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魔法学園創設者の苦悩  作者: 有里桃貴
13/18

学科代表達


この学園に入学してから、学科代表の五人についての噂をよく耳にする。


マリアにはマコル以外の友人は未だいないが、生徒達の話が自然と耳に入ってくるほどに、彼らは一般生徒達の憧れの的であった。


そして今日は、週に一度の全校集会の日だ。


公的な場に学科代表五人が集まる数少ない日は、彼らに好意を抱く学生達にとってお祭りのようなものらしい。


「キャーーー!! 学科代表の皆様が来たわ!!」

「今日も皆様素敵ーー!!」


毎週この時間はいつもこの有様だ。


生徒の誰かが、彼らは学園のアイドルなのだと言っていた。


アイドルとは、憧れの的、熱狂的なファンを持つ人……などの意味があるらしい。


(確かに、熱狂的なファンが大騒ぎしてるな)


千年前の世の中とラックの村で文化レベルが止まっているマリアには、全く理解できない風潮だった。


「サーシャ様ー!! 今日もお洒落で素敵ですー!」

「サーシャ様ー!! 可愛いー!」

「知ってるー」


ピンクのツインテールを揺らし、棒付きの飴を舐めながら歩いてきた少女。


水学科(マイム)のサーシャ・アクアル。 父親が現代医学の権威と呼ばれる人で、彼女自身も医学の知識と高い水の魔法能力を持ち、将来的には最高峰の魔法医師として歴史に名を連ねると言われている)


「リリス様ーー!! いつもお美しいわあー!」

「どうもー」 


金色の髪を靡かせる、気怠げな少女。

歩くたびに、耳についたアクセサリーがちゃらちゃらと音を立てている。


風学科(ラファーガ)のリリス・ウィンドンはウィンドン銀行の跡取り。 彼女の父の経営する銀行が、世界の経済の七割を掌握していると言われるほどの力を持ってる)


「レイヤ様ーー!! デートしてくださいー!」

「あははっ! いいよー!」

「キャーーー!!」


茶髪の軽薄そうな少年。

周りの女子学生達に笑顔を振りまき、時折投げキッスをして女子学生達を虜にしている。


雷学科(エクレール)のレイヤ・サンダーラは一見軽い男に見えるけれど、天才的な頭脳を持つハッカー。 両親が電子工学の第一人者で、祖父が創設した家電販売店は短期間で大手の企業となっている)


「ヤナハ様ーーー!! 今日もクールで素敵ですーー!!」

「……………はあ」

「キャーーー!!」


取り巻く学生達に迷惑そうに頭を下げて、スタスタと歩いていく短髪の少年。


地学科(ティエラ)のヤナハ・アースロ。 現在の国家元首、ヤギリ・アースロの一人息子。 父と同じく人の上に立つ能力に長けている。 そしてーーー)


「キャーーーマコル様ーーー素敵ーーー!!」

「抱いてくださいーーー!!」


ファンの学生は目にも耳にも入っていないかのように、興味なさげに歩いてくる黒髪に赤目の少年。


(……炎学科(イグニス)のマコル・フォルノリア。 勉強も魔法も成績は常に一位。 千年の歴史を持つこのシェラルニアを代々経営し、今ではリゾート開発や高級レストラン、アミューズメントパークまで手広くマネジメントしているフォルノリア家の跡取り)


マリアは生徒達の噂話から得た学科代表のプロフィールを思い出しながら、うんざりしていた。


(学科代表には金持ちの美男美女しかなれない決まりでもあるのか?)


少し前までは学科代表になろうと躍起になっていたが、よくよく考えてみるとこの中に入るのは無理だ、とマリアは思った。


(まあ、マコルが協力してくれるから、代表にはならなくて済みそうだけど……それでも、ラック出身だからといって馬鹿にされない程度に頑張らないと)


そんなことを考えながら学科代表五人を眺めていると、不意にマコルがこちらを見た。


(げ、目が合った)


マリアはふい、と目を逸らす。


しかしマコルはずいずいと近づいてきて、マリアの目の前で止まった。


「………よう。 マリア」

「……ど、どうも」


(なんで、こんな目立つ場所で話しかけてくるの!?)


マコルの考えが、マリアにはわからなかった。


「マ、マコル様が………ラック出身の女を名前で呼んだ………!?」

「嫌ーーーーっ!! なんでーー!?」


周りに悲鳴が響く。

そりゃそうなるわ、とマリアは思う。


(今まで無視だけだったけど……マコルのせいで私、一般生徒から虐められるんじゃないかなあ……)


そう考えてから、マリアははっとした。


(いや……もしかして、これは……ラック出身の私と仲良くするところを、全校生徒に見せつける………ラックへの差別を無くすためのパフォーマンス……!?)


それならば、マリアもマコルに答えなければいけない。


差別をなくす為に彼に手伝って欲しいと言ったのは、他ならぬマリアなのだから。


「え、ええと……今日も素敵だね、マコル」


マリアは無理矢理微笑んでみせた。


しかしこれだけの人間の視線が集まる中、仲良さげに話すための話題をマリアは持っていない。


困ったマリアはその場しのぎに先程女生徒が叫んでいた褒め言葉を流用してみたが、その後何を言っていいのかわからなくなった。


そんなマリアの葛藤に気づいたのか、マコルは手の甲で顔を隠しながらも「ぶはっ」と吹き出す。

 

そして顔を上げて、楽しげに笑って答えた。


「……ああ。 ありがとうな」


その瞬間、本日最大の悲鳴が講堂に響き渡った。


「キャアアアアアアアア!! マ、マ、マ、マコル様がラックの女に微笑んだわーーーーーー!!」

「あんな笑顔見たことないわ!! なんなのよあの女!!!!」

「ラックの血族の分際で!!」


断末魔のような叫びを聞きながら、マリアは少し後悔していた。


(今日までなんだかんだ平和に過ごしてたのに……さよなら穏やかな学園生活……)




==============



今日の学科代表室には、珍しく五人が集まっていた。


本来は学園の行事や方針について会議を行う部屋だが、彼らは気乗りしない講義をさぼる時や休み時間などに好きなように使用している。


しかし、五人全員が集まったのには訳があった。


「……で、なんで急に五人集めたんだよ。 サーシャ」


マコルがサーシャに問うと、サーシャは手の甲や爪を見ながら気怠げに口を開いた。


「ねえ……マコルさあ、最近おかしくない? 

「何が」

「なんで急に、ラック出身の奴らに優しくなったの?」

「…………」

「さっき見てたよ。 ラック出身の男が、ブレスの生徒に転ばされたとこ見て、持ち物拾ってあげたり手を貸したりしてたでしょ。 なんなのあれ」


サーシャは不満げに頬杖をつきながら大きな瞳でマコルを見る。


「別に……その人間の中身も知らずに、生まれだけで判断するのをやめようと思っただけだ」

「はあ!? 突然なんなの!? 今までずっと、マコルが先導して虐めてた癖に! この間も、あの転入生に笑いかけたりとかしちゃってさあ!」


サーシャは椅子から立ち上がり、目の前の机を強く叩く。


「サーシャ、落ち着けよ……。 どうせマコルの気まぐれだろ? すぐいつも通りになるって!」


レイヤがサーシャを宥めながら間に割って入るが、サーシャの怒りは収まらない。


「あの転入生と戦ってからだよねえ?」


リリスが気怠げに言う。


「あ! まさかぁ、惚れちゃったとか!? うける!」


サーシャは煽るようにマコルに問いかける。


マコルは少しの沈黙の後に口を開いた。


「………そうだ」

「へっ?」

「俺はマリア・アルファリオに惚れた。 ラックへの今までの態度は間違いだったと、あいつが気づかせてくれた」


五人の空気が凍りつく。


「は……? まじに言ってんの? 頭でも打った?」

「あの転入生に、変な魔法でもかけられてんじゃないの?」

「マコル……マジでどうした?」


サーシャは開いた口が塞がらない。


リリスとレイヤも明らかに動揺している。


ヤナハだけが静かにマコルを見ていた。


マコルがもう一度、沈黙を破る。


「………本気だ」


数瞬後、最初に動いたのはサーシャだった。


目の前の机を蹴り上げて叫ぶ。


「マコルがあんな女のものになるなんてあり得ない!!」


机は大きな音を立てて倒れ、床に伏す。


サーシャの怒りはそれでも収まらなかった。


「マコルに合うのはあんな汚い血の女じゃない! 賢くてサポートのできる女でしょ!? 千年前の英雄、シェラリアとアルトみたいに!」


つかつかとマコルに歩み寄り、サーシャは必死に説き落とそうとする。


「さぁは水と地の魔法が使える! 回復と防御でマコルをサポートできる! それに、さぁはパパから現代医学だって勉強してるよ!? 千年前のアルト・シャルルハスよりずっと、マコルの役に立てる!」


それでもマコルは、サーシャに目を合わせない。


そんなマコルに、サーシャは焦り始めた。


「そ、それに……マコルはさぁの婚約者でしょ!?」


無理矢理マコルの手を取り、すがるようにマコルの顔を覗き込む。


しかし視線を強引に合わせても、マコルはふい、と顔を逸らした。


「……違うだろ。 学園を卒業して、互いが合意したら婚約させると親が約束しただけだ。 合意がないなら婚約は成り立たない」

「だって、さぁはずっとマコルのこと……!!」

「悪いけど………お前のことはそんな目で見てない。 昔から、妹みたいに思ってる」


マコルとサーシャは、親同士の関係もありシェラルニアの幼稚舎に入舎する前から共に過ごしてきた。


昔からのサーシャの気持ちを知っていたからこそ、マコルは曖昧な態度は取らなかった。


期待をさせるほうが、酷なことだとわかっている。


視線を逸らされたサーシャは、わなわなと震えていた。  


「ふ、ふふ……」

「……サーシャ?」


サーシャはゆっくりと立ち上がると、突然笑い声を上げた。


「アッハッハッハ! マコルったら……悪い女狐に騙されちゃってえ……」


その瞳は既に、マコルを映してはいなかった。


マリア・アルファリオ(あの女)……絶対許さないから」


サーシャの瞳は、氷のように冷たく、鋭く光っていた。

 

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