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山本さん

作者: 悠 

 ラインの返事が気になる相手はいつだって山本さんだ。 今何をしているのか気になるのも山本さん。 最近何の映画を見たのか気になるのも山本さんだし、何よりキスが上手なのが山本さんだ。

 僕は山本さんが好きすぎる。 22歳の僕は2つ年上の山本さんのことを毎日思っている。

 なぜそんなに好きかというと、可愛いから。黒髪ショートの清楚系。 優しいお姉さん系。趣味は読書と映画鑑賞。お酒は弱いから飲まない。

あと可愛い。

 僕は今フリーでライターの仕事とコンビニのアルバイトをしている。 山本さんはここのコンビニの先輩だ。

 今日もシフトが被っていて、山本さんとレジで一緒だった。

「山本さん湊かなえの最新作読みました?」

「読んだ!君も読んだの?」

「もちろん!前に山本さんに借してもらってからすっかり湊かなえのファンになりましたからね〜」

「それはよかった。最新作も衝撃のオチだったね〜」

「読み終わった日の夜は眠れなかったですよ」

「私も〜。眠れなかったなら私の家来ればいいのに」

「いやその日は一人で噛みしめたかったんですよ、あのラストを」

行けばよかったと思った。 山本さんは一人暮らしで、よく僕を招いてくれる。 キスはたくさんしたが、寝てはいない。 一度こういう関係になってから、山本さんはよくこんなふうに誘ってくれる。

「あ〜わかるわかる。その気持ち。本を読んだ後は語りたい気持ちもあるんだけど、一人で浸ってその作品を頭の中でまとめたい気持ちもある」

「さすが山本さん分かってますわ」

「なんて言ったって先輩だからね!」

ピースをしながら笑顔を作った山本さん、可愛すぎる。今すぐ抱きしめたいが、残念ながらバイト中なので自粛した。

「山本さん、今日暇ですか?」

「ん?どうしたの?」

「ご飯行きません?」

「あ〜今私金欠気味なんだよね」

「珍しいですね、何かに使ったんですか?」

「内緒〜。だからさ、私の家でならいいよ」

断るわけもなく、僕は山本さんとバイトを上がると二人で山本さんの家に向かった。

 バイト先のコンビニでお酒を買い、安酒を飲みながら二人で湊かなえの最新作を語り合った。山本さんはほろ酔いしか飲まない。

酔うと少し頬が赤くなるところ、段々と僕との距離が近くなる甘えん坊なところ、そして僕が見つめると見つめ返してくるところ。全部可愛い。いつも可愛い。だからキスをする。最初は優しく。そして段々激しく、熱く、情熱的に。 お互いに手を強く絡める。あぐらをかいた僕の上に山本さんが乗る。体の全てが触れる。

「山本さんエロすぎ」

「…うるさい」

僕は今日こそと思い、山本さんの乱れたロングスカートに手を入れようとした。その瞬間、山本さんの体が一気に強ばり、僕の手を掴んだ。

「ダメ」

「なんでですか?」

「それは辞めて」

「したいです」

「したくない」

いつもこうなのだ。寝る前の様な熱いキスから手を出そうとするとマジで止められる。だから僕たちは寝た事がない。生殺しである。

「興奮しすぎ」

「しますよ普通。てかいつもなんでしないんですか?」

 すると山本さんは僕の顔を真剣な面持ちで見つめた。それ以上聞くなという事だろうか。山本さんは何も答えずテーブルの上の酒のゴミを片付け出した。


「じゃあまたね」

「はい、また」

 夜中の12時くらいに僕は山本さんの家を出た。 僕の家はここから歩いて5分もかからない。だからとはいえ、普通泊まらせてくれるものではないのだろうかと図々しいが思ってしまう。今日も寝ることは無かったものの、山本さんは本当にキスが上手い。滑らかなでとろける様な唇と舌遣い。本当にエロすぎる。思い出すとにやけてしまうので、口元を抑える。しかしいつも最後はこうなる。手を出そうとした僕を止めて、少し雰囲気が悪くなる。そして僕は帰る。山本さんはしたくないのだろうか。僕はモヤモヤした気持ちで家に帰り、酔ってたせいかすぐに眠りについた。


