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はじまりはじまり

大衆は自らの凡庸な意見を押し付けようとする


『大衆の反逆』(オルテガ)より

「炎上乙」声がひびきます。

「出しゃばるな」声が壁の中に響きます。

壁の中にはひとり。何も生み出さずスマホに向かってブツブツ、ブツブツ。


「お前らとは違うんだ。今はみにくいアヒルでも、いつかは白鳥になる」


そういってはハンバーガーを食べます。誰かが作ったマ○クのハンバーガー。何をも生み出さずただただ消費します。



気づくとマ○クのコーラが底をついていました。白鳥はコーラを買いに壁の外へ出ると、見渡す限りに壁、カベ、かべ。壁は白鳥のものと同じく、人を一人ずつ囲んでいました。


「殺す殺す殺す」「お前だけ外に出れてよかったな、こっちの気も知らないで」

と他の壁から白鳥の耳に聞こえてくる声。

白鳥も壁の中にいる時に似たことを言っていますが、ここは壁の外。心休まらず、怯えながらとぼとぼ歩いてゆきます。白鳥にとって、こんな時に頼りになるのは王子だけ。

とはいえ王子もネットの向こうの人。本当に王子なんているのか?妄想なんじゃないか?と白鳥は不安になりますが、今は飲み物を買おうと先を急ぎます。


白鳥が怯えながら歩いてゆくと、人のような寄生虫を見かけました。第一寄生虫、発見です。その寄生虫はでっぷりと肥え、周りには小さい寄生虫たちが食い荒らされたかのように地面に無造作に転がっていました。小さい寄生虫たちは何にも寄生できていなさそうでした。


「マッチはいりませんか。火を点けるととても暖かいですよ。マッチはいりませんか」

とマッチを売る寄生虫もいます。しかし白鳥は、ライターで事足りる時代にマッチを売るなんて無駄だなと思いつつさっと素通りします。

「マッチを買っていただけたら一晩ご一緒させていただきます。いただいた分は働かせていただきます。マッチはいりませんか、マッチはいりませんか。」


寄生虫の上で誰かが叫んでいます。

「今日、世界は終わる。ここが世界の限界であり、空に還ることができる。さあ行こう!終ノ空へ」

誰かに寄生虫が教祖様、救世主と言いながら群がります。

「今日空に還らなければビックハザードに巻き込まれるであろう。」

教祖様はむしられ食べられていきます。信者らしき寄生虫たちはご満悦です。

「これよりスパイラルマタイを以ってアタマリバースに到る。それこそ人が求めて止まないもの。皆に栄光あれ!」

言い終えると教祖様は食べられてしまい、信者たちは共食いを始めました。ぼろぼろになっても食べ続けます。白鳥は見てられなくなりましたが、当の本人たちは、好物のごとくむ〜しゃむ〜しゃ。からだに穴が空いて内蔵がこんっにちはしても食べては食べられまた食べます。やはり新興宗教は危ない、と白鳥は気味悪がり避けつつ通り過ぎました。



マ○クが見えてきました。やっと着いたと白鳥は足が早くなります。店の前に物乞いがいるのを横目で見つつも気にせず行きます。

店内に入り白鳥が順番を待っていると、「注文はどうするんだい?」と話しかけられました。白鳥が後ろを振り向くと、視界の下の方に白髪が見えます。

「なんですか、いきなり」と白鳥が不機嫌そうに返します。

「僕はもうこんな歳だからね、軽めに済ませようと思うよ。家に帰ってハンバーガーを食べてたとバレたら怒られてしまうけど、小さい時からこの店でハンバーガーを食べてきたんだ。しょうがないだろ?」

やけに馴れ馴れしく話してくるなと思いながらも、白鳥は曖昧に「うん」にも「そうだ」にも聞こえるような声で応えました。

「そうだった、まだ名前も言ってなかったね、すまないね。でも今度会う時までとっておこう。ソッチのほうが楽しみが増えるってものだよ。この店にはお忍びで来ていてね。せっかく順番待ちで出会ったんだからさ、話していかないかい?」

白髪はその後も白鳥に質問しますが、白鳥はうんざりしていたためおざなりに応えましたが、


「日々は楽しいかい?」


と聞いてきた時はどきりとして言葉が喉を通らなくなりました。まだまだ白髪は根掘り葉掘り聞いてきますが、ずっと白鳥は黙ってしまいました。そのままコーラを買って店を出ようと白髪の横を通り過ぎる時、

「またすぐに会えるさ」と言われましたがなんのことだかさっぱりわかりません。


店を出るとまだ物乞いはいました。

「どうかお恵みを、教え子を救いたいのです」物乞いは老人のようでした。

「このままでは教え子が死んでしまうのです。今日を過ぎてしまっては遅いのです」絡まれては面倒だと白鳥は逃げます。

「御慈悲を!」物乞いが追いかけてきました。鍛えているのか思ったより早いです。

「お助けください!」白鳥は普段から運動をしていないため追いつかれそうになります。


逃げるさなか、

チラホラと、

地面に寄生する虫、

路肩で死に絶える寄生虫、

互いに寄生しあう者。



ヒィヒィ言いながらもなんとか自分の壁まで帰ることが出来ました。壁の中に戻れた時には、冷や汗で身体が冷たくなっていました。

「なんだったんだ、今のは」白鳥は自分の壁に戻ってこれたので心の余裕が戻ってきました。外では物乞いが自分を探しているのが見えます。

「何も落としては無さそうだ。それに怪我もない」窓のむこうでなにかしら物乞いが叫んでいます。白鳥はなんで物乞いが自分を追いかけてきたのか考えます。

が、そんなことより楽しいことをしようとネットに潜ります。王子に連絡すると返事がすぐ返ってきました。近頃近所に青い鳥が逃げ出したらしく捕まえると運勢がよくなったりお金ががっぽがっぽ入ってきたりするようです。

「どうせ嘘だろうな。」そのままダラダラとネットを見ていると、物乞いから逃げる自分の姿が晒されていました。白鳥はこれまでもたびたび晒されてきましたが、今回は自分の壁まで撮影されています。

「まあ今回も晒したことを後悔させてやるか」

と意気込んだのもつかの間、外を見るとズラーッと寄生虫たちが凸を待っています。物乞いまで一緒です。

「人をコンテンツにして弄びやがって、今に見てろ」と白鳥が言ってすぐ、壁が壊され、凸たちが白鳥に寄生してきました。肉はむしられ血は吸われ、白鳥は血みどろになりながらも壁があった場所から逃げました。行く手には寄生虫がうじゃうじゃ蠢き、後ろからも追っ手がせまってきています。白鳥はボロボロになりながらも行く手を遮るものを払い除け進みます。


なぜ自分だけがこんな目に遭わなければならないのかと怨みヤケになっていると、寄生虫の間から空に青い何かが見えました。

よく見ると身体が青い鳥が飛んでいます。王子から聞いた青い鳥の話を思い出し、白鳥は一縷の望みをかけ鳥を追いかけ始めました。

自分は白鳥だ、みにくいアヒルなんかじゃないし空だって飛べる。

しばらく走ると崖が目の前に広がり、眼下は奈落、後方は寄生虫、上空は青い鳥。白鳥は青い鳥を捕まえようとしました。

跳び、

手を伸ばす、

つかめない。

そして奈落へ落ちていきます。自らと共に寄生虫が落ちてゆくのを見ながらポツリと「終わったな」と白鳥はつぶやきました。

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