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とある中年男性の転生冒険記  作者: うしのまるやき
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閑話 その2 とあるご令嬢の冒険記

36話を別視点で書いてみましたが、正直これ以上上手くかけませんでした。許してください、何でもはしません。

 わたくしはアンジェリーナ・デリカ・タンヌ、この国の第3王女ですの。わたくしには2人の兄と姉がおりますわ。王位継承順位は低いというよりもほとんどありません。といってもわたくし自身、王位には全く興味がありませんの。ですから『戦姫』のパーティを組んで冒険者としてタンバラの街を中心に活動しておりますわ。わたくしの侍女であるセイラとルカにもつきあってもらっております。これでもBランク冒険者として少しは名が知れておりますのよ。ただ、わたくしたちが王族であることをご存じなのは、ギルド長のアイシャさんとSランク冒険者であるモウキさん含めてごく少数ですの。


 王国でも頭を悩ませている存在の盗賊団『ヘルハウンド』の討伐隊の戦力が整ったとギルド長から連絡を受けまして、顔合わせを含めた会議が開かれましたの。集まった面々はどれもタンバラの街では名の知れた者達ばかり。これなら、と思っておりましたが、一人場違いな方がいらっしゃいました。そのお方はパッとしない中年の方で、猫とウサギを肩に乗せていらっしゃいましたわ。何でこれほどの面々の中にこのような方が? と思いましたが、それはギルド長とモウキさん以外はそう思っていらしたそうです。


 会議では、参加された皆様で自己紹介が行われましたが、あの方は職業が何とポーターということに加えて会議の当日にCランクになったばかりということで、周りからどよめきが起こりました。もちろんわたくしたちも驚きのあまり声をあげてしまいましたわ。しかも、振り分けで寄りによってわたくしたちと一緒というではありませんか。まあ、他の冒険者の方達は腕は確かですが、わたくしたちへの視線はやましいものばかりでしたので、お誘いはすべてお断りいたしましたし、一緒に行動するなんて考えられませんでしたので、こういう組み合わせも致し方ないものだと思っておりましたの。しかし、顔合わせの時、あの方は他の方達と違ってわたくしたちに対してやましい心どころか興味すらもっておりませんでした。あの方は一緒にいる猫とウサギにしか興味が向いていないのでしょう。念のため、あの方の真意を探っておきたいと思いまして、夕食会としてご飯屋へお誘いしたのです。二つ返事で了承していただけました。解散後にギルド長に呼ばれましたので伺いますと、あの方についてのお話をされました。


「アンジェリーナ様、先程の会議でも申し上げたとおり、戦姫の方達はアイスさんと組んでもらいます。戦闘ではアイスさんの指示に従ってください。」


「ギルド長がそうおっしゃるなら、指示には従いますわ。けど、Cランクになったばかりの方があの盗賊達とまともに渡り合えるとは思いませんわ。」


「見た目で判断しない方がいいと思います。何と言っても、彼の連れている猫は恐らくデモニックヘルキャットで、ウサギはヴォーパルバニーと思われます。それぞれが災厄級の力を持った魔物達です。」


「えっ? どう見ても普通のカワイイ猫とウサギにしか見えませんが、本当ですの?」


「ええ、モウキさんにも確認してもらってますので、間違いないでしょう。彼は現在Cランクですが、まだ登録して10日も経っておりません。」


「そ、それは本当ですの?」


「ええ、最初に彼が連れている猫とウサギについてお話ししましたが、恐らく彼はあの猫とウサギよりも強いと思われます。恐らく私とモウキさんが2人がかりで戦っても彼には全く歯が立たないどころか、傷一つつけられないでしょう。これは、モウキさんも同意見です。」


「そ、そんなに強いとは信じられません。どうみてもパッとしない中年にしか見えませんもの。」


「お気持ちはわかります。幸いなのは、彼がお供たちと楽しく過ごすことしか考えておらず、この国をどうこうしようという気持ちが全くないことです。」


「それでしたら、お父様に報告して爵位なりの称号でこの国にとどまってもらうなりすればいいのでは?」


「それは恐らく不可能かと思います。彼は私達には心を開いておりません。この依頼の時も話の持って行き方を誤ってしまい、受けてはいただけましたが、信頼を損ねる結果となってしまいました。いろいろと話をしましたが、少なくともこの国にはいい印象を持っていないでしょうね。」


「そうなんですの? そんな感じでは逆に討伐に一緒に行く方が危険が多くありません?」


「そのことについては大丈夫だと思います。下手に別のパーティと組むよりは安全です。今回の作戦ですが、ひょっとしたら情報が漏れているかも知れませんので、アンジェリーナ様の身の安全を確保するには彼らが最適です。」


「討伐隊のメンバーに『ヘルハウンド』の構成員がいるとお考えですの?」


「ええ、私とモウキさんが別れてそれぞれを指揮するのはその時のためです。今まで討伐隊を結成しなかったのは、もう一つの攻め口を確実に攻められる冒険者がいなかったためです。アイスさんが冒険者になってくれたのでこの作戦がようやく可能になりました。」


「彼は『ヘルハウンド』のメンバーとは考えられませんの?」


「彼ほどの強さを持った方がメンバーのはずがありません。そもそもこの国をどうにかしたいのであれば、あの猫ちゃんとウサギちゃんを暴れさせれば済むことで、わざわざ中枢に入り込んで工作する必要はないでしょう。」


「確かにそうですわね。今日、夕食会でご一緒しますので、その時にアイスさんがどういう方なのかを見極めさせて頂きますわ。」


 ギルド長との話を終えて宿に戻り支度をしながらセイラとルカに意見を聞いてみました。


「セイラにルカ。一緒に組むアイスさんについてどうお考えですの? 忌憚のない意見を聞かせて欲しいわ。」


「私達に対して変な目で見てない時点で一緒に行っても問題ないと思います。それに猫ちゃんとウサちゃんもカワイイし。」


「あの子達、カワイイ。カワイイは正義。」


「そ、そう。」


 納得のいく意見はもらえませんでしたが、2人とも大丈夫という点では一致しておりました。あとはわたくし自身の目で判断するしかなさそうです。一応念のため王家の諜報部隊にアイスさんの監視をお願いしました。警戒されないようにわたくし達と無関係な風を装ってもらうため報告は明日以降にするように念押しして。


 そうこう準備しているうちに待ち合わせの時間が近づいてきましたので、支度をしてホーク亭に向かいました。アイスさん達はすでに待っていたようですが、何やら皆様身ぎれいになっておりました。確かホーク亭には入浴施設はなかったはずですが。


 ホーク亭で合流したわたくし達はご飯屋へ向かいます。ご飯屋に入りますと、女将さんがいろいろと詮索してきますが、様子見がばれたのかとあせりましたが、別の方面でした。申し訳ありません、妙な視線が多すぎて殿方は今のところちょっと。アイスさんはヴァルキリーという職に興味を持ったので説明したところ、どれだけ修練が大変かをわかってくださったので、日々の鍛錬がどれだけきついか思わず愚痴をこぼしてしまいましたの。年上の余裕と申しますか、聞き上手と申しますか、日々言えなかった愚痴を延々と聞いてもらいましたの。料理が出てくるまで気づかずに。


 アイスさんとはいろいろと話をしましたが、食べ物の話とか職の話とかばかりでわたくし達への興味は全く感じられなかったので、思わず少しはこちらにも興味を示せみたいなことを口に出してしまいましたの。はしたないとは思いますが、我慢しきれませんでしたわ。他の殿方がわたくし達に興味があるようなことを話すと嫌悪感しか出てこないのに。


 そうこう話しているうちに、彼の職はポーターだというのを思い出しまして、調整も兼ねて明日一緒にクエストを受けようという話になりましたの。わたくし達は女3人ですので数多く討伐はできても素材についてはあまり持ち帰ることができません。もちろんポーターを雇うこともありますが、彼らは戦闘力が無くわたくし達で護衛する必要があります。そうしますとその分戦力が落ちますので、大物は討伐できないのです。他のパーティと一緒に行動すればいい素材は手に入るかも知れませんが、その見返りとして何を要求されるかわかったものではありません。今回は対等な立場で、且つ全力で討伐に向かえるので期待大です。相性がよければ今後も組めたらと思いましたわ。猫ちゃん達もああしていればとてもお可愛らしいですし。


 夕食会も楽しい雰囲気で終わりましたが、お支払いの時に多少一悶着ありましたの。アイスさん達はどうしても自分たちの分を出すとおっしゃいましたの。Cランクになったばかりですので、手持ちが寂しいと思っておりましたら、素材などで余裕があるとおっしゃいましたの。猛スピードでCランクに昇格したのは伊達ではありませんのね。仕方なく折半という形をとることにしました。宿の到着したのでアイスさん達と別れましたが、さて、諜報部隊は上手くやっているでしょうか。


 翌日になり、今日は合同クエストです。支度をしてギルドに向かうと、アイスさん達はすでにおりました。話を聞きますと、従魔登録のプレートを交換していたとのことで、よく見ると猫ちゃんとウサギちゃんに首輪が付いておりました。おそろいの毛皮です。とてもお似合いで可愛らしいですわ。ん? あれ? この毛皮は、王家でも滅多に見ることのない黄金の一角ウサギの毛皮? よく見ると、アイスさんの籠手や具足も同じものが使われていますの。話を聞くと、革職人であるギースさんに防具を注文して今日装備したてだそうです。毛皮は魔の大森林に住んでいたときに出くわした一角ウサギを狩って手に入れたそうです。主従でお揃いの毛皮にしたとのことらしいですわ。


 ギルドで受けたのはオークの討伐です。1体につき金貨2枚、南の森に数体出たということでしたので、そちらに向かいましたわ。アイスさんはポーターだということで、荷台を用意してきたのですが、馬車の半分くらいの大きさで、とても人が引っ張っていける大きさではありませんのに、彼は何事もないように普通に引っ張っているのです。ルカは荷台の接地面を見てしきりに首を動かしていましたわ。後で聞いたら、魔法を使っていると思うが、魔力を全く感じなかったそう。


 敵の確認はセイラがいつもしておりまして、かなり優秀なんですの。でも、その優秀なセイラが発見する前にアイスさん達があっさりと発見するどころか、敵の数まで正確に把握しておりましたの。とはいえ早期発見はありがたいので、わたくし達はすぐさま戦闘準備を終え余裕を持って対峙できましたの。オーク5体は普通なら難敵ですが、準備を万端に整えたわたくし達の敵ではありません。あっさりと5体を討伐すると、アイスさん達から「お見事」という言葉を頂きましたの。わたくし達のチームであれば当然ですわ。


 この後は驚きの連続でした。アイスさんが、「これからは私達の仕事」と言って血抜きをなさったのですが、血抜きがあっという間に終わったどころかその後に水の塊がオークを包みましたの。その水はそれだけではなくオークの周りを回転するように流れておりまして、それが終わると水そのものがすでにもうないのです。オークは巨体ですので、5体でもかなり大きな馬車が必要なのですが、用意した荷台は馬車の半分くらいの大きさなのにオーク5体があっさりと荷台に入るではありませんか。これがポーターを職にした方の仕事か、と思いましたわ。


 ここでアイスさんからとんでもない報告がありましたの。先程のオーク達の本隊がこちらに向かってくるという報告です。数はなんと31体。いくら私達とはいえ数は31体でこれは恐らく大物が率いている可能性が高い。報告にも率いているのはオークリーダーとのこと。オークリーダーは私達3人がかりで倒せるかどうかの相手。その上、オークナイト4体と通常のオークの戦力ではありません。私達が取れる行動は、街に戻って救援を頼むことのみ、そう思って撤退することを告げると、アイスさんはこの状態では逃げられないと言っており、わたくし達はここで命を落としてしまう、と絶望の淵に立っておりました。そんな状態でもアイスさんは、何ともないように猫ちゃんとウサギちゃんに指示を出してオーク達に突撃していきました。


 恐怖に顔が青ざめていた状態が少し収まり、アイスさん達が心配になりましたので様子を見に行くと、そこにいたのはアイスさん達を蹂躙したオーク達、ではなく首がなくなったり、頭が潰れたりしていたオーク達の死体と傷一つなく血抜きの作業をしていたアイスさん、オークの死体を咥えて運んでいる猫ちゃんとウサギちゃんの姿だった。こちらに気づくと、アイスさん達は自分のことではなくこちらの心配をしておりましたわ。しかも、強敵を倒した、ではなく肉がたくさん手に入ったという喜びの表情で。


 これではっきりとわかりましたの。この人達を敵に回してはいけない、と。話ではゴブリン40体以上を倒したとか、ワイルドボアの討伐の大半を倒したとか、素材の大部分は彼らによるものなどといった事は嘘ではなく本当のことだったと。恐らく、アイシャギルド長とモウキさんの2人がかりでも彼を倒せないというのは大げさではなく事実であること。幸いにもこちらから敵対しなければ誠実に対応してくれること。余計なことをすればこちらに跳ね返ってくること。そういえば、諜報部隊から報告が何もないのですが、まさか。


 主に精神的疲労が強かったので、タンバラの街に戻ることにしましたが、その途中で昼食を摂ることになりましたが、まさかその場でオークリーダーを捌いてわたくし達にも振る舞うとは思いも寄りませんでした。オークリーダーの肉は今までに食べたことがないほど絶品でしたわ。アイスさん達が肉などの可食部分にしか興味が無い理由が何となくわかりましたの。


 タンバラの街に着いてギルドに報告した後、用事ができたといってその場は解散しました。ギルド長に一緒にクエストに行ったことや夕食会のことなどを踏まえた自分の見解を報告しに行きました。ギルド長は驚くことなく、やっぱりな、といった感じでしたわ。


 ギルド長に報告と少し会話をした後、宿に戻りました。諜報部隊がようやく姿を現したと思ったら、皆青ざめた状態で報告に来ました。食事会のあと、わたくし達と別れた後すぐに猫とウサギの襲撃を受けて、武器と魔導具を含めた身につけているもの全てを破壊し尽くされ、文字通り丸裸にされてしまったそう。その間手も足も出なかったとのことで、今後、彼らを監視するのは勘弁願いたいと泣きが入りましたわ。この件は表沙汰にはできませんね。表沙汰にしたら、間違いなく彼は敵に回ってしまいます。それだけは絶対に避けなければなりません。彼に対して余計なことをしなければ問題ないことも一緒に行動してわかりました。こちらが誠実に対応すれば、向こうも誠実に対応してくれます。


 改めて、彼、いや彼らには絶対手を出してはいけない、ということですわ。

毎度お読みいただきありがとうございます。もし気に入っていただけたのなら評価の方もしていただけるとありがたいです。

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