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魔法学園創設者の苦悩  作者: 有里桃貴
14/18

買い物デート


「あの………つまり……知らないうちに敵が増えてしまったということかな。 しかもめちゃくちゃ恨まれてると……」


マコルはその日学科代表室であったことをマリアに話していた。



最近は放課後にマリアの勉強を見ることが、マコルの日課になっている。


勉強の休憩でそんな休まらないことを言わないで欲しい、とマリアは思った。


「放っておけ。 学科も寮も違うんだ。 あいつと会うことなんてほとんどないし、サポート魔法しか使えないから襲ってくる心配もない」


だからといってわざわざ敵は増やしたくない。


マリアが先日の集会で考えたほど、一般の生徒達に目の敵にされなかったことには救われたが。



マコルが突然ラック出身者に優しくなったことは学園でも有名になっている。


炎学科(イグニス)の生徒達はラックを虐めることより、自身がマコル・フォルノリアに目をつけられることを恐れてあからさまな虐めをやめたように思う。


他学科はまだ変わりないだろうが、最初の一歩としては大躍進なのではないだろうか。


「というか……惚れたなんて、なんでそんな大嘘を吐いたの?」

「一番自然だろ。 俺みたいな唯我独尊キャラが自分より強い女に出逢って変わる、みたいなストーリー。 よく漫画とか映画である」


マリアは漫画も映画もどんなものかわからず、首を傾げる。


「マンガとエイガが何かはわからないけれど……よくある話なの?」

「ある。 シェラリアの転生物語というよりはラックの女のシンデレラストーリーって感じだな」

「私、マコルが何を言っているのか全然わからない」


(まあ、現代の色々は私にわからないことが沢山あるだろうし……マコルに任せておけば間違いないか)


マリアは自分と現代を生きるマコルのギャップを感じながらも、自身の知らないことを知っているマコルを頼もしく思った。


「今度一緒に、映画観に行くか」

「え?」


ふと顔を上げてマコルを見ると、マコルは少し笑いながらこちらを見つめていた。


「現代のブレスの世界のお勉強」

「……勉強?」

「そ。 お前に欠点があるとすれば……それは現代までの科学の発展を知らないことだ。 人感センサーや監視カメラの存在を知らなくて俺に正体バレただろ。 今後同じようなことでボロが出かねない」


それはマリア本人も気にしていたことだった。


自身が無知であることは、いつか身を滅ぼすことに繋がる。


科学の発展により、自身の魔法が当てにならなくなることも今後あるかもしれない。


現世で生きていくためには、絶対に必要な知識だろう。


「映画は色んな人生を手っ取り早く経験できるから勉強になるぞ。 ブレスの街に出れば、嫌でも科学技術を目の当たりにすることになるだろうしな。 どうする?」

「……行く!」


マリアが目を輝かせて返事をすると、マコルも嬉しそうに笑う。


「映画館に遊園地……ああ、乗り物や高層ビルとかもいいな。 最上階で夜景見ながら食事するとか………」


マコルはぶつぶつと呟きながら予定を組んでいるようだ。


聞き慣れない言葉が多いので、マリアは全てマコルに任せることにした。 




マコルに上手く言いくるめられ、所謂デートの約束を取り付けられたという事実に、マリアが気付くことはない。



==============




「………で、なんで制服なんだ」


開口一番、眉をひそめたマコルがマリアの装いに文句をつけた。


「だって……制服と体操服と、学園に連れてこられた日に着てたボロボロの服くらいしか服なんか持ってないから」


そんなに駄目かな、とマリアは制服のスカートをひらりと翻す。


「……連れてこられる時、荷物は持ってこなかったのか」

「家族にお別れ言う時間もくれなかったんだよ。 荷物を詰めさせてくれなんて言えなかった」

「……そうか。 悪い」

「マコルが謝ることじゃないよ」


それにラックの村で着ていた服を持ってきていたとしても、ブレスの街では浮くだろう。


それほどにデザインが違いすぎる。


(そっちを着てたら着てたで文句言われそうだ)


