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魔法学園創設者の苦悩  作者: 有里桃貴
12/18

帰り道


「ふわーぁ。 話が長い。 終わったか?」


肩に乗っていたファリアーヌが大きく欠伸をする。 マリアとマコルが話を始めてから既に一時間ほど経過していた。


「あ、ファリアーヌ………ごめん」

「……犬、ですか? でも、話せる魔獣なんて……」


マコルは不思議そうに、ファリアーヌをじろじろと見る。


人語を話せる魔獣はあまりおらず、大概魔力が強い。


しかし犬や猫、鳥は基本的に低級の魔力のものが多かった。


犬なのに話せる、ということが気にかかっているらしい。


「私の……というか、シェラリアの使い魔です。 千年間ずっと、この地下室に眠らせてしまっていたので……今日はこの子を迎えに来たんです」

「しかし、シェラリア様の使い魔は炎龍だったはず……」


頭を傾げるマコルを見て、ファリアーヌはふん、と鼻を鳴らした。


「今は姿を変えている。 我は炎龍だ」

「ドラゴンが寮にいたら、みんな驚くでしょう? だから、姿を変えるようお願いしたんです」

「なるほど……」


マコルはまじまじとファリアーヌを見つめるが、ファリアーヌは迷惑そうに顔を背けた。


「それより……マリア。 貴様、早く寮とやらに帰らねばならないと言っていなかったか?」

「わ、忘れてたああ! もうすぐ寮監の見回りの時間だ!!」


(風の移動魔法で全速力出せば間に合うか? 無理かもしれないけど間に合わせないとまずい)


脱走がバレたら、家族に危険が及ぶかもしれない。


焦って風の魔法を使おうとするマリアを、マコルが制する。


「見回りは寮の個室で悪さをしてるか見てるのであって、脱走してるかどうかは見てないですよ」

「えっ……そうなの?」

「はい。 先程申し上げた通り、現代には人感センサーや監視カメラがありますからね」


一瞬、マリアの思考が停止した。


「……えっ? それって、つまり………」

「脱走した時点でバレています」


マコルはにこやかにそう告げた。


「そ、そんな……脱走したら村を焼くって兵士の人から脅されてるのに………!」


(すぐに戻れば大丈夫なんて思ってた私が馬鹿だった……!)


おろおろと慌て始めたマリアを見て、マコルは「ははは、」と笑う。


「大丈夫です。 既に俺から理事長…父に頼んで、寮監に連絡を入れてもらっています。 あなたがここに来た時点で、説明に時間を要することはわかっていましたから」

「よかったあ〜……。 ありがとうございます」


マコルの言葉を聞き、マリアはほっと胸を撫で下ろして息を深く吐いた。


「こんな深夜に、脱走した学生を擁護するために呼び起こしたなんて、あなたのお父様に申し訳がない……」

「お気になさらないでください。 父もカルリア様の記憶を引き継いできたうちの一人ですから、事情はわかっています」


(そうか。 じゃあ……マコルのお父様は、片目を……)


マリアが表情を少し曇らせる。


そんなマリアを見て気遣うように薄く笑い、マコルは言葉を続ける。


「……シェラリア様が転生なさったことも、やっとカルリア様の想いをあなたに伝えられることも、大変喜んでおりました。 寮を抜け出してくださったおかげで、こうして伝えることができたのだから、快く揉み消してくれます」

