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那朗高校特殊放送部!

那朗高校特殊放送部~霜月と特殊放送部編~

作者: 那朗高校特殊放送部

今回の著者:霜月詩酉

筆者:霜月詩酉


放課後、まだ誰もいない部室であたしは1人鍛錬をしてた。

空手に打ち込んできたあたしにとっては、毎日の日課みたいなもんだ。

道場に行く日も、そうでない日も欠かせない。


「ふっ!」


短い三連続の正拳付き。

そのどれもを全力で撃ち込む。

それぞれ一発で敵一人を打ち倒すように。


そして、その流れのまま、腰に力を入れ、

体を捻るようにして、渾身の上段回し蹴りを放つ。

もちろんこれも、体重を、勢いを、全てを蹴りの最高点に繋げるように体を動かす。


「はぁっ……!」


その勢いで、部室の床と靴が擦れあってキュッと軽い音が部室に響く。

その蹴りは、部室に置いてあるマネキンの頭の部分の打ち抜く寸前でピタリと止めてある。

寸止めという奴だ。

このマネキンには元々頭は無いからそのまま蹴り抜いても良かったんだが、それじゃ鍛練にならない。


夏輝の私物であるこのマネキンには、去年文化祭で部長が着てたコスプレ衣装が着せられてある。

っていうかこれを文化祭で着てたのか…中々勇気あるな…


「ちょっ、霜月先輩、何してるんです!?」

「えっ」

挿絵(By みてみん)


そして、マネキンに蹴りを食らわせてる姿を、部室に入って来た城嶋に見られた。

端から見れば、今のあたしはマネキンにハイキックしてる変な奴だ。



「ちょっと鍛錬してただけだって。蹴り飛ばすつもりは無いって」

「そうだったんですね…」


寸止めもそれなりに技量は要るし、ただでさえ人のマネキンだし、気を抜いてやる訳にはいかないけどさ。


部室のテーブルを挟んで斜向かいに座る形で、城嶋と話している。

部員は8名だけど、どう考えてもこの机は6人用だ。

8人で座る時はかなり詰める感じになる。


もっとデカいテーブルとかを置くスペースはあるし、変えた方が良いとは思うんだけどなぁ。

とはいえ今は二人しか居ないし、机の上は自由に使える。


「…にしても物が多いテーブルだな…」

「みんな片付けとかしないで帰りますからね…」


さっき自由に使える、とは言ったけど、そのスペースそのものはそんなに広くない。

机の上は、海、ハロウィン、クリスマス、色んな時の写真が散らばっていたり、

去年使ったであろう書類、参考書の山、何かの鍵、ゲーム機、

ハンディ裁縫用具に撮影用のビデオカメラ、あと、セーラー服…?


