羞恥
僕はオール様の目元から手を下ろし、頰を撫で唇を親指でなぞる。僕の一挙一動に狼狽ながら顔を赤くする彼を見ていると笑みがこぼれる。
「あっ…うっ…トルー君…?」
オール様は恥ずかしそうではあるが僕から離れないので嫌ではないのだろう。
「オール様…先程の返事をしても良いですか?」
「う…うん。でも恥ずかしいから少し離れて?」
僕は彼の言う通り少し距離を取る。しかし、ふと下を見るとオール様は僕に離れてと言ったにも関わらず僕の上着の裾を握っている。そんな彼の可愛い行動にフッと笑ってしまう。
僕はサンバックやイモーテルに告げた様に今は恋愛をする気ではないこと、少なくとも後1年は待ってもらわないといけないことを告げる。それでも良いならまたこうやって会いましょうと誘った。
すると彼は「じゃあランドモス様やマリタイム様の噂は…?」と呟く。「只の噂ですよ。」と微笑むと「よかった…。」と再び涙を溜め始めた。
僕は慌てて近付くと彼の頰を両手で挟み「ほら、また涙が…。」と拭う。
「んっ…ごっ…ゴメンね、ホッとしたら涙が…。」
涙を流しながらも告げる彼の発言にこの人は本当に僕のことを好きなんだと感心する。そしてそれと同時にこの気持ちをヒロインから奪ってしまった罪悪感が押し寄せた。
「(本来ならこの気持ちはヒロインのものなのに…。)」
「トルー君?」
僕の動きが止まったことに不審に思ったのかオール様が話しかけてくる。
僕は被りを振ると「なんでもないですよ。オール様、今なら僕の胸で泣いてもいいですよ?」と戯けてみる。「何それ。」とオール様は笑うと僕の胸に抱きついてきた。
その後、オール様と別れた僕は馬車で帰宅しサンバックの帰りを待った。
何故なら明日の実戦のアドバイスをもらいたかったからだ。
僕の属性は風でサンバックは水なので魔法に関してのアドバイスはもらえないが、体術に関しては王子を守る騎士なだけあって右に出るものはいない。明日の実戦のテストは言われた魔法を繰り出すだけでなく、先生の用意した敵…といっても魔法で作り出したものなのだが、と戦わなければならない。
暫くしてサンバックの帰宅を受け玄関に迎えに行く。
「兄様!おかえりなさい。」
「おお、ただいまトルー。」
サンバックは嬉しそうに荷物を従者に預け、こちらに近づいて来る。
「珍しいな、トルーが出迎えてくれるなんて。」
「フフッ、たまにはね?」
と2人並んで歩き出す。