 起きた瞬間から山本さんのことを考えた。ベットに寝転がったまま手を伸ばしてスマホを取る。ラインを見るが連絡はない。いつものこと。

 時計を見ると11時を過ぎていた。酒を飲んだ次の日は大体起きられない。起き上がる気力もないのでもう少し寝ようかと目を瞑るが、昨晩の山本さんとのキスを思い出し寝れなくなった。 大好きな山本さんとキスをできた喜びと、断られた時の山本さんの表情を思い出し、少し胸が苦しくなる。

 ベットの上で30分くらい考え込んだ後、ようやく重い体を起こしシャワーを浴びて軽くパンを食べる。この時も基本山本さんの事を考えている。

 そしてノートパソコンを開き、文字を入力し始める。 納品が近くなったWEBライターの仕事を片付けにかかる。 


 山本さんが大好きな琴田悠人は22歳独身。普段はフリーでWEBライターとして活動している。

 生活費のため週に3回コンビニでもアルバイトをしている。彼女はいない。一年前まで4年付き合っていた女性がいたが別れた。理由は相手の浮気。3日は泣き続けた。 よく浮気された人が言う「もう恋愛なんかしない」というベタなことは言わなかった。 確かに恋愛はしばらく休憩かなという感情はあったが、その頃に山本さんと出会った。最初はかわいらしい人だなと思ったくらいだった。山本さんはコンビニでは2年ほど先輩だった。初めてシフトが被った日にすぐに意気投合した。映画の話。小説の話。恋愛の価値観。こんなに気が合う人は初めてだった。すぐに好きになった。ご飯に誘おうとしたら向こうから誘われてめちゃくちゃに嬉しかった。山本さんには元カノの話をよくした。山本さんも元彼の話をよくした。元恋人の嫌なところが似ていた。ずっと元カノの愚痴を話していたが、山本さんと話すのが楽しくて、嫌な気持ちにはならなかった。

初めて山本さんとキスをしたのはある夏の夜。その日は風が涼しくて心地よかった。 二人で散歩をしている時だった。 僕は隣に歩いている山本さんの横顔がたまらなく可愛く見えた。 勢いのままに袖を掴んでキスをした。 山本さんは嫌がらなかった。 唇を離して見つめると山本さんも見つめ返してくる。 少し紅潮した頬が可愛過ぎて、もう止まれなかった。 山本さんも激しく返してくる。

というかキスが上手すぎて目が回りそうだった。

「嫌じゃないんですか?」と僕はずるい質問をした。すると山本さんは少しだけ笑う。

「うち来る?」

 断る理性もなく、山本さんの家でまたキスをした。正直今夜寝ることになると思っていた。

「これ以上はダメ」

 例の常套句だと思い、僕は山本さんの胸に手を伸ばそうとした。ただ僕の手は山本さんに届くことはなく自然と止まった。止められたのではなく僕が止めた。山本さんの表情が本気で断っていたから。

「ダメですか?」

「キスだけにしよ」

「キスはいいんですか?」

 山本さんが曖昧にうなずく。

 何か理由があるのだろうかと考え、それ以上は追求しなかった。

 山本さんは僕の頭を少し微笑みながら撫でた。

嬉しくなる。山本さんの華奢な白い手に撫でられのが大好きだった。

 僕はそのまま倒れる様に山本さんに抱きついた。


 ライターの仕事が片付いたので、パソコンを閉じて何か食べようと思い冷蔵庫に向かう。時計を見ると昼の2時。朝から何も食べていないので、なんでもいいから食べたかった。

 冷蔵庫を開けると何も入っていなかった。野菜は少しあるが、少し残った野菜でどうにかできる料理スキルはないし、何より今すぐ食べたい。カップ麺でもあればなーと思っていると、ケータイがなった。画面を見ると友達の梨花からの電話だった。いいところに電話が来たと思い電話に出る。

