第10ターン 俺っち、リハビリでゲームをする
不慮の事故から身体の自由を失った高校生、日乃本純は格闘ゲームのプロを目指して立ち上がる。涙と感動の格ゲー根性物語。
「ゲ、ゲームでリハビリしたら治療費は無料なんだな。」
純がケーシー*に確認した。
[註]ケーシーは医師が着る衣服、作業着。理学療法士もその運動性から好んで着用。ここでは花崎の父親を指す。
「エグザクトリィ。このDr花崎パパに二言はありませんよ。」
「ダメ!純、お金は心配しなくていいから!純はコントローラーなんて握っちゃダメ!」
姉の音々(ねね)が猛然と反発する。治療費の為、何故ダメなのかと純が姉に問う。
そんなやり取りを思惑ありげに眺めていた花崎が割り込んだ。
「レディース、いや、お姉様。悪い話じゃないと思いますよ。楽しくゲームで治療を進めるンだから。」
そして、ニヤリ。
「何か、ゲームに悪い思い出でも?」
刹那、クー子は美しい音々のゾッとするほど凄んだ表情を見逃さなかった。
「これは家族の問題です。」
穏やかに毅然と音々は花崎に返した。ブルジョアの鼻っ柱をワーキングクラスがへし折ったカタチだ。花崎は反論出来ない。
するとクー子が、お姉さん、私も悪くない話と思いますよ、お試しだけでもやって見ればと勧めてきた。
クー子は純と過ごした学童時代を思い出していた。他の子ども達は皆、何かしらのゲーム機を持っていて、実際、クー子の家にもセガサターンがあった。
純とてゲームには興味があっただろう。ただ、幼い頃に両親を亡くした純の暮らしの中には、娯楽にお金をかけるプチブル趣味が入り込む余地なぞ無かった。
携帯型のゲーム機で楽しむ同級生達を横目に、校庭を走り回ったり、ボール遊びをしたりして純は放課後を過ごしていた。
純がゲームを楽しむ、そんな機会があってもいい、クー子はそう思ったのだ。
つづく