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魔法学園創設者の苦悩  作者: 有里桃貴
15/18

初めての映画



「………ブレスレット?」


先程アクセサリーショップで見かけた、腕輪のようなものが沢山並んだショーケースを見せられ、マリアは固まっていた。


ベルト部分や金属のパーツの色や模様が少しだけ違うようだが、マリアには全て同じものに見える。


「ブレスレットフォンだ。 ここを押すと、ホログラムの画面が出てくる。 電話をかけたり、チャットで連絡をしたり……知らないことを検索することもできる。 一昔前は携帯電話とか、スマホと呼ばれてたんだけど。 大体の生徒は持ってるだろ?」


言われてみれば、休み時間にこんな画面を見ている学生がいた気がする。


こんな大層な機械を、高校生が皆持っているという。


アナログなテレビですら一家に一台あればありがたいと思っていたマリアには、到底信じられない文化だ。


「この画面って…どうして空中に浮かんでいるの?」

「光の回折を使ってーーー…ってお前、やっと中等部の科学を理解し始めたレベルの奴にわかるわけないだろ。 大学レベルの魔法物理の知識が必要だ」

「そうなんだ……」


そんなにハイレベルな文明の利器を学生風情が持っていていいものなのかとマリアは不思議に思う。


「で、これどうするの? マコルが使うの?」

「買うんだよ。 お前のやつ」

「……はい?」


マリアは一瞬きょとんとしてから、即答する。


「いらない」

「なんで」


マコルは眉根をひそめて、むっとしている。 そんな顔をされても困る。


「だって絶対使いこなせないよ。 それに、買うだけじゃ済まないでしょう? 使用料とかあるんじゃ…」

「俺が払う。 それが嫌なら使用料だけでも、キャベツ代浮いた分の奨学金から払え」


随分ごり押ししてくる。


こんな高そうなもの、腕につけて持ち歩くなんてどうかしてるとマリアは思う。


「現代じゃこれ持ってないと不便だ。 これがないと連絡も取れないし、知りたいことをすぐ調べることもできない」


マコルも引く気はないようだった。


「でも私、連絡取る相手なんていない」

「俺がいるだろ。 俺と連絡を取るときだけ使えばいい」


家族と連絡が取れるわけでもないし、友人などマコル以外いない。


しかしマコルとだけ連絡を取るためにこんな高価なものを持つのも如何なものか。


「連絡取れないと俺が不便だ。 持っててくれ」


《俺が》の部分を強調して迫ってくるマコルに、マリアはたじろいだ。


「う……」


確かに、連絡事項があるたびに先日の集会のように生徒達の視線に晒されるのでは堪ったものではない。


文通のような個人的(プライベート)な連絡手段であると思えば、必要に駆られることもあるかもしれない。


「………わかった」


マリアは腕を組んでうんうん唸りながら悩んだが、結局は折れた。


ブレスレットフォンの本体料金を見た時には目ん玉が飛び出るかと思うほど驚いたが、マコルは顔色も変えずに契約書にサインしている。


さすがに使用料は払うことにした。 申し訳なさすぎる。


「俺が無理に買わせるんだから、金なんて俺が払うのに」とマコルはぶつぶつ言っていたが、そんな訳にはいかない。


契約を終えてブレスレットフォンを受け取ると、早速マコルが腕につけてくれた。


「使い方、後でゆっくり教えてやる」


マコルはご満悦そうに、顔をくしゃりとして笑った。


「で、次は映画だな」


マコルの言葉とともに、マリアはそわそわと身体を揺らし始めた。


楽しみにしていたことが伝わったのか、マコルは笑いを堪えている。


「んじゃ、飲み物と軽食買っていくか」


マコルに誘導されるがままに、マリアは初めての映画館を堪能した。




==============




映画が終わり、シアターから出てくる。


マリアは下を向いて無言でいた。


「どうだった?」

「………っす、」


マリアは肩を震わせ、少し溜めてから言った。


「すっ………ごかった! 何あれ! えっと……パワースーツ? あれがあれば、ブレスじゃなくても魔法使える! 普及すればラックも魔法が使えるようになるし、格差がなくなるのでは!?」


興奮冷めやらぬ様子でぺらぺら話すマリア。


マコルは今日何度目かわからないがまた吹き出した。


目尻に涙が溜めて腹を抱えて笑っている。 

笑いすぎだ。 失礼な。


「ああ……あれはな、フィクションだ」

「………へ?」


思わず素っ頓狂な声が出てしまった。


「現代科学ならあれくらい作れるかもしれないが、あれを欲しがるのは能力を持っていないラックか、使える魔法属性が少なくて魔力の弱いブレスだろ。 あんなの作れるほどの技術と資金を持ってるのは魔法の名家の人間だけだが……名家の人間はそれを必要とするほど弱くない。 従って、あのスーツが開発されることはまずない」


確かにその通りだ。


魔法使いが使える魔法の属性は、五つの中で最大三種類と言われている。


あのスーツがあれば全ての魔法を使えるなんて素敵なことが起こりそうだが、それを作ってしまえばブレスが独占できていた魔法という能力をラックにも普及させかねない。


能力や技術、金を独占したがるブレス達は、ラックにそれを許すくらいなら自分達が無理に強くなろうとは思わないということだろうか。


ブレスがこれ以上の力を持たないことは喜ばしいが、なんにせよ、開発されたら大きな戦争が起こることは明らかだ。


すごい技術だと感動してしまったが、ないほうが世の中のためにはなっているのだろう。


「……あれ? じゃあ、映画の映像はどうやって撮ってるの?」

「コンピュータグラフィック。 所謂CGだな。 コンピュータで人間が作った映像」

「つ、作り物の映像ってこと!?」


マリアは、はー、と息をついて感心した。


千年前にあった娯楽(エンターテインメント)など、舞台や文学くらいだった。


映像を作れるということすら今初めて知った。


「じゃあ……恋人との……キ、キスシーンも、作り物?」


映画中気まずい気持ちになったシーンである。


他人の情事など、前世でも見たことはなかった。


冷静にそのシーンを見ていたマコルを横目で見て、現代はこれが当たり前なのかと驚いたが、作り物なら納得できるとマリアは思った。


「いや? あれは普通にしてると思うけど」

「こんなに大勢の人間に見られる映像で、キスなんてしてるの!?」

「ああ……映画やドラマじゃ普通にあるな」

「し、信じられない……」


マリアは現代の文化を理解する自信ががらがらと崩れていくのを感じた。


マコルは映画のキスシーン中に恥ずかしげに目隠しをして狼狽えていたマリアを思い出してくすくすと笑う。


そして煽るように笑って、マリアを見た。


「あれくらいで動揺するなんて、ガキだな」


余裕のある笑みに、マリアはむっとする。


「……私、前世と今足したら、マコルの倍は生きてるんだからね」

「でも男女の関係はわからないんだろ。 カルリア様の記憶じゃ、姉様には恋人いなかったみたいだけど?」

「うるさい。 そういうマコルにはわかるの?」

「…どうだと思う?」


だからその余裕の笑みが苛々するんだよ、と思いながら、マリアは答えた。


「……知らないし、どっちでもいい」



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