「もしもし」

「あ、もしもし?琴田くん今家にいる?」

「いる。空腹で死にそう」

「今琴田くん家の近くにいるんだけどいってもいい?なんか買ってくから」

「まじで助かる。是非お願いします!」

 梨花は一個年下の女の子。小柄で小動物の様な雰囲気がある。前に働いていたアルバイト先の後輩だった。今は東京の大学に通っている。明るい性格で梨花とはすぐに友達になった。まあいわゆるセフレに。お互い寝たからと言って関係を持つような考えがなかったので楽だった。お互いに寝たくなったら連絡する。

 僕は梨花が買ってきてくれたハンバーガーを食べて復活した。そのままベットで梨花を抱く。昨日の山本さんの件もあったので少し熱が入った。

「今日激しかったね。なんかあったでしょ」

「昨日また山本さんに断られた」

「また?」

「また」

「君も懲りないねえ」

「めっちゃ好きだからね」

「付き合わないの?」 

「うーん、あっちは好きじゃないでしょ」

「君のこと?」

「うん。好きだとしても付き合わないと思う」

「ああ。その気持ちはなんとなくわかるかも」

 恋人になることで今の関係が変わるのが怖い。今の山本さんを愛してやまない気持ちが変わってしまいそうで怖い。今僕の中で生きている山本さんを殺したくない。ずっと僕の好きな山本さんでいて欲しい。だから付き合いたいとは思わない。梨花はどこまで理解してくれてるかは分からないが、こうゆう僕の女々しい性格をいつも理解してくれる。


 梨花は「また来る」と言い帰っていった。

 ケータイを確認してラインを見る。山本さんからの連絡はない。ため息がでた。他のどんなにかわいい女の子や性格のいい子と遊んだりしても結局山本さんのことを考える。クズだなあと我ながら思う。

 しかしそれから1ヶ月山本さんとコンビニでシフトが被らず、連絡もなかった。


「悠人好きだよ」

「僕も、真美が好きだよ」

 僕の部屋で僕が抱いているのは一週間前に付き合った彼女の真美。高校時代の同級生。先日高校時代の同級生で飲み会があり、真美と再開した。綺麗な子だった。おしとやかで周りに気が配れるとてもいい子。高校生の時僕は彼女と接点は特になかったが、その飲み会で真美が「抜けない?」と言いホテルに行った。帰り際に真美に好きだった事と付き合って欲しいことを告げられた。僕は真美に対して何の感情もなかったが、山本さんの事で毎日悩む日々にも辟易していた事があって、付き合うことにした。付き合えば山本さんの事を忘れられると思った。

 

 真美は本当にいい子だった。ほとんど毎日料理を作ってくれるし、僕が在宅でライターの仕事をしながらコンビニでバイトをしている現状にも理解をしてくれて、「いつかアルバイトをしなくてもいいくらいになれるといいね!」と言ってくれた。嬉しい反面、胸が痛んだ。僕は実際収入的にはライター一本でも生活していける。ライターの活動は高校を卒業してから5年近く続けているため、まあ軽く稼げている。それでもコンビニを辞めないのは、山本さんがいるからだ。最近山本さんは極端にシフトの数が減っていて全く被らない。僕も少しライターの仕事が忙しくなり、シフトを減らしたので尚更被らない。それでもそのうち被るだろうと思い、続けている。連絡はこないし、僕からはしない。真美がいることというよりかは、山本さんに嫌われる事が怖いだ。

 真美に山本さんのことは言っていない。僕は真美に対して最初は特に好意も何もなかったが、付き合ううちに真美を想う気持ちが芽生えてきた。本当に僕にはもったいないくらいいい子で、誰でも真美と一緒にいれば真美のこと好きになるんじゃないかとさえ思う。

「悠人好きだよ」真美はいつも言ってくれる。朝起きた時。デートをしている時。夜寝る前。幸せだと思った。本当に真美の事が好きだと思った。大切にしたいと本当に思える子だった。

 真美は日中が大学に通っている。今年4年生なので就活生。真美は優秀で受けた4社とも全て内定をもらっていて、早い段階で就活を終えた。最終的に大手広告代理店に決めた。「入社したら悠人に仕事持ってきてあげるね」と嬉しそうに言っていた。「真美好きだよ」と僕もよく伝えた。伝えるたびに本当に好きになっていった。


