第112ターン ムード、ちょっとエッチな新コーチ
不慮の事故から身体の自由を失った高校生、日乃本純は格闘ゲームのプロを目指して立ち上がる。涙と感動の格ゲー小説。
夏が終わり二学期が始まった。あのサンシャイン学院での熱い死闘から一週間が過ぎようとしている。
純は久しぶりに登校した。格ゲーリハビリの効果か、指先の器用さも含めて上半身は事故以前に完全に戻ったと言っていい。
しかし車イスでクラスメートに再会することはやはり気が重かった。級友達の反応に気をもんだが、心配には及ばなかった。仲間達は昔どおりに純を迎え入れ、その境遇に同情したり、事故に憤ったりしてくれた。
ただ、クラスの根クラの中には今までの追従笑いとは違う、冷やかやな表情を見せる者もいた。
元気印のスポーツマンで、いわゆる根アカだった純は、彼らの複雑な気持ちにまで目が向いていなかった。障がいを持つ身になったひと夏を通じて、少し大人になった純だった。
授業が終わると純は花崎会のリハビリステーションに向かう。下半身の機能回復訓練と格ゲーの特訓だ。あの神獣倶楽部との決戦まであと3週間。
「もう〜何なのダ?!怒ったゾォ。」
クー子の声が事務室から聞こて来る。花崎の口利きで事務室内の応接セットを提供してもらい、チーム夢原の合同格ゲートレーニングジムとさせてらっている。
「お嬢ちゃんはお尻が大っきくてカワイイね♡」
完全アウトのセクハラお兄さんがどうやらクー子を口説いているようだ。
これに、エッチ・スケッチ・ワンタッチ!と往年のギャグで切り返すクー子。このあたりは彼女一流のダイバシティだ。
「僕の名前はムード。夢どのから聞いてないかい?今日から僕がクー子ちゃんのコーチだぞ。」
つづく
人物紹介
・日乃本 純 ひのもと じゅん
本作の主人公。元は少林寺拳法に汗を流す高校二年生。事故で障がいを負い格ゲーでリハビリ中。バト2では日本人空手家リョウを使う。一人称は俺っち。
・クー子 くーこ
純の真ダチ。児童クラブ時代からの付き合い。ハイカラな東京言葉を使うが、実は関西出身。
・音々 ねね
純の姉。両親を早く亡くした純の母親代わり。苦学して一家を支える博識。何か秘密を抱えているようだ。
・花崎 誇 はなさき ほこる
医療法人花崎会の跡取り。純のライバルで格ゲー仲間。アメリカンな空手家ゲンを使う。一人称はミー。
・夢原 省吾 ゆめはら しょうご
伝説のプロゲーマー。落ちぶれ飲んだくれに。純と花崎の指導者としてゲーム界に復帰。音々とは因縁が、、
・花崎蘭子 はなさき らんこ
花崎の妹。兄を侮る高慢な女子高生。自分こそが花崎家の跡取りに相応しいと思っているようだ。一人称はアタクシ。
・蛭田恭介 ひるた きょうすけ
元蘭子の親衛隊長。今はニヒリストを気取り文学と格ゲーに耽る。一人称は小生。
・日乃本尊 ひのもと たける
純と音々の父にして、夢原の師匠。格ゲー黎明期の知る人ぞ知る英雄
・神獣倶楽部 しんじゅう くらぶ
青木、白井、玄田の格ゲー三人組。日乃本尊の実相を知るとされる。純らの次なる対戦相手。
・Drケーシー花崎 ドクターケーシーはなさき
医療法人花崎会の理事長にして、花崎兄妹の父。純に格ゲーによるリハビリを指導中。
・事務長 じむちょう
医療法人花崎会の事務方トップにして、花崎家の執事。
・ロードバトラー2
人気の格闘ゲーム。略称バトツー。リョウ、ゲン、ダル・シン、ハシミコフ、チャンリー、ゲイルなど多彩な格闘家が集う。某有名格闘ゲームとは無関係。




