模擬実戦
30分後ー…。
「…止め!」
サンバックはそう言うと構えるのを止め、ハァ~と溜息を吐く。
「トルー…相手を怖がりすぎだ。今回は影が相手だから向こうから仕掛けて来ないが、実戦ならどうだ?相手はお前に気なんか遣ってくれないぞ。隙があればここぞとばかりに攻撃してくる。キツい言い方をするが、このままだと実戦では即死だ。」
彼の言葉にゴクリと生唾を飲む。
「お前の体格は正直、実戦で相手に大ダメージを負わすのは難しい。だが、お前には魔法がある。人より飛び抜けて魔力がなくてもタイミングや応用さえすれば、そこまで高くない魔力でも実戦ではかなり使えるんだ。俺の隊でもそんなやつがごまんと居る。だから自信を持って攻撃して来い。」
そしてサンバックは再び構えた。
「さっき教えたやり方で俺の隙をついて魔法を使え。」
「うん、わかった。」
その後何度かサンバックに相手をしてもらったが結局、僕が彼にダメージを与えれたのはたった1度だけ。
その結果に僕が落ち込んでいるとサンバックは「よく頑張ったな。」と褒めてくれる。しかし、僕の心は晴れない、何故なら彼は1度も魔法を使っていないからだ。
僕は悔しさを噛み締めながら呟く。
「兄様…こんなんじゃ全然ダメだよ…魔法も使ってない兄様に傷一つ負わせられないなんて…。」
するとサンバックは「何言ってんだ!」と笑うと僕の頭をガシガシと撫でる。
「俺、これでも騎士団では強い方なんだぞ?俺に1度でも攻撃できただけでも上出来だ。それにトルーに負けたら俺はルート様の護衛を下ろされる。」
たっ…たしかに。騎士団でもかなり上位のサンバックに1度でも攻撃出来ただけでも凄い方なのかも…。
「そっ…そっか!じゃあ明日はなんとかなるかな!?」
「そうだな、大事なのは影の動きをよく見ること。避ける相手にむやみやたらに魔法を使わないこと、そういうのも評価になると思うぞ。」
「うん!ありがとう、兄様!なんか元気出てきた!」
僕はさっきまでの落ち込んでいた気持ちから一変、サンバックに言われると何故か出来る気がしてきた。
「よし、じゃあ今日はもうこれくらいにして夕食にしよう。そろそろ時間だ。」
「あっ!そうだね、急がなくっちゃ。兄様、ありがとう。明日の試験、頑張ってくるね。」
「ああ、期待してる。」
彼はそう言って僕の頭を優しく撫でると微笑んだ。その顔にドキリとする。いくら見慣れた顔とはいえ美形には変わりない。僕は未だにこんなステキな人が自分を好きだなんて理解出来ずにいた。