4人用の広いはずのテーブルは色んな雑貨で溢れてる。


「部室のテーブルがこの有様でホントに活動できてんのか…?」


いつも動画撮る時はホワイトボードを背に、テーブルを挟んだ位置にある棚にカメラを置いて撮影してる。

つまり、テーブルの上に何かがあると丸見えのはずなんだがな…


「最近の活動は外ばっかりですからね」

「そういやそうだったな」


夏休み中は海に遊びに行ったし、ちょっと前は廊下で撮影をしてた。

その前は…ここだったような気はしたが、その時はこんな感じにはなって無かったはずだ。


ちょっと使わないとすぐこうなんのか。

でもそれがここの雰囲気なんだろうな…


特殊放送部なんて大層な名前してるけど、

やってる事は大したことない。


皆で集まって、なんか適当に過ごして、動画に使えそうな事が起きたら収録して、動画にして投稿する。

あとは、部長が仕入れてきた企画とか流行りに、皆でノッてみるとか、そんな感じだ。


適当というか不真面目というか、なんというか、

緩い雰囲気が持ち味なのかもしれない。

今も二人しか居ないしな。


ただ、こういう放課後に集まってダラダラしてるような雰囲気も案外悪くないな、って気持ちもあたしの中にほんのりとあったりもする。


小学生の頃から空手に放課後の半分以上を費やして来たあたしにとっては、こういう空気な中に居たことは殆どなかった。

中学の時は男子より強くなってて、学校にたむろってた不良たちと喧嘩したりしてたせいで、

正直普通の生徒からは恐れられてたと思う。

今はもうそんなエセ正義の味方なんてコトはやめたけど。


とまぁ、そんな感じの中学生だったのもあって、今のこの特殊放送部って環境は割と新鮮だったりする。

そして、楽しい。

意味もなく集まって、適当に話して、遊んで、時間が来たら解散する。

そんな適当な日々が楽しかったりするんだよな。


そんなあたしがなんで特殊放送部に入ったのかというと、

部長に誘われたから…って言うと身も蓋も無いけど、もっと細かく言えば、

「あなたみたいな人を求めてる」って言われて、なんだそりゃ、と思って半信半疑で付いて行って、

この新鮮さに落とされた、って感じだな。


「…ただ、この汚いのはちょっと嫌だけどな…」

「せっかく物置に使ってる準備室がありますし、そっちに片付けておいて欲しいですね…」


うっかり口走ってしまったが、城嶋も同じ気持ちのようだな。

部室の隣の準備室は、使われてないって事で特殊放送部が自由に使える事になってて、今は更衣室兼倉庫になってる。


「あの物置スペースあったっけな…ちょっと見てくるか」

「あー、それは覚えて無いですね…」


ガタリと席を立って、準備室に向かう。

準備室は沢山の棚とそこに並ぶダンボール。

そして試着室のようにカーテンに仕切られた更衣スペースがある。


運動部でも無いくせに更衣スペースがあるのは、部員にそれぞれ専用の衣装があるから。

なんでも、個性的な格好がある方が動画の時に映えるから、らしい。

今は部長とか、初期メンバーの4人にしかなくてあたし用の衣装は無いけど、そのせいで随分と

部内は色濃い感じになってる。

バニーガールがうろつく部室なんてものが他の学校に果たしてあるんだろうか?


いつかはあたしにもこういうイロモノ衣装が支給されるんだろうけど、

実は内心、期待してる。

夏輝みたいにコスプレ趣味がある訳じゃ無いけど、あたし専用の何かがあるっていうのは、やっぱり憧れはあったりするもんだ。


「…新衣装か……」


独り言をつぶやきながら段ボールを一つ取り出して中を覗き込む。

そこには部長の衣装である、真っ赤な和服が丁寧に畳んでしまってある。

振袖よりも、格ゲーのキャラみたいな独特のデザインの衣装。


その衣装を見ながら、それを着たあたしをちょっと想像してみた。

衣装が衣装だけに、演舞の動きとマッチしそうで、やってみると映えそうだ…

一部分致命的にサイズが合わないのが少しムカツクがな。


挿絵(By みてみん)


そんなことを思ってたら、部室の方からドアを開ける音がした。

部室の方に誰か入って来た音だな。


すぐ準備室来ることは無いとは思うけど、変に怪しまれないよう段ボールを元の場所に戻す。

一応これ部長の私物だしな…


本来の目的はなんだったっけ?