「コンビニ辞めようと思うんだ」

「真美ちゃんのため?」

「それもあるし、自分のためでもあると思う」

 その日はお昼に梨花とランチをしていた。真美と付き合ってから彼女と会うのは初めてだった。

「そっか。真美ちゃん本当にいい子なんだね」

「うん。僕には本当にもったいないよ」

「本当だよ。悠人君のどこがいいんだろうね」

 こらと言うと梨花はカラッとした表情で笑う。

「山本さんの事は忘れられるの?」

「正直完全に忘れるにはもう少し時間かかるかなあ。今だってラインの通知くると山本さんかなと思うし、今何してるのかなあってふと考えるよ」

「そっか、そうだよね」

「でもそれ以上に今は真美を大切にしたい気持ちが勝つかな。だから今からコンビニ辞める事伝えてくるよ」

「よかったよ、君がまたちゃんと恋愛できるようになれて」

「ありがとね。いつも話聞いてくれて」

「あ、もうバイトの時間になるよ。頑張ってね」

 僕はまたありがとうと伝え、席をたち店をでた。梨花と会う事はもうないだろうなと思う。梨花もその事を分かっていた。だから最後に彼女は少し泣きそうな顔をしていた。僕は彼女の本当の気持ちを本当は知っていた。男女の関係は大体どちらかの好意で繋がっている。


 店に着いて制服を着る。そして店長に辞める事を伝えた。

「そっか。寂しくなるね」

「本当にお世話になりました店長」

店長は30代前半の男性で、とてもおだやかな性格の人だった。僕はこの人の元で2年ほどお世話になった。

「ライターの方頑張ってるんだ?」

「締め切りに追われる毎日です」

「琴田君仕事できたから僕としては残って欲しいけど、君はやりたい事があるからね応援するよ。路頭に迷ったらまた戻ってきてもいいから」

「ありがとうございます。じゃああと1ヶ月頑張らせていただきます」

 

 バイトの勤務が始まる10分前くらいに店長のケータイが鳴る。会話を聞くとどうやら今日シフトに入っていた高校生のアルバイトの子が体調を崩した様で休むことになった様だ。

「困ったね」

 店長は変わりを探しておくからそれまで琴田くんと昼の時間帯の人に少し伸ばしてもらうことにした。

 予感はしていた。

「お疲れ様です〜」

「ごめんね!シフト急に入ってもらっちゃって!」

「全然いいんですよ!今日暇だったんで!」

 山本さんと会うのは3ヶ月ぶりだった。前はほぼ毎日会っていたから、体感的には1年ぶりにあったかのようだ。

 少し伸びて残ってくれた日勤の主婦さんと店長が上がり、山本さんが代わりにレジに入る。

「久しぶり〜げんきしてた?」

「久しぶりですね、僕は相変わらずです。先輩は?」

「うーん、元気かな、まあ」

 相変わらず山本さんは可愛かったし、黒髪清楚で髪は少し伸びていた。でも少し違った。気のせいか、どこか暗く感じた。本当に元気がある様には見えなかった。

「シフト全然被りませんでしたね」

「私かなり減らしたからね〜」

「他のバイトとか始めたんですか」

 山本さんが何か言いかけたが、お客さんがレジにきて山本さんは接客の対応をした。 

 お互いに連絡をしなかった事に触れなくて、気を遣いながらの会話が気持ち悪かった。山本さんが何を考えているのかが全く分からなかった。

 その後山本さんは商品の陳列をしていて、僕はレジにいたためほとんど話さなかった。

 もう勤務時間が終わりかけた時だった。山本さんがレジに戻ってきた時に山本さんが話しかけてきた。

「ねえ、悠人くん」

 僕はなんだろうと思い山本さんを見つめた。山本さんはどこか思い詰めた様子で少し俯いていた。僕が好きでやまなかった山本さん。今見ても容姿も雰囲気もタイプだ。それでも前より好きな想いは少なくなった。でもこんな山本さんは見た事がなかった。いつも優しかった山本さん。自分のことより人のことを考えている様な人だった。その山本さんが今、多分自分のことを話そうとしている。

「私ね、おと・・・」

 山本さんがやっと口を開いた時に、来店のチャイムが鳴った。僕と山本さんは話をやめて体の向きを変えていらっしゃいませと言う。

「お疲れ」

 真美だった。


「来てくれたんだ」

「うん、今日講義早く終わって」

 真美は今までも僕が働いているところをよく見にきた。いつも見にきてくれる事に嬉しくて癒されていたが、今日は山本さんがいた手前、少しドキドキした。別にやましいことなんかないのに。僕と真美が話しているところを山本さんに見られている状況が居心地が悪かった。

「もう少しで終わるけど、待ってる?」

「ううん、今日は買い物したから先に悠人の家でご飯作ってるよ〜」

「ありがとうございます」

 僕は手を合わせて言った。

「いいよ〜、じゃああと少し頑張ってね!」

そう言うと真美は僕の隣にいる山本さんに頭を下げて帰っていった。

「そっか、悠人くんよかったね」

 山本さんは真美と僕の関係を理解してそう言った。

「いつから?」

「2ヶ月前くらからです。高校の同級生だったんです」

「そっか、いい子そうだね」

 山本さんは心からそう言っている様だった。でも何かの感情を投げる様な言い方でもあった。

「そういえばさっきはなんて言おうと・・・」

 さっき聞けなかった山本さんの言葉を聞こうとしたけど、できなかった。

 山本さんは泣いていた。


 今日が最後のシフトだった。あれから1ヶ月たった。あれから山本さんとは結局会ってもいないし、連絡もとっていない。最後のシフトは店長と二人だった。

 あの日のバイト終わり結局山本さんは何も言ってくれなかった。二人で上がった後にどうしたのか聞こうとしたが辞めた。これを聞かない方がいいと思った。これを聞いたらまた山本さんのことを忘れられなくなると思ったことと、脳裏に真美の笑顔が浮かんで、声をかけるのを辞めた。

 山本さんはそのまま僕から逃げる様に帰っていった。

 あの時の山本さんの涙の理由はなんだったのだろうか。しかし僕はこの1ヶ月大手出版社との大きいプロジェクトに携わる事になり大忙しで山本さんの事もあまり考えていなかった。疲れ果ててる時も真美が支えてくれた。

 ギリギリ締切に間に合い、落ち着いた頃に最後のコンビニのバイトに出勤する。 

 すると店長から驚くことを告げられた。山本さんが辞めた事。突然電話で今日辞めさせてくださいと言われたらしい。あの夜の次の日だった。理由を聞くと言ってくれなかったらしい。いつも明るい山本さんがとても思い詰めた様子だったからただならぬ事だと察して店長もあまり聞かなかったらしい。

 僕は呆然としながら最後のバイトを終えた。


 僕は真美と家でご飯を食べていた。

「おいしい?」

「めっちゃおいしい」

 真美の作るオムライスは絶品だった。隠し味があるらしいが今だに教えてくれない。

「よかった!美味しそうに食べる悠人がかわいくてつくりたくなっちゃんだよね」

「じゃあ一生作ってよ」

「ずっと一緒にいてくれるの?」

「怒るよ?」

 真美は嬉しそうにして僕の隣に座りにきて僕にキスをした。

 真美とキスをしてから見つめ合う、興奮して遅いそうになるが、真美に止められる。

「だめ、ご飯食べてからね。せっかく作ったんだから。」

「ちぇ〜、わかりましたよ」

「あとでね」

 可愛い真美に癒されながらご飯をまた食べ始めるとテレビのニュースから物騒な事件が流れてきた。娘を殺害したとして逮捕された男の顔が写っていた。ひどくこけた顔の男だった。借金まみれで、一人暮らしの娘にお金をたかっていたらしい。おまけには性的虐待も加え、最後はお金が出せなくなった娘を殺害。吐き気がする様な事件だった。最後に殺害された娘の写真が写される。背筋が凍った。写真も名前も山本さんだった。僕がずっと好きだった山本さんだった。


 僕は選択を間違えた。

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