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魔法学園創設者の苦悩  作者: 有里桃貴
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魔法学園



マリアは驚愕した。


自身が創設したはずの学園は、千年のうちに目覚ましい成長を遂げていたのだ。


千年前でも立派な建造物であったが、魔法と科学の発展により、壮観な学園都市に変貌を遂げていた。


ホログラムの映像や機械仕掛けのアンドロイドが道を行き、天辺が見えないほどに高い建物が数多く立ち並んでいる。


ラックの村で暮らしてきたときもテレビなどの電化製品の存在には驚いたのだが、まさかブレス達がこれ程の技術を持ち独占していたとは思いもしなかった。


ここまで来るために今乗っている乗り物、自動飛行車も、ラックの村では見たことがない。

何で飛んでいるのかも見当がつかない。 特殊な魔法でもかけてあるんだろうか。


「驚きましたか?」


隣に座る兵士、ジルシーと呼ばれていた男が、マリアに問いかける。


ジルシーは他のブレスと違い、ラック生まれのマリアを嘲笑うような真似はしなかった。


まして、敬語を使われるなど思いもしなかったマリアは、少し面食らっていた。


「ラックの村とは科学の水準が全く違いますから、最初は戸惑うかもしれません。 きっと生活するうちに慣れますよ」


ジルシーはマリアを気遣うように優しく笑う。


その笑顔を見て、マリアは困ったように笑い返した。


「……先程は、ご家族との別れを邪魔する形になり、申し訳ありません」


ジルシーはマリアに向き直り、深々と頭を下げた。


突然の謝罪に驚いているマリアを差し置いて、ジルシーは懺悔するように話し始める。


「確かに、あなたの魔力はラックに埋れさせておくのは勿体無いと思うような代物でした。 しかし……あのような方法を取らずとも、あなたを学園に勧誘する方法はいくらでもあった筈だ」

「………私がブレスだったから、不憫に思うのですか?」


マリアは俯くジルシーの顔を覗き込むように見つめた。


「理由もなくブレスに殺されるラックの人々には……あなたの良心は痛まないんですか」


それはつまり、マリアに優しくするのはラックに埋もれた同族(ブレス)を哀れんでいるだけなのか、それとも力無いラックへの情を持っているのかーーーといった質問だった。


ジルシーは答えに少しだけ迷い、視線を逸らす。


彼は、自身がなんと答えてもただの偽善だということをわかっていたのだろう。


「………痛いですよ」


それでも彼が嘘をつかなかったのは、自分達兵士により日常を壊されたマリアへの、誠意の現れだった。


「じゃあ、なんで兵士なんてしてるんですか」


マリアのその質問は至極当然のものだったが、ジルシーは言葉に詰まってしまう。


「……家門を守るためとか、家業に関わる従業員達を露頭に迷わせないためとか……全部、言い訳にしかなりません」


彼は苦い顔で少しだけ笑顔を作って、マリアの方を向いた。


「少し話が過ぎましたね。 忘れてください」


ジルシーがぱっと顔を上げ、窓から見える学園を見た。


「シェラルニアは全寮制です。 家事はアンドロイドや電化製品が行います。 あなたの家庭環境を鑑みて生活できる程度に奨学金も出してくださるそうなので、するべきことは勉強と魔法の鍛錬だけ。 今までとは全く異なる世界で暮らすのだと思ってください」


彼はそう教えてくれるが、千年前の生活とラックの村での生活しか知らないマリアには、全く想像もつかなかった。


家事を機械がこなすなんて信じられない。


少し前に、渡された制服に着替えさせられたが、こんなに短いスカートは前世を含め履いたことがなかった。


(衣食住全て変わるんだな…)


「それから……大佐からあなたに伝言があります。 『家族の平穏を望むなら逃走など馬鹿なことは考えず、ブレスに忠誠を誓って真面目に兵士を目指せ』……とのことです」

「……はい」


釘を刺すような言葉に、マリアは苦虫を噛み潰したような顔をする。

その顔を見て、ジルシーは困ったように笑った。



マリアがこの学園でやるべきこと。 それは、この千年で悪化しているラックへの差別を無くすことだ。


そのためにはまず、学園で影響力のある人間に協力を仰ぐ、または自身が影響力のある人間になる必要がある。


加えて、何故この千年でラックとブレスの関係が悪化したのか、この学園が魔法兵育成機関となってしまったのは何故なのかーーーその原因を調べなければならない。


(やるべきことは、たくさんあるなあ……)


昔、自分が作った制度がまだ生きているのなら、各学科には代表の生徒が、一名選抜されているはず。


生徒の中で最も影響力を持つ学科代表五人のうち一人になれば、ラック出身者を見直す人間が出てくるだろう。 そこから少しずつ、学園の中で起こる差別を無くしていくことができるかもしれない。


学園長や理事長……手を回すべき人間はたくさんいるけれど、まずは生徒の中でトップを取らなくては。



そんなことをマリアが考えていると、乗り物がぴたっと止まった。


「着きました。 ここからは学園の人間が案内することになっています。 すぐに来ると思うので、この場所でお待ち下さい」


自動飛行車から降りると、その乗り物がふわりと浮く。


窓からジルシーが会釈をしているのが見えたが、飛行車はすぐに移動を始めて段々見えなくなっていった。




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