第108ターン 俺っちのオヤジは誰なンだ?!
不慮の事故から身体の自由を失った高校生、日乃本純は格闘ゲームのプロを目指して立ち上がる。涙と感動の格ゲー小説。
それは唐突だった。少なすとも弟子達にとっては。格ゲーマスター夢原が純たちの元から去る。秘密を守れなかった己への罰だ。
え?待ってくれ、何でだよ!叫ぶ、純。ホワイ!花崎も驚きを隠せない。純情乙女のクー子は夢サン、何言ってんのさ!と夢原の腕にすがりつく。
「オイッ!姉ちゃん、いいだろ?夢サンを許してやってくれよ!」
純は音々に訴えるが、音々は純を見つめ返すだけで何も語らない。それは夢原さんが決めたこと、そう言いたげだ。
熱狂に包まれたサンシャイン学院の講堂は人も疎らになり、だた激闘の余韻を残すところとなっている。
蘭子や新井、そしてレフェリーを買って出た名物教員ピカピカ先生も会場を去り、チーム夢原の面々だけが突然の別れに蟠っている。
「ゆ、夢原サン、もう決めちまったのかい?」
純が口惜しそうに言う。寂しいぜ、もっと格ゲー教えてくれよ。純が幼子のように夢原にせがむ。父を知らない純はこの業界のレジェンドから初めて父性というものに触れた。
純たちが自分を慕う気持ちは充分伝わってくる。自分も純たちとの出会いで格ゲーに戻ってこれた、もう一度向き合うことが出来た。
が、ダメだ。何にも巻き込まれること無く、静かに弟と暮らしたい。そんな音々の願いを、ひいてはタケさんの願いを俺は台無しにしてしまった。
やはり去るべきだ。ここが潮時だ。自問自答する夢原、その決意は固い。純たちにもその強固な意志はビンビン伝わっている。夢サンの決心を変えることは出来ないようだ、三人の弟子は別離を決意した。
「、、じゃあさ、夢サン。最後に教えてくれよ、、俺っちのオヤジは誰なんだ?」
意を決した純の懇請、これに気圧される夢原。もう明かさざる得ない。純の父について、あの伝説の格ゲーマーについて。
夢原はチラッと音々を一瞥を送った。話ますよ、あなた達のお父さんのことを。夢原はゆっくりと語りだした。
「純坊、お前の親父さんは、、」
「それはねえ、日乃本タケルって言いましてねぇ、それはそれは強い格ゲーマーだったんですよぉ。」
夢原の告白に割って入った甲高い耳障りな声。振り返るとそこには三人の見知らぬ男たちがいる。
誰だ、てめえら!吠える純、フーアーユー?警戒を隠さない花崎、そして拳に息を吹きかけて既に臨戦体制のクー子。
「まあまあ、熱くなりなさんな。人の話は最後まで聞くものですよぉ。」
つづく
人物紹介
・日乃本 純 ひのもと じゅん
本作の主人公。元は少林寺拳法に汗を流す高校二年生。事故で障がいを負い格ゲーでリハビリ中。バト2では日本人空手家リョウを使う。一人称は俺っち。
・クー子 くーこ
純の真ダチ。児童クラブ時代からの付き合い。ハイカラな東京言葉を使うが、実は関西出身。
・音々 ねね
純の姉。両親を早く亡くした純の母親代わり。苦学して一家を支える博識。何か秘密を抱えているようだ。
・花崎 誇 はなさき ほこる
医療法人花崎会の跡取り。純のライバルで格ゲー仲間。アメリカンな空手家ゲンを使う。一人称はミー。
・夢原 省吾 ゆめはら しょうご
伝説のプロゲーマー。落ちぶれ飲んだくれに。純と花崎の指導者としてゲーム界に復帰。音々とは因縁が、、
・花崎蘭子 はなさき らんこ
花崎の妹。兄を侮る高慢な女子高生。自分こそが花崎家の跡取りに相応しいと思っているようだ。一人称はアタクシ。
・蛭田恭介 ひるた きょうすけ
元蘭子の親衛隊長。今はニヒリストを気取り文学と格ゲーに耽る。一人称は小生。
・Drケーシー花崎 ドクターケーシーはなさき
医療法人花崎会の理事長にして、花崎兄妹の父。純に格ゲーによるリハビリを指導中。
・事務長 じむちょう
医療法人花崎会の事務方トップにして、花崎家の執事。
・ロードバトラー2
人気の格闘ゲーム。略称バトツー。リョウ、ゲン、ダル・シン、ハシミコフ、チャンリー、ゲイルなど多彩な格闘家が集う。某有名格闘ゲームとは無関係。