「最初はどこに行くの? エイガを観るの?」

「いや、予定変更。 目的地は同じだけどな」


マリアが首を傾げていると、マコルは「こっちだ」とマリアの手を取って引いていく。


十分ほど歩いたところで、マコルは高い派手な建物の前で止まった。


「大きい建物だね……」


実際は学園の方が大きいのだが、建物の壁がテレビのようにお洒落な男女を映し出したりしているし、外だというのにノリノリな音楽が大きめの音量で流れている。


なんというか、存在感が大きいというか、視覚と聴覚が騒がしい。 加えて周囲を歩く綺麗なお姉さん達から良い匂いもする。 


マリアは目を白黒させた。


「フォルノリアが所有するファッションビルだ。 アミューズメントパークと複合してる、若者向けの施設」

「ファッ……? アミュ………?」

「服を買ったり、映画を観たり、ゲームも出来る楽しい場所だと思っておけ」


マリアは宇宙に来たような気持ちだ。 マコルが宇宙語を話しているように聞こえる。 

正直、服を買えることしか理解できなかった。


混乱するマリアの手を引き、マコルはずんずんとビルの中を進んでいく。 なんだか高級感溢れる店舗(テナント)の前に行くと、綺麗な女性が頭を下げてきた。


「マコル様、ようこそいらっしゃいました」

「こいつに合いそうな服、見繕ってくれ。 とりあえず一週間分くらい」

「かしこまりました」


女性はにこりと笑って、「こちらへどうぞ」とマリアを促す。

しかしマリアは、マコルに縋るような視線を向けた。


「私、そんなにお金ない」

「奨学金貰ってるんだろ。 服くらい買えるだろうが」

「……ファリアーヌのキャベツ代でほとんど消えるから……」


気まずそうに視線を逸らすと、マコルが「ああ、そうか」と小さく声を漏らした。


「……まあ、最初からお前に払わせようなんて思ってねえよ。 俺が買ってやる」

「いいよ。 困ってないから」


頑として試着室へ入らずにいると、鼻を摘まれた。


「制服と体操服とボロ服だけで現代に溶け込めると思ってんのか。 いいから黙って貰っておけ」

「………ありがとう」

「はい、どういたしまして」


店員の女性の待つ試着室へ、マコルに背中を押されながら移動する。


「こちらなど如何でしょう?」

「んー……こいつ色が白いから、これより明るい色のほうがいいかな」

「でしたらこちらにーーー」


マリアは何がなんだかわからないまま着せ替え人形状態だった。


ラックの村で着ていた服とは全然違う、ふわふわしたワンピースや体のラインが見える服を着せられ、自分では似合っているのかどうかもわからない。


それでも、七日分のコーディネートをしたマコルの満足そうな顔を見て、ひとまず現代において服装で浮くことはなくなるのだろうと確信した。


「じゃ、これはこのまま着ていくから。 制服と他の服は寮に送っておいてくれ」

「かしこまりました」


マコルが今日着ていく服に選んでくれたワンピースは、ひらひらしてどうも気恥ずかしい。


鏡の前でくるくる回って見ていると、背後から吹き出すように笑う声が聴こえた。


会計を終えたマコルが戻ってきたのである。


「気に入った?」

「いや、その……」


困ったように顔を逸らすと、マコルはまた笑った。


「買った服、服の組み合わせを入れ替えてもおかしくないものを選んどいたから。 お前にセンスがなくても大丈夫だ」

「……ありがとう。 お金沢山使わせてごめん」


申し訳なさげにマリアが謝ると、マコルはあっけらかんとして言葉を続ける。


「何言ってんだ。 あとは靴とアクセサリー、下着とかも買わないと駄目だろ」


マリアはぽかんとする。


(まだ買うの……!?)


「ま、下着は流石に選んでやれないから、店員にサイズ測ってもらったら適当に選んでもらえ」

「まだ買い物するの!? 現代の勉強は……!?」


服だけでも疲れたのだ。 できることならごめん被りたい。


そんなマリアの考えは他所に、マコルは有無を言わさない笑顔で答えた。


「現代に溶け込むための勉強してるんだろうが。 予約した映画まで、四時間もあるから大丈夫だ」




==============



午後一時、既にマリアはぐったりしていた。


(ヒール)の高い靴を履き、じゃらじゃらした貴金属(アクセサリー)をつけられ、終いには胸と尻の大きさまで測られ、見たことのないほど豪華な刺繍(レース)の下着を女性店員手ずから着せられた。


(現代の女性は、皆こんなことしてるのか)


フードコートのテーブルに突っ伏していると、マコルが戻ってきた。


「連れ回して悪いな。 これ食え」


マコルが持っていたトレイをテーブルに置くと、芳しい香りがふわりと漂った。


「………何これ」

「ハンバーガー。 寮の食事じゃ出ないだろ」


手のひらでどうぞ、と促されて、マリアはハンバーガーを手に取った。


「………いただきます」


恐る恐るかぶりつくと、口の中にジューシーな肉ととろっとしたチーズが溢れた。


「美味しい……!」


リスのように頬を膨らませながらもごもごと喋る。


行儀が悪いとわかっていても、ハンバーガーへの感動が止まらなかった。


「気に入ってもらえて何より」


目を輝かせてハンバーガーを貪るマリアを満足げに見てから、マコルもハンバーガーを食べ始めた。


初めて食べるハンバーガーは、チーズが横から出てきたり野菜がぽろぽろこぼれ落ちる。


どうやって食べたらいいのか困ってマコルを見ると、意外なことにものすごく綺麗に召し上がっている。


態度は粗雑だが、腐っても名家の跡取りか、とマリアは思った。



食事を終えて一息つくと、マコルが口を開いた。


「午前中の買い物で、生活に必要な物は大体揃ったか。 他にも何か必要なら言えよ。 炎龍様のキャベツも、毎日必要量手配しておくから」

「いい。 奨学金でなんとかなってるし…」

「奨学金って何のためにあるか知ってるか? 学ぶため。 生活の基盤を固めるため。 使い魔の飯代じゃないんだよ。 甘えられるところは甘えておけ」


びし、と額に人差し指を当てられて、マリアは言葉に詰まる。


「………どうしてそこまでしてくれるの?」

「尊敬してた相手に失礼なことをした罪滅ぼし、だと思ってくれればいい」


マコルは少し困ったように笑うので、マリアも返答に困る。


「……マコルがラックを毛嫌いしてたのは、前世の私が油断して殺されたせいだって、ちゃんとわかってる。 マコルのせいじゃない」

「わかってないだろ。 どんな理由があったって、お前や他のラック達にやってきたことは変わらないんだよ。 ………俺が変えられるのは、これからの行動だけだ」


マコルは少し俯いて沈黙する。


「………マコル、」


マリアが声をかけようとするとマコルはぱっと立ち上がり、トレイをまとめて持ち上げた。


「よし、片付けたら次行くぞ」

「えっ……まだあるの?」

「次は現代人がみんな持ってる物。 服なんかより勉強になる」


トレイとゴミを片付け終わると、マコルはマリアの手を引いて次の目的地へと急いだ。




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