第103ターン 熱戦!リョウ対ゲイル
不慮の事故から身体の自由を失った高校生、日乃本純は格闘ゲームのプロを目指して立ち上がる。涙と感動の格ゲー小説。
「いいぞ、純!アグレッシブに行け!」
意を決したかのように、指示を飛ばし始める夢原。吹っ切れたような面持ちは何を語る。
純と蛭田の対戦は序盤から中盤に差し掛かる。バトツー*経験は蛭田が勝るが、彼が操るゲイルは所謂タメキャラ。必殺技の発動に若干の時間を要する。初心者にはイマイチ不向きだ。
[註]本作の架空の格闘ゲーム、ロードバトラー2の略
その点、純が操るリョウは主役に相当するキャラクターでバランスが良く、ソフトメーカーご推奨のファイターなのだ。
そんな訳で若干力量に差がある二人ではあるが、白熱した好勝負を展開している。
「純、足元、足元を狙え!」
言わずと知れたゲイル遣いの夢原、その弱点も熟知している。初心者は概して足元がお留守になりがちだが、ゲイルはそもそもから足元に難がある。
「バット、マスター夢。足元を狙いたくても飛び道具に牽制されて中々近づけないですよ。トゥーディフィカルト!」
花崎がスパイシーなイングリッシュで純の思いを代弁する。飛び道具を避ける術はあるのか。
「純、思い出せ!応用問題だぞッ。」
夢原の激に一瞬呆気に取られたが、ヨシッやってやると純の頭に秘策が閃いた。蛭田・ゲイルの繰り出すソウルビームに合わせて、方向キーを↓↙←に弾き、同時にR2ボタン、大キックキーを叩く。
「レップウ〜キャク!」
純が叫ぶとリョウが身体を回転させながら前進する、烈風脚を発動し、ゲイルが放ったソウルビームを避け、ゲイルとの距離を一気に詰める。そして透かさずゲイルの足元を狙った屈み大キック。
やったぁ!すり抜けだ、と沸く夢原陣営。純はかつて対戦中に体得した、攻撃を防御に変える技の応用を披露してみせた。
つづく
人物紹介
・日乃本 純 ひのもと じゅん
本作の主人公。元は少林寺拳法に汗を流す高校二年生。事故で障がいを負い格ゲーでリハビリ中。バト2では日本人空手家リョウを使う。一人称は俺っち。
・クー子 くーこ
純の真ダチ。児童クラブ時代からの付き合い。ハイカラな東京言葉を使うが、実は関西出身。
・音々 ねね
純の姉。両親を早く亡くした純の母親代わり。苦学して一家を支える博識。何か秘密を抱えているようだ。
・花崎 誇 はなさき ほこる
医療法人花崎会の跡取り。純のライバルで格ゲー仲間。アメリカンな空手家ゲンを使う。一人称はミー。
・夢原 省吾 ゆめはら しょうご
伝説のプロゲーマー。落ちぶれ飲んだくれに。純と花崎の指導者としてゲーム界に復帰。音々とは因縁が、、
・花崎蘭子 はなさき らんこ
花崎の妹。兄を侮る高慢な女子高生。自分こそが花崎家の跡取りに相応しいと思っているようだ。一人称はアタクシ。
・蛭田恭介 ひるた きょうすけ
元蘭子の親衛隊長。今はニヒリストを気取り文学と格ゲーに耽る。一人称は小生。
・Drケーシー花崎 ドクターケーシーはなさき
医療法人花崎会の理事長にして、花崎兄妹の父。純に格ゲーによるリハビリを指導中。
・事務長 じむちょう
医療法人花崎会の事務方トップにして、花崎家の執事。
・ロードバトラー2
人気の格闘ゲーム。略称バトツー。リョウ、ゲン、ダル・シン、ハシミコフ、チャンリー、ゲイルなど多彩な格闘家が集う。某有名格闘ゲームとは無関係。