第101ターン 俺っち、蛭田との最終決戦に挑む
不慮の事故から身体の自由を失った高校生、日乃本純は格闘ゲームのプロを目指して立ち上がる。涙と感動の格ゲー小説。
講堂のバルコニーに怪しい三つの影、まさに高みの見物と言わんばかりに、純と蛭田の決戦を眺めている。
「しかし日乃本純が、まさかあの伝説の、、、」
そう言うとヒヒヒと笑い出し、敢えて言葉を濁したずんぐりとした体格の男。緑の学生服が珍しい。
よせ、まだ決まったワケじゃないだろと、もう一人の痩せ型の男が窘める。白銀に染めた前髪で片目が隠れている。
どっちにせよ、このバトルが終われば大体のことは分かるでしょうよ、と第三の男が独りごちる。ソフトな話し口とは裏腹にバトルを映す大型ビジョンに鋭い眼光を向ける。
・・・
今しがたピカピカ先生のコールで闘いの火蓋は切って落とされた。純が操るリョウは定石どおりバックステップで敵と距離を取る。
一方の蛭田・ゲイルはこれまでのとは打って変わって、果敢に攻撃を繰り出す。中キック、ソバットが空を切る。
ドッと沸く会場、いわゆる「待ちゲイル」を捨てアグレッシブに闘う蛭田・ゲイルにリスペクトの拍手が沸き起こる。
そこで純が蛭田を一瞥してニヤリ。蛭田もどうだ、といわんばかりに片眉を上下させる。
刹那、コントローラーを置いた二人のプレイヤーがチェアから身を乗り出してハイタッチ!この即興のエール交換に会場のボルテージは最高潮に達する。
フェアにやろう、純と蛭田のメッセージがオーディエンスをも熱くする。フンッと鼻を鳴らしながらも満更でもなさそうな蘭子。
純、イカすよ!クー子の声援もかき消される程の大盛り上がり。そんな最高の舞台で決意を固める純達の師匠、マスター夢原。
「ケジメだ。これが最後のセコンドだ。」
つづく
人物紹介
・日乃本 純 ひのもと じゅん
本作の主人公。元は少林寺拳法に汗を流す高校二年生。事故で障がいを負い格ゲーでリハビリ中。バト2では日本人空手家リョウを使う。一人称は俺っち。
・クー子 くーこ
純の真ダチ。児童クラブ時代からの付き合い。ハイカラな東京言葉を使うが、実は関西出身。
・音々 ねね
純の姉。両親を早く亡くした純の母親代わり。苦学して一家を支える博識。何か秘密を抱えているようだ。
・花崎 誇 はなさき ほこる
医療法人花崎会の跡取り。純のライバルで格ゲー仲間。アメリカンな空手家ゲンを使う。一人称はミー。
・夢原 省吾 ゆめはら しょうご
伝説のプロゲーマー。落ちぶれ飲んだくれに。純と花崎の指導者としてゲーム界に復帰。音々とは因縁が、、
・花崎蘭子 はなさき らんこ
花崎の妹。兄を侮る高慢な女子高生。自分こそが花崎家の跡取りに相応しいと思っているようだ。一人称はアタクシ。
・蛭田恭介 ひるた きょうすけ
元蘭子の親衛隊長。今はニヒリストを気取り文学と格ゲーに耽る。一人称は小生。
・Drケーシー花崎 ドクターケーシーはなさき
医療法人花崎会の理事長にして、花崎兄妹の父。純に格ゲーによるリハビリを指導中。
・事務長 じむちょう
医療法人花崎会の事務方トップにして、花崎家の執事。
・ロードバトラー2
人気の格闘ゲーム。略称バトツー。リョウ、ゲン、ダル・シン、ハシミコフ、チャンリー、ゲイルなど多彩な格闘家が集う。某有名格闘ゲームとは無関係。