第106ターン 決着!リョウ対ゲイル
不慮の事故から身体の自由を失った高校生、日乃本純は格闘ゲームのプロを目指して立ち上がる。涙と感動の格ゲー小説。
闘う二人がまるで息を合わせたかのように必殺技を放った。蛭田・ゲイルのサマーソルトキックと純・リョウの飛龍拳が画面やや左で交錯する。
勝つのはどっちだ。格ゲーの女神は皮肉な、そして示唆に富んた結末をデザインした。
一瞬早く技を繰り出した蛭田・ゲイルのバック宙キックは空を切り、これを下から衝き上げるようにして純・リョウのジャンピングアッパーカット、飛龍拳が突き刺さる。
ウォォォ!ゲイルの断末魔の叫びが会場に響くと同時にリョウ、ウィン!!のジャッジがコールされる。レフェリーのピカピカ先生も昂りを抑えられず絶叫する。
リョウが勝った、純が勝ったのだ!歓喜を爆発させるチーム夢原の面々。三人で抱き合うように純を囲むクー子と花崎。
が、純の顔は浮かない。
「勝ったのは俺っちじゃない。オマエだ、蛭田。」
目を伏せ横を向き、蛭田は何も語らない。代わりに純の思いを語ったのは姉の音々だった。
「たしかに、先に踏み込み一瞬早く技を出したのは蛭田クンのゲイル。」
「純のリョウは一歩遅れた分だけゲイルの攻撃を避けることが出来、そして宙に浮いたゲイルを下から攻撃出来た。」
「攻める勇気を前に、より多く出したのは蛭田クンだったね、純。」
姉ちゃん、、格ゲー嫌いの姉が滔滔と感想戦を語り始めたことに純は驚きを隠せない。いや、もう驚かない。だって俺たち姉弟の親父は、、、
そんな様子を拳を握り、感無量の表情の夢原。その目は潤んでいる。タケさん、音々ちゃんと純クンはこんなに立派に育ちましたよ、、
つづく
人物紹介
・日乃本 純 ひのもと じゅん
本作の主人公。元は少林寺拳法に汗を流す高校二年生。事故で障がいを負い格ゲーでリハビリ中。バト2では日本人空手家リョウを使う。一人称は俺っち。
・クー子 くーこ
純の真ダチ。児童クラブ時代からの付き合い。ハイカラな東京言葉を使うが、実は関西出身。
・音々 ねね
純の姉。両親を早く亡くした純の母親代わり。苦学して一家を支える博識。何か秘密を抱えているようだ。
・花崎 誇 はなさき ほこる
医療法人花崎会の跡取り。純のライバルで格ゲー仲間。アメリカンな空手家ゲンを使う。一人称はミー。
・夢原 省吾 ゆめはら しょうご
伝説のプロゲーマー。落ちぶれ飲んだくれに。純と花崎の指導者としてゲーム界に復帰。音々とは因縁が、、
・花崎蘭子 はなさき らんこ
花崎の妹。兄を侮る高慢な女子高生。自分こそが花崎家の跡取りに相応しいと思っているようだ。一人称はアタクシ。
・蛭田恭介 ひるた きょうすけ
元蘭子の親衛隊長。今はニヒリストを気取り文学と格ゲーに耽る。一人称は小生。
・Drケーシー花崎 ドクターケーシーはなさき
医療法人花崎会の理事長にして、花崎兄妹の父。純に格ゲーによるリハビリを指導中。
・事務長 じむちょう
医療法人花崎会の事務方トップにして、花崎家の執事。
・ロードバトラー2
人気の格闘ゲーム。略称バトツー。リョウ、ゲン、ダル・シン、ハシミコフ、チャンリー、ゲイルなど多彩な格闘家が集う。某有名格闘ゲームとは無関係。