「そうですか……」

「寮までお送りします。 飛行車は目立つので、歩くか移動魔法になりますが」


申し訳なさそうにマコルが笑う。


「大丈夫です。 折角脱走を揉み消してくださるのなら、ゆっくり話しながら帰りましょう」

「……はい」


マコルが立ち上がり、マリアに手を差し出す。


その手を取ってマリアも立ち上がり、二人で夜の街を歩き始めた。


「あ。 もう一つ、お願いがあるんですけど……」

「勿論従います。 なんですか?」

「敬語、やめてもらえませんか」


マコルはきょとんとしてマリアを見る。


「学年はあなたのほうが上ですし……あなたに敬語を使われたら、私すっごく悪目立ちすると思うんです」


学園の理事長の息子で、百年に一人の天才と呼ばれるマコルは、生徒からも教員からも敬われる存在である。


そんなマコルは、教員にすらきちんとした敬語を話すことはなかなか無かった。


マコルにとってシェラリアは、それだけ数少ない尊敬すべき相手ということだったのだが、敬語や態度のせいで彼女の正体が白日の下に晒されるというなら話は別だ。


「わかりました。 では、あなたも俺に敬語を使わないでください」

「わかってないじゃないですか! ラック出身の転入生が学園のトップに敬語を使わないなんて、それだけで目立ちます!」

「それだけは譲りません。 俺があなたより上になることはあり得ない。 せめて対等の者として扱ってください」


ただでさえ目立つマコルと、先輩後輩ですらなく対等な友人となるというのは、いかがなものかとマリアは考える。


(……いや、後ろ向きに考えるのは良くない)


これから差別を無くしていくためには、ラック出身のマリアとブレス優生主義であったマコルが対等に接していくところを学園中に手本として見せていくべきだ。


多少目立つのは仕方ない。


元より悪目立ちしているのだ、なるようになれとマリアは思う。


「わかった。 じゃあせめて、呼び方は今まで通りの″ お前″か″マリア ″にして。 様付けも″ あなた″も、違和感があり過ぎる」


マコルはこくりと頷いた。


「これからは友人として、よろしく。 マコル」

「ああ……マリア」


二人は顔を見合わせて、はにかむように笑い合う。


マリアは″秘密を共有してくれる友人 ″が、マコルは″ 尊敬できる友人″ができたことが、純粋に嬉しかった。


月明かりの下を歩きながら、二人は小さな声で話を続ける。


「そういえば………シェラリアが転生するということを知っていた理由はわかったけど、どうして私がシェラリアの生まれ変わりだとわかったの?」


マリアは、地下室から出てくるところを見られるまでは決定的な証拠を残したつもりはなかった。


もし自分が知らぬうちにボロを出しているのなら、今からでも改めたい。


「それは………色々ある」

「色々……!?」


(完璧に隠しているつもりだったのに)


「まず、戦闘で俺の魔法を全て相殺できるほどの魔力のコントロール技術を持っていたこと。 それから、俺の殺気に怯まず、顔色すら変えなかったこと。 そして極め付けは、それだけの強さを持っていながら隠していること」


次々と降り注ぐ指摘が、ぐさりぐさりとマリアに突き刺さる。


自分の詰めの甘さを痛感しながら、マリアは頭を抱えた。


「技術も度胸も、簡単に身につくものじゃない。 ましてやお前はブレスであることを隠して生きてきたはずなのに、戦闘の経験のない奴の戦い方じゃなかった。 だから、もしかしてと思った」

「じゃあ………他の生徒や教師にもおかしいと思われてる……?」


マリアは、さすがにそれはまずい、と思う。


前世のように目立つ真似をして、ラックを嫌うブレスに殺されるようなことは避けたい。


あくまでも、ラック出身者とその他の学生が次第に仲良くなり、少しずつ学園内の差別を無くしていくーーというのがマリアの中のシナリオだった。


わかりやすくおろおろし始めたマリアを見て、マコルは「大丈夫だ」と声をかける。


「お前が下手なりに演技をしたおかげで、なんとかなってる。 俺も、あの戦闘のことを聞かれたら俺が手を抜いたと答えていた。 もしお前がシェラリアの生まれ変わりなら、お前の望む通りにするべきだと思ったからな」


(既に手助けを始めてくれていたのか…)


マリアは心の中で、マコルをいけすかない奴だと思っていたことを謝罪した。


「それに……俺がお前に気付いたのは、シェラリア様がいつか転生されることを知っていたからだ。 お前がシェラリア様だと気付けるのは………フォルノリア家の人間と、転生したアルト様だけだろう」

「そ、そうだよね……」


細い路地を抜けて、炎学科(イグニス)寮が見えてくる。


聞きたいことはまだ沢山あるが、寮の周りには学生がいる可能性もある。 話を聞かれるわけにはいかない。


寮の前に着き、二人は向かい合った。


「それじゃ……また明日」

「ああ。 おやすみ」


マコルが去っていく背中を見送ってから空を見上げると、東の空は明るくなりかけていた。


あと二時間ほどすれば起床時間だ。


ほとんど寝られないであろうことを憂いながらも、マリアはこれからの学園生活に希望を感じていた。



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