第105ターン ノーガード、俺っち達の格ゲー賛歌
不慮の事故から身体の自由を失った高校生、日乃本純は格闘ゲームのプロを目指して立ち上がる。涙と感動の格ゲー小説。
いよいよ終盤戦、時間も残すところあと30秒。純が操るリョウと蛭田のゲイルの残り体力はほぼ同じ20%ぐらいだ。
お互いが相手の攻撃を警戒して動けない状況、飛び道具を散らして隙を窺うが中々踏み込めない。
固唾を飲んで対戦を見守る観衆達。あれだけ格ゲーをバカにしていた花崎蘭子も真剣な顔つきでディレクターチェアから身を乗り出してメガホンを握りしめている。
もう、逃げない、攻めて勝つ。そう決心した蛭田。純・リョウの気流拳をかわしながらゲイルを少しずつ前進させる。
そのアクションに純もまた攻めて勝つと心に決める。が、さっきと同じテでは、蛭田に読まれる。烈風脚で近づくまではいいがその後が攻防が勝負を決する。どうすればいい??
純、逃げんといて。クー子が祈る。日乃本クン、ユーに任せた。己の運命を良きライバルに委ねた花崎。そして夢原。
この闘いは、もはや勝ち負けを競うものではない、格ゲー界のビッグシンカーは思う。二人の若者が自分自身を超える為のイニシエーションなのだと。
何故闘う?何故勝ちたい?勝ってどうする?ビデオゲームに負けて何を失う?そんな懊悩や葛藤に苛まれながらも、若き格ゲーマー達は人間として成長していく。そんな純達の側にいてやりたかったが。。
「クッ、夢サン!俺っちはどうすれば?!」
訴えるように横目で目配せした純を黙って見守る、マスター夢原。もう指示は出さない。純自身が自分で何をすべきか分かっているはずだ。
「。。そうか、夢サン、わかったゼ!俺っち、蛭田をリスペクトするぜ!」
グッ、前に出てくる蛭田・ゲイル。これに引かずに前に出る純・リョウ。お互いにやるな、とエールを交換する二人。
「行くぜ、ニヒル!」
「おう、格バカ!」
両者は息を合わせたように互いの必死技をぶつけ合う。
「ムーンサルトキィィック!!」
「飛龍拳!!」
つづく
人物紹介
・日乃本 純 ひのもと じゅん
本作の主人公。元は少林寺拳法に汗を流す高校二年生。事故で障がいを負い格ゲーでリハビリ中。バト2では日本人空手家リョウを使う。一人称は俺っち。
・クー子 くーこ
純の真ダチ。児童クラブ時代からの付き合い。ハイカラな東京言葉を使うが、実は関西出身。
・音々 ねね
純の姉。両親を早く亡くした純の母親代わり。苦学して一家を支える博識。何か秘密を抱えているようだ。
・花崎 誇 はなさき ほこる
医療法人花崎会の跡取り。純のライバルで格ゲー仲間。アメリカンな空手家ゲンを使う。一人称はミー。
・夢原 省吾 ゆめはら しょうご
伝説のプロゲーマー。落ちぶれ飲んだくれに。純と花崎の指導者としてゲーム界に復帰。音々とは因縁が、、
・花崎蘭子 はなさき らんこ
花崎の妹。兄を侮る高慢な女子高生。自分こそが花崎家の跡取りに相応しいと思っているようだ。一人称はアタクシ。
・蛭田恭介 ひるた きょうすけ
元蘭子の親衛隊長。今はニヒリストを気取り文学と格ゲーに耽る。一人称は小生。
・Drケーシー花崎 ドクターケーシーはなさき
医療法人花崎会の理事長にして、花崎兄妹の父。純に格ゲーによるリハビリを指導中。
・事務長 じむちょう
医療法人花崎会の事務方トップにして、花崎家の執事。
・ロードバトラー2
人気の格闘ゲーム。略称バトツー。リョウ、ゲン、ダル・シン、ハシミコフ、チャンリー、ゲイルなど多彩な格闘家が集う。某有名格闘ゲームとは無関係。