目覚め
「やはりダメでしたか…。」
ルート様はスッと立ち上がるとこちらに近づいて来る。
「うん…なんの異常も見当たらなくて手の施し様が無い。バイオレット男爵には申し訳ないけど、私の力ではこれが限界だよ…。」
僕達はヒロインをジッと見つめ、溜息を吐いた。
「何故、バイオレット様は目覚めないんでしょう…。」
「「…。」」
誰も答えを出せない。
「トルー、悪いけど私はこれで失礼するよ。このままここに居ても私に出来ることはないし、まだ別件でやり残したことがあるから。」
そう言ってルート様は出て行ってしまう。それを追うようにサンバックも付いて行く。扉を出る瞬間、サンバックは僕を気にするようにチラリとこちらを見たが、結局何も言わず出て行ってしまった。
僕は再びヒロインの近くに腰掛けるとハァ~と溜息を吐きながら彼女の寝顔をジッと見つめる。
僕がその状態でウトウトしていると、何かが動く気配を感じた。パッと目を開けるとヒロインが目を覚ましている。思わず「バイオレット様!」と叫ぶ。
しかし、彼女は僕の顔を苦々しく睨み付けると「なんでアンタなのよ!」と怒鳴りつけた。
その瞬間、何故か目眩を覚える。
「(えっ…なに…?)」
彼女は身体を起こし、ワナワナと震えると「どうして⁉︎どうしてルート様は居ないの⁉︎」と戦慄く。
「あっ…あの…ルート様は先程までいらっしゃったのですが…。」
僕は頭を抱えながら告げる。
「そんなことどうでもいいのよ!今!今いないと意味ないの!その為にあんな魔法を使ったのに!!!なんで…!なんでアンタがこの場にいるのよ…!」
彼女は自分の毛布をバシバシと叩く。その目には涙も浮かんでいた。
「すっ…すみません…。僕が側にいてしまって…あの…お父様とお母様にバイオレット様が目を覚ましたことを知らせてきます…。」
僕はフラつく足で立ち上がると早々に部屋を後にした。
「(何…なんだか頭がボーッとする…若干、目も霞んできた…。)」
僕はなんとかバイオレット男爵に彼女が目覚めたことを伝え、屋敷を出た。バイオレット男爵は最後まで頭を下げ見送ってくれたが、僕はイモーテルの待つ馬車に乗り込むと安心したように気を失った。




