過去
僕がまだ10歳で小学4年生の頃、僕はとてもヤンチャで近所でも有名な悪ガキだった。問題を起こすたびに母親、清水翔子は僕の代わりに頭を下げてまわって、「もう何度言ったらわかるの」と叱り、それに対して「ごめんなさい」と棒読みでなんの反省の色もみせない形で言葉を返す。これがいつもの流れだった。
でもこの日は少し違った。
「こんな時期なのに台風だって。今日は早く帰ってきなさいよ」
「はーい」
それは5月頃。季節外れの台風が近づいている中、僕はいつものように学校に行っていた。そして、休み時間に女子が母の日のプレゼントで何をあげるか話し合っているのを聞いた。僕はそれを聞いて何かあげたくなったんだと思う。その日の放課後はすぐには家に帰らず、帰り道にある『flower』という花屋に立ち寄っていた。扉を開け中に入るとそこには目眩を感じるほどに美しい何種類もの花があった。
そんな店内を見回していると
「いらっしゃいませ…って、優汰くんじゃない!今日はどうしたの?」
僕を出迎えてくれたのは、母さんの昔からの友達の万理華さんだ。昔から仲がよかったらしく今でもたまに家に来たりしているから僕が小さい頃は遊んでもらったこともある。
「母の日になにかあげようかなと思って」
「優汰くんは優しいね〜、翔子も幸せ者だな〜。私もそろそろブレスレット持っていかないとな〜」
万理華さんは家に来る度、母に新しいとても綺麗なブレスレットをプレゼントしていた。ということは近々家に来るということだろうか。
母の日にあげる花としてカーネーションが主流だというのは知っていたので聞いてみると
「カーネーションはもう売り切れちゃったの〜、ごめんね、そうだ!折角来てくれたんだし1つ好きな花持っていっていいわよ!」
僕は少し悪いなと思ったけど、ありがとうと言って店内の中を縦横無尽に歩き回っていると、1つ、目にとまった花があった。
「これにする?この花はスターチスって言って花言葉は途絶えぬ記憶って意味があって、このスターチスはピンク色だから永久不変って意味もあるの」
「これにするよ!」
10歳の僕にとって花言葉は正直よく分からなかったけど、その花はとても綺麗で目が吸い付けられた。
僕は万理華さんからスターチスの花を一輪受け取り、店内の時計を見ると4時半だった。いつもなら学校が終わり家に着くとだいたい4時頃、母さんが心配してるんじゃないかなと思い、万理華さんにお礼を言ってから「flower」を出た。
僕が河川敷の横を歩いて家に向かっていると、目を開けているのが難しいほどの強いかぜが吹いた。その瞬間だった。持っていたはずのスターチスの花が手から離れ川の向こうまで飛ばされてしまった。僕はそれを追いかけようとしたけど流石に無理だと思い僕は諦めて家に帰ろうとした。すると今度は雨がポツポツと降り始め、またたく間に土砂降りになった。僕は雨宿りするために急いで河川敷の橋の下まで行った。
「そういえば台風が近づいてるって母さん言ってたな……」
雨は止む気配もなく、しばらくここで雨宿りをしよう決めて、座りこみ少しすると眠気が襲ってきた。僕はそのまま横になり眠りにつこうとしていた瞬間だった。僕以外誰もいなかったはずの場所からその女性は現れたんだ。
「君は危なっかしいな〜」
突然、背後から声がした。振り返るとそこには息の切らしたびしょ濡れの女性が立っていたんだ。