ああ、テーブルの荷物をこっちに片すスペースはあるのかって話だったな…


って思って見渡すけど…無さそうだな…

ただの金属の塊やら、クーラーボックスやら、大型犬用の首輪やら、古いディスプレイやら、

こっちもこっちで変なものがいっぱいあんな。

いつか大掃除とかしないとダメだな。


ともかく目的は達した。城嶋に無理だったと伝えに戻るか。

準備室のドアを開けて部室に戻ると、そこには倉井が居た。


あいつはどうにもよくわからないんだよなぁ

性格的に、この部に入るタイプだとは思えないし。

この部に在籍してる理由として、部長の紅葉と幼馴染だから、とは言ってるけど、

それにしてもこの部への献身さは凄いんだよな…基本的にどの企画にも参加してるし。


「ちょっと、何よこのテーブル!?」


そんな倉井は、テーブルの有様を見て目を丸くしてる。


「ああ、これか。来た時からこんなだったぞ」

「はい。俺が来た時にはも」


嘘は言って無い。

片付けてない以上これに関してはあたし達にも責任はあるから許してもらおうとも思って無いけど。

それに対し倉井は、


「そう…昨日はこんなじゃ無かったのに」

「そうだったのか?」


昨日は道場の方に出ててここには来なかったな…

一体昨日の間に何が…

3人でこの現場をただ眺めていると、


廊下の方からガラガラと、何かカートのようなものを転がす音がほんのりと聞こえてくる。

その音はだんだんと近づいてきて、目の前で止まった。


その後すぐに部室のドアが開かれて、


「あっ、ちょっと手伝って貰えますか!?」


部長の紅葉が出てきた。

入ってすぐにそんな事を言ってくる紅葉には、倉井が答えた。


「手伝うって、何を?」

「えっとですね、今部室に荷物を搬入してまして…」

「荷物?」


気になって外に出てみると、そこには台車があって、段ボールが沢山積まれててあたしの身長より少し低いくらいの高さになっていた。

あたしの身長でこれってことは、紅葉の身長は超えてる高さになるなこれ…


「荷物ってなんだ?」


ここに来て新たな何かがやって来たようだ。

あたしの問いに紅葉は若干の間を置いてから、


「えっとですね、今後の動画に使えそうなものを、廃棄予定の備品からいくつか貰い受けてきたんです」


「廃棄予定の備品…」


そう言えば先週の朝礼で生徒会長がそんな事言ってたような…?


「で、なんか色々とよくわからないものを持ってきたというわけね」

「まぁ…そんな所です」


試しに台車にあった段ボールを一個覗いてみると、

そこには携帯用ガスコンロが入っていた。

それで、色々と線が繋がった。


「紅葉、」

「はい?」

「もしかして準備室にあったあれこれも同じ感じか?」

「そ、そうですね…」

「クーラーボックスは…」

「釣り部の古いクーラーボックスです」

「犬の首輪は…」

「飼育部飼ってる犬の、サイズが合わなくなった首輪ですね」

「そうか…じゃあ机に置いてある大量の雑貨も…」

「それは元々準備室にあったものを、新しい備品と入れ替える為に一時的に…」


なるほど、そう言う事か…

謎が解決してよかったというべきか、これからもっと部室がごちゃ付くのが分かって不安と言うべきか、

何にせよ机が凄いことになってた理由は分かった。


原因が部長である以上、多分搬入は止められないだろうな。

既に城嶋が段ボールを準備室に運び込んでるし。


「でもこんなのいつどこで使うんだよ…」

「い、いつか使うかもしれないじゃないですか!?」


必死にアピールしてくる紅葉だけど、パソコンを多用する部だからディスプレイはともかく、

クーラーボックスやら首輪やら、使う機会来るか…?





「この部、鍛治やったり、異世界行ったりするんですよ?もう何が必要になるかわかったもんじゃありませんからね?」


「「「あぁ……」」




それを言われると何とも言えない。

鍛治は確かにやった。ゲームみたいなデカい太刀を作ったことあったな。

あたしは言ってないけど、どうやら異世界にも行ったらしい。こっちは本当か?

異世界はともかく、釣りに行ったり犬を飼ったりは、普通にしそうだなこの部…


「しゃーないな。あたしも手伝うからさっさと部室に入れちまうぞ」


結局のところ、新鮮な体験に飢えてるあたしはこの大量の荷物を受け入れる事にした。

ここに来てからと言うもの、新しいことが舞い込んでくる。


きっとこのガラク…備品もきっと新しい体験をさせてくれるだろう。



…ただし、


「新しいものを入れる以上、準備室の大掃除はちゃんとするぞ?」


ただただ部屋がごちゃ付くのは許せない質だからな。


「あそこの荷物の大半は夏輝さんのものなので、夏輝さんが居ないとどうにも…」

「そこはアイツを呼ぶか部長権限でなんとかしてくれ…」

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