第110ターン 対戦上等、音々の決意
不慮の事故から身体の自由を失った高校生、日乃本純は格闘ゲームのプロを目指して立ち上がる。涙と感動の格ゲー小説。
青木、白井、玄田。この胡散臭い連中は自らを神獣倶楽部と名乗った。彼ら格ゲーマーのグループ名らしい。そして唐突に純らに格ゲー対決を要求してきた。
「チョイとお待ちよ!闘えって、純は基本対戦は禁止なのダ!」
クー子が血相を変えて激しく抗議する。純が格ゲーにハマることを懸念して来た音々の顔色を見てのことだろう。一本気だけではない気働きも見せる乙女、これがクー子の本領だ。
「ユー達は卑劣だ、イッツ、バッド!日乃本クンのお父さんをダシにするとは!」
憤る花崎に対して、嫌ならいいのですよ。こちらは親切くらいの思いで申し出ただけのこと青木が嘯く。純にとっては格ゲーマーの始祖とも言われる父親の話を少しでも知りたい。
「なあ、姉ちゃん、、俺っちは、、格ゲーをやりてえ!オヤジのことも知りてえ!」
純は偽らざる今の思いを吐露した。一同は固唾を呑んで音々の返答を待つ。音々は一呼吸おいてから話始めた。
「どうやら純は、父さん達も含めて私達家族は格ゲーから逃れられない運命なのかも知れないわね。」
「姉ちゃんだって、父さんがどうして亡くなったのか、詳しいことは何も知らない。」
「ただ、格ゲーが父さんや母さんが死んじゃったことと何か関係があったようなの。」
「でも姉ちゃんは、もう逃げない。純やみんなの闘いを見て負けてられないって思うようなったの。」
そう話すと音々は純の両肩に手をかけ、真っ直ぐに純を見つめて
「闘いなさい、純。格ゲーをやりなさい。自分の運命を、未来を変える為に。」
つづく
人物紹介
・日乃本 純 ひのもと じゅん
本作の主人公。元は少林寺拳法に汗を流す高校二年生。事故で障がいを負い格ゲーでリハビリ中。バト2では日本人空手家リョウを使う。一人称は俺っち。
・クー子 くーこ
純の真ダチ。児童クラブ時代からの付き合い。ハイカラな東京言葉を使うが、実は関西出身。
・音々 ねね
純の姉。両親を早く亡くした純の母親代わり。苦学して一家を支える博識。何か秘密を抱えているようだ。
・花崎 誇 はなさき ほこる
医療法人花崎会の跡取り。純のライバルで格ゲー仲間。アメリカンな空手家ゲンを使う。一人称はミー。
・夢原 省吾 ゆめはら しょうご
伝説のプロゲーマー。落ちぶれ飲んだくれに。純と花崎の指導者としてゲーム界に復帰。音々とは因縁が、、
・花崎蘭子 はなさき らんこ
花崎の妹。兄を侮る高慢な女子高生。自分こそが花崎家の跡取りに相応しいと思っているようだ。一人称はアタクシ。
・蛭田恭介 ひるた きょうすけ
元蘭子の親衛隊長。今はニヒリストを気取り文学と格ゲーに耽る。一人称は小生。
・日乃本尊 ひのもと たける
純と音々の父にして、夢原の師匠。格ゲー黎明期の知る人ぞ知る英雄
・Drケーシー花崎 ドクターケーシーはなさき
医療法人花崎会の理事長にして、花崎兄妹の父。純に格ゲーによるリハビリを指導中。
・事務長 じむちょう
医療法人花崎会の事務方トップにして、花崎家の執事。
・ロードバトラー2
人気の格闘ゲーム。略称バトツー。リョウ、ゲン、ダル・シン、ハシミコフ、チャンリー、ゲイルなど多彩な格闘家が集う。某有名格闘ゲームとは無関係。