豹変
それから少しするとガチャと扉を開く音が聞こえる。そちらを向くと何かを探すように周りを見渡すヒロインと目が合った。僕は咄嗟に目を逸らす。
昨日の今日じゃやっぱり気まずい…でも今ので余計気まずくなっちゃった…。
しかし、彼女は気にもしていないか僕の近くに腰掛ける。
運悪く図書館の利用者は僕とオール様、そしてヒロインしかいない。僕はテスト前ということもあり、もっと利用者が来館し、ヒロインが来ても利用者に紛れて監視できるかと思っていたがゲーム仕様なのか僕らの邪魔をする者は誰一人としていない。というか、ヒロインからすれば僕が邪魔者である。僕はそれに気付き咄嗟に立ち上がる。
しかし「バルサム様。」と横から話しかけられ、その作戦は失敗に終わった。
「あっ…はい。」と元いた椅子に座りなおす。
「…昨日はありがとうございました。あの時は動揺のあまりお礼も言えず、失礼な態度を取ってしまいました…お許し下さい。」
と彼女はしおらしく頭を下げる。
僕はその態度に驚きながらも「いや!全然気にしてないので頭を上げて下さい。昨日は大変でしたね。」と声を掛ける。
意外だ…こんなに反省してるなんて…てっきり怒ってるのかと思ったけど…僕の勘違い…?
彼女は僕の言葉に頭を上げると先程のしおらしさとは一変、不満げな表情に変わる。
「そうなんです!生徒会の方々が凄い形相で詰め寄ってきて…!確かに私は悪いことをしました…でも私にも事情があったんです!バルサム様は分かって頂けますよね!」
なんだ…なんだ!?どうしたんだヒロイン!?
僕は彼女の豹変っぷりに驚いて声が出ない。
「私にはどうしても成し遂げなければいけない目的があるのです…。ですから、それを阻むものは、はいじ…ああいえ、どうにかしないといけなくて…。」
今、排除って言おうとした!?
「昨日はバルサム様が庇って下さって大変嬉しく思いました。ありがとうございます。では、私は勉強を終えましたので、これで失礼致します!あっ!オール様~!」
とヒロインは僕の返答は無視でオール様の元へ駆けて行く。
僕はそれに呆気にとられながらも彼女を目で追った。当たり前だが、その先には迷惑そうに顔を歪めるオール様がいる。
「(ああ…オール様、可哀想…。どうしよう、声を掛けるべきか…でもヒロインにとっては好感度を上げるチャンスだし…!)」と1人格闘しているとオール様に目で助けを求められる。
やっぱり嫌なんだ…!
僕はそう判断し、ヒロインには申し訳ないが声を掛けることにした。




