婚約者候補
「姉様…本気なの…?
(えっ?こんな展開だったっけ…?あっ!そういえばゲームが始まった当初はブルーマリーとルート様は婚約してたんだ…!)」
「私は本気よ!今まであんな美しい人に出会ったことがないわ!早い内から動かないと皆から出遅れちゃう…トルー!私は今からお父様のところに行って頼んでくるから、かくれんぼはこれでお終いね、じゃあ!」とブルーマリーは早々に部屋を出て行こうとする。
しかし、それを僕は必死に引き止めた。
「姉様!とりあえず落ち着いて!父様はまだお仕事から帰ってきてないよ!それに姉様、まだ7歳なんだからそんなに早く決めなくても…!」
「公爵家の私なら婚約者に相応しいと思わない?これ以上ない好条件だと思うの。私と対等にいれる人って他の公爵家か王族の方だけでしょう?それなら私だって十分な立場じゃない!?」
ブルーマリーは興奮して僕の話をあまり聞いていないようだ。
「たっ…たしかにそうだけど、僕はもっと色んな人を見たほうがいいんじゃないかなぁって…。」
「何よ?私がルート様の婚約者になるのが反対なの!?」
「えっ…いや…そうじゃなくて…。
(うわ~!どうしたら話を変えれるんだ!?)」
「なら、いいじゃない?別に私とトルーがルート様を取り合うわけじゃないんだし。」
「うっ…うん…そうだね…。
(説得失敗…。)」
その晩の夕食時、早速ブルーマリーは父様にトール様の婚約者候補の件をお願いしていた。言われた当初、父様は驚いてはいたが、可愛い娘の頼みを二つ返事で了承していた。
僕はそれを見ながら「(マズい…このままいくと婚約者になってしまう…。)」と不安に駆られていた。
部屋に戻って来てからというもの、僕は次の作戦を考える。
ルート様の婚約者の件に関しては防ぎようがないが、逆にルート様に好きな相手が出来れば婚約者といえどもスムーズには婚礼に至らないだろう。勿論、こんな貴族社会だから本当に好きな人と結ばれるかはわからない、しかし、無いよりマシだろう、という考えで僕は行動することにした。
まずはルート様と知り合いになろう。
今日のことで少なからずルート様には好感を与えられたと思うので、徐々にだがルート様の好みの女性などを聞き出してそれに近い女性を近づければ少しは興味を持ってくれるかもしれない。
確か、ルート様はまだ12歳。成人を迎えるまではもう少しある。王子ということでなかなか仲良い女性もいないかもしれないが、そこはまぁなんとかしよう。
「(共通の趣味とかから仲良くなってくれれば1番いいんだけどなぁ…。)」
僕はそう気合いを入れて、サンバックの部屋を訪れた。
サンバックは夜遅くの僕の訪問に少し驚いていたが、姉様のことを告げると快く中に入れてくれた。
「兄様…姉様のこと、どう思う…?」
僕がそう聞くとサンバックは難しそうな顔をする。
「そうだな…あの様子じゃ本気なんだろうが、俺はあんまりおススメできないな…。」
「どうして…?」
「婚約者になるぐらいならまだいいんだが、このまま本当に婚約してブルーマリーが王族に嫁ぐとなれば命を狙われやすくなる…それは兄として防ぎたいものだな…。」
「(サンバック…めっちゃ良い人!!!)
えっ…でもルート様は第二王子だけど大丈夫なの?」
「後継者争いのことか…?…ああ…。トルー、今から言うことはいずれお前の耳にも入るだろうから言っておくが、ルート様の前では決して口に出してはいけないぞ。約束出来るか?」
「…うん!
(何なんだろ…?)」
「…実はルート様は王妃様の本当の息子ではないんだ、側妃の…それも侍女から生まれた方だ。よって基本的には跡継ぎの候補からは外される。王妃様にはご長男のシスト様がいらっしゃるからその方が正式な跡継ぎだ。ルート様は幼い頃からそれを理解し、自分にその役目がないことはわかっている。だから、他の者とも争いなく過ごせているんだ。勿論、詳しいところはわからない、裏では色んな争いがあるかもしれない。しかし俺はルート様の友として…そして護衛として彼を護っていきたいと思っている。」
僕はその話を聞きながら不謹慎にも「(姉なら護衛×王子、サイコー!)」とか叫んでるんだろうな、と思っていた。まぁ、こんな設定、乙女ゲームにはなかったけど。
「…そう…なんだ…王族も色々と大変なんだね…?」
「まぁ…他人事ではないんだがな…。」というサンバックの呟きを僕は敢えて聞いていないフリをした。