に連れて行く。ちょっと私とムードさんで模範演技を見せるから、自分らよく見ておくンやで。
makoはそう言うとクー子の手からコントローラーを取りあげ、ムードと対戦を始めるのであった。
つづく
人物紹介
・日乃本 純 ひのもと じゅん
本作の主人公。元は少林寺拳法に汗を流す高校二年生。事故で障がいを負い格ゲーでリハビリ中。バト2では日本人空手家リョウを使う。一人称は俺っち。
・クー子 くーこ
純の真ダチ。児童クラブ時代からの付き合い。ハイカラな東京言葉を使うが、実は関西出身。
・音々 ねね
純の姉。両親を早く亡くした純の母親代わり。苦学して一家を支える博識。何か秘密を抱えているようだ。
・花崎 誇 はなさき ほこる
医療法人花崎会の跡取り。純のライバルで格ゲー仲間。アメリカンな空手家ゲンを使う。一人称はミー。
・夢原 省吾 ゆめはら しょうご
伝説のプロゲーマー。落ちぶれ飲んだくれに。純と花崎の指導者としてゲーム界に復帰。音々とは因縁が、、
・花崎蘭子 はなさき らんこ
花崎の妹。兄を侮る高慢な女子高生。自分こそが花崎家の跡取りに相応しいと思っているようだ。一人称はアタクシ。
・蛭田恭介 ひるた きょうすけ
元蘭子の親衛隊長。今はニヒリストを気取り文学と格ゲーに耽る。一人称は小生。
・日乃本尊 ひのもと たける
純と音々の父にして、夢原の師匠。格ゲー黎明期の知る人ぞ知る英雄
・神獣倶楽部 しんじゅう くらぶ
青木、白井、玄田の格ゲー三人組。日乃本尊の実相を知るとされる。純らの次なる対戦相手。
・Drケーシー花崎 ドクターケーシーはなさき
医療法人花崎会の理事長にして、花崎兄妹の父。純に格ゲーによるリハビリを指導中。
・事務長 じむちょう
医療法人花崎会の事務方トップにして、花崎家の執事。
・ロードバトラー2
人気の格闘ゲーム。略称バトツー。リョウ、ゲン、ダル・シン、ハシミコフ、チャンリー、ゲイルなど多彩な格闘家が集う。某有名格闘ゲームとは